パレット積載ロボに「AI後付け」、物流問題の現実解に挑む
パレットは物流に不可欠であり、毎日、多くの荷物が載せられて運ばれている。米新興企業は、AIによる計画立案と伝統的な最適化の手法を組み合わせることで、パレットに荷積みするロボットアームの訓練をより短い期間で終了し、動作計画を瞬時に立案できるソフトを開発した。 by James O'Donnell2024.07.17
- この記事の3つのポイント
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- パレット積載作業を大幅に効率化するAIソフトを米スタートアップが開発
- 深層学習と最適化を組み合わせ、ロボットの動作を高速に計算
- 従来は数カ月かかっていたロボットの訓練を1日に短縮可能
ほぼすべての商品はあなたの家に届く前に、パレットに載せられてグローバルなサプライチェーンを横断する。米国だけでも20億枚以上のパレットが流通しており、年間4000億ドル相当の商品を載せて輸出されている。しかし、それらのパレットに箱を積み込む作業は、昔から変わっていない。大きな負荷と同じ動きの繰り返しは、作業員を高い労災のリスクにさらす。まれにロボットが使われることもあるが、プログラミングには1980年代からほとんど変わっていないハンドヘルドコンピューターが使われており、プログラミングを完了するまでに何カ月もかかる。
カリフォルニア大学バークレー校の研究室からスピンアウトしたスタートアップのジャコビ・ロボティクス(Jacobi Robotics)は、人工知能(AI)指揮統制ソフトウェアによって、このプロセスを大幅にスピードアップできると主張する 企業だ。研究チームは、最も一般的な倉庫作業の1つであるパレット積載作業を、主にモーション・プランニングの問題ととらえ、解決に取り組んだ。ロボットアームにさまざまな形状の箱を安全にピックアップさせ、行き詰まることなく効率的にパレットへ積み上げさせるには、どうすればよいか? そして、その動きの計算処理も、すべて高速でなければならない。なぜなら、工場の生産ラインではかつてないほど多種多様な製品が生産されているからだ。つまり、箱の形状と大きさの種類が増えているのだ。
ロボット工学者であるケン・ゴールドバーグ教授をはじめとするジャコビの創業者たちは、多くの試行錯誤を経てその問題を解決したと話す。ゴールドバーグ教授らが2020年にサイエンス・ロボティクス(Science Robotics)誌で発表した論文の研究に基づいて構築された同社のソフトウェアは、パレット積載ロボットアームの主要メーカー4社と連携できるように設計されている。このソフトウェアは深層学習により、アームが商品をパレット上に積み上げる方法の「原案」を生成する。次に、より伝統的なロボット工学の手法である最適化などを用いて、その動作を問題なく安全に実行できるかチェックする。
ジャコビは、顧客が現在利用している古いロボット訓練手法を置き換えることを目指している。従来の方法では、「ティーチング・ペンダント」と呼ばれるツールを用いて、ロボットの動作をプログラミングする。顧客は通常、ロボットを手作業で指導し、個々の箱をどのようにピックアップしてパレットの上に置くか、実際に示す必要があり、すべての動作をコーディングするのに数カ月かかることもある。ジャコビ社のAI主導型ソリューションであれば、その期間を1日に短縮し、動作の計算も1ミリ秒未満で完了できるという。同社によると、この製品は7月後半に発売予定だという。
AIを用いるロボット工学には何十億ドルもの資金が注ぎ込まれているが、その盛り上がりのほとんどは、多種多様なタスクに対応できることが期待される人型ロボットなどの次世代ロボットに向けられている。そのおかげで、たとえばフィギュア(Figure)は、マイクロソフトやオープンAI(OpenAI)などの投資家から6億7500万ドルを調達し、2月には評価額が26億ドルに達した。このような背景からすれば、AIを使ってより優れた箱積みロボットを訓練するのは、かなり基本的なことに感じられるかもしれない。
実際、モクシー・ベンチャーズ(Moxxie Ventures)の主導で実施されたジャコビのシード資金調達ラウンドは、500万ドルという比較的ささやかななものである。しかし、有望だが実現に何年もかかる可能性があるロボット工学のブレークスルーが誇大宣伝される中で、パレット積載作業は、AIが短期間で解決するのに最適な問題かもしれない。
「私たちは非常に実用的なアプローチをとっています」と、ジャコビの共同創業者兼CEO(最高経営責任者)のマックス・カオは言う。「それらのタスクは身近にあるため、私たちの技術は世の中の挑戦的なテクノロジーよりも、短期間で多く採用されます」。
ジャコビのソフトウェア製品には、顧客が設定の複製を作成できるバーチャルスタジオが含まれており、使用しているロボットのモデル、ベルトコンベアで流れてくる箱の種類、ラベルが向いている方向などのファクターを取り込むことができる。たとえば、スポーツ用品を運ぶ倉庫では、テニスボール、ラケット、ウェア類が混在したパレットの最適な積み方を見つけ出すために、このプログラムを使うことが考えられる。その後はジャコビのアルゴリズムが、パレットに荷積みをするためにとるべきロボットアームの多くの動きを自動的に計画し、その指示をロボットに伝達する。
このアプローチは、AIが提供する高速コンピューティングのメリットと、より伝統的なロボット工学手法の正確さを融合させていると、ミシガン大学のロボット工学教授のドミトリー・ベレンソンは言う(ベレンソン教授はジャコビの関係者ではない)。
「彼らはこの分野で非常に合理的なことをしています」と、ベレンソン教授は言う。現代のロボット研究の多くはAIに大きく賭けている。深層学習を使ってロボットに所定の動作やタスクを過去事例から学習させることで、より多くの手作業による訓練を補強したり置き換えたりすることが期待されている。しかしジャコビは、深層学習によって生成された予測を、より伝統的な手法の結果と確実に照合することで、ミスがより起こりにくい計画アルゴリズムを開発していると同教授は話す。
その結果もたらされるプランニング速度は、「この技術を新たなカテゴリーに押し上げようとしています」と、ベレンソン教授は付け加える。「動きの計算にかかる時間は、短すぎて気づくことさえないでしょう。これは、一つひとつの動作停止が遅延を意味する産業環境において、非常に重要なことです」。
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- 自律自動車や外科用ロボット、チャットボットなどのテクノロジーがもたらす可能性とリスクについて主に取材。MITテクノロジーレビュー入社以前は、PBSの報道番組『フロントライン(FRONTLINE)』の調査報道担当記者。ワシントンポスト、プロパブリカ(ProPublica)、WNYCなどのメディアにも寄稿・出演している。