現在わずか10%、プラスチックのリサイクルが進まない理由
プラスチックのリサイクル率は現在10%に過ぎず、ほとんどが廃棄されている。ある研究チームがポリエステルを含む混合繊維の衣類をリサイクルする手法を開発したが、産業として成り立つほど規模を拡大させるのは難しそうだ。 by Casey Crownhart2024.07.19
- この記事の3つのポイント
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- プラスチックリサイクルの現状は理想とは程遠い
- 先進的リサイクル技術の開発には多くの課題がある
- リサイクルによる製品の劣化は解決が難しい問題だ
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
プラスチック製の水のボトルやテイクアウト用の容器の底を見てみると、3つの矢印でできた三角形のような閉じたループのロゴがあるかもしれない。「追いかける矢印」とも呼ばれることもあるこのスタンプは、それが記されたパッケージがリサイクル可能であることを示すために使用される。
これらの小さな矢印は、素敵な物語を暗示しており、材料が新しいボトルなどの製品にリサイクルされ、再利用の無限のループが形成されるというような世界を描いている。しかし、今日のプラスチックリサイクルの現実は、その通りにはなっていない。これまでに製造されたプラスチックのうち、リサイクルされているのは10%程度に過ぎず、大部分は埋め立て地や自然環境の中に廃棄されているのだ。
研究者たちは、先進的リサイクルや化学的リサイクルとも呼ばれる新たなリサイクル方法を考案することで、この問題の解決に取り組んでいる。本誌のサラ・ワードは、研究者らが化学的プロセスにより一般的なプラスチックであるポリエステルを含む混合繊維の衣類をリサイクルしようとしている新たな研究について、最近記事を執筆した。
この記事では、これらの新しいテクノロジーが理論上なぜそれほど魅力的なのか、そして人間が作り出した極めて大きな問題を解決するために、どれほどの努力が必要なのかが示されている。
従来型のリサイクルにおける大きな課題のひとつは、慎重な分別が必要なことだ。一定の状況下では(困難ではあるが)分別は可能だ。人間や機械が、牛乳瓶やソーダのボトル、テイクアウト用容器を分別することができる。しかし、その他の物について言えば、その構成物を分類することはほぼ不可能だ。
衣類を例に挙げよう。衣類のリサイクル率は1%にも満たないが、その理由のひとつには、衣類の多くが天然繊維だけでなく合成繊維も含むさまざまな素材の混合物で作られていることがある。あなたが今着ているシャツの素材は綿とポリエステルの混紡糸かもしれないし、あなたの水着にはおそらくナイロンとエラスタンが含まれているだろう。私は今作っているかぎ針編みの作品に、ウールとアクリルの混紡糸を使っている。
台所から出るゴミのリサイクルのために分別するのと同じように、布地に含まれる様々な素材を手作業または機械で分別することは不可能だ。そこで、研究者たちは化学的手法を用いた新しい分別方法を模索している。
サラが記事の中で紹介しているある研究では、科学者たちが綿とポリエステルの混紡糸で作られた布地をリサイクルできるプロセスを実証した。このプロセスでは溶剤を使って約15分でポリエステルの化学結合を解く。一方、他の素材にはほとんど影響を与えない。
もしこれが迅速かつ大規模に実現すれば、将来的には施設で混紡繊維からポリエステルを溶解し、他の繊維から分離し、理論的にはそれぞれの構成素材を、その後別の製品に再利用できるようになるかもしれない。
しかしこのプロセスには、他のリサイクル方法にもよく見られるいくつかの課題がある。まず、産業として成り立つほど大規模なものに拡大させることが困難だ。というのも、サラが取材した研究者も指摘しているように、このプロセスで使用される溶剤は高価であり、また使用後に回収するのも大変だ。
リサイクル方法は数あるが、多くの場合、何らかの形で製品を劣化させてしまう。これは解決が難しい問題だ、これは従来の機械的リサイクルの大きな欠点でもある。多くの場合、リサイクルされたプラスチックには、新品のプラスチックのような強度や耐久性がない。今回の研究に関しては、実際は問題はプラスチックではなく、研究者が保存しようとしている他の素材にある。
繊維リサイクルプロセスの初期工程では、化学物質を浸透させてプラスチックを分解するために、衣類を非常に細かく切り裂く作業が発生する。この工程により綿繊維も同様に切断されるため、繊維が短くなりすぎて新しい糸に紡ぐことができない。そのため、この工程を経た綿は、新しいTシャツではなく、分解されてバイオ燃料など他のものに使用される場合などもある。
将来的には改善の余地がある。研究者たちは、より長い綿繊維を残せるように布地の分解方法を大きく変えようとした。しかし、報告された研究結果によれば、これまでのところ化学的プロセスではこれがうまくいっていないということが示されている。
この話を聞いて、私は プロバブリカ(ProPublica)に掲載された最近の特集記事について考えた。その特集記事では、リサ・ソングが今日の商業レベルでの高度リサイクルの実態を取り上げている。彼女は、熱を利用してプラスチックをその構成要素へと分解する熱分解に注目した。記事にもあるとおり、業界はこうした新たな手法を私たちが抱えるプラスチック危機の解決策として売り込んでいるが、現在のテクノロジーの現実は私たちが想像する理想とは程遠い。
新たなリサイクル手法は、ほとんどがまだ開発段階にあり、有用な素材を高い割合で回収して再利用できるようにするのは本当に難しい。これらすべてを、わずかでもプラスチック問題の解決に役立つほど大規模に実施するのは極めて難しい。
次にこの小さな矢印を見たときに思い出してほしいことだ。
MITテクノロジーレビューの関連記事
混紡繊維リサイクルへの取り組みについて、全文はこちら。
2022年の記事で、私は化学反応を利用してプラスチック混合物をリサイクルするその他の取り組みについて書いている。
プラスチック危機という難しい問題の現状について、詳しくはこちらの特集記事を。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。