衣類のリサイクル率は1%未満にすぎず、残りのほとんどは埋立地に捨てられるか、燃やされてしまう。米国の研究チームは、混合繊維の衣類を、あらかじめ分別しておかなくても再利用可能・リサイクル可能なパーツに分解できる新しいプロセスによって、この状況を変えようとしている。
「現代の複雑な衣類をリサイクルするには、より良い方法が必要です。私たちは服を買うのを決してやめないのですから」。デラウェア大学の化学専攻の大学院生、エルハ・アンディニは言う。アンディニは、7月3日にサイエンス・アドバンシス(Science Advances)誌で発表されたこのプロセスに関する研究論文の主執筆者である。「私たちは、繊維製品リサイクルのクローズドループ・システムを作ることを目指しています」 。
多くの衣類は、天然繊維と合成繊維が混合されてできている。それらの繊維は一度結合されると、分離するのが難しい。そのことがリサイクルに問題をもたらす。たいていの場合、ガラスやアルミニウム、紙の分別と同じように、繊維製品を均一なカテゴリーに分類する必要があるからだ。
この問題に取り組むため、アンディニらの研究チームはある溶剤を使い、綿とナイロンはそのままに、ポリエステル繊維の化学結合だけを切断することに成功。さらに、マイクロ波エネルギーを利用し、酸化亜鉛触媒を加えることで、このプロセスをスピードアップした。この組み合わせにより、従来のプラスチック・リサイクル手法では1時間以上かかる分解時間が、15分に短縮される。ポリエステルが最終的に分解される物質は「BHET(ビス-2-ヒドロキシ・エチルテレフタレート)」と呼ばれる有機化合物で、理論的にはもう一度ポリエステルに戻すことができる。これまでにも同じような手法が分別済みプラスチックをリサイクルするために使用されてきたが、混合繊維製品を分別せずにリサイクルするのに使用されたのは初めてである。
マイクロ波エネルギーを利用することで、この手法のプロセスがスピードアップされるのに加え、時間の短縮とエネルギー消費量の削減によって二酸化炭素排出量も削減できると、アンディニは言う。
とはいえ、このプロセスの規模を拡大するのは難しいかもしれない。そう指摘するのは、この研究には携わっていないペンシルベニア州立大学の化学研究者、ブライアン・ヴォクト教授だ。ポリエステルの分解に使用される溶剤は高価であり、しかも使用後の回収が難しいからだ。さらに、アンディニによれば、BHETは簡単に衣類に戻せるものの、残りの繊維はどうすべきかということについてはあまり明確になっていないという。特にナイロンは扱いが厄介な可能性がある。化学リサイクル手法によって生地が著しく劣化してしまうからだ。
「私たちは化学エンジニアなので、このプロセスを全体として考えています」と、アンディニは言う。「うまくいけば、各パーツから純粋な構成成分を取り出し、それらを糸に戻して再び服を作ることができるでしょう」 。
起業家向けの研究奨励金を受けたばかりのアンディニは現在、このプロセスを商業化するためのビジネスプランを練っている。今後数年以内に、この衣類リサイクル手法を研究室から現実の世界に持ち出し、スタートアップ企業を立ち上げるのが目標だ。それが、埋立地に大量に捨てられている繊維廃棄物の削減に向けた重要な一歩となる可能性がある。「資金を調達できるかどうかが問題になるでしょう。しかし私たちはそのことに組んでおり、非常に期待しています」 。