KADOKAWA Technology Review
×
水力発電の環境負荷を軽減、魚と共生する次世代タービン
Natel
気候変動/エネルギー 無料会員限定
How fish-safe hydropower technology could keep more renewables on the grid

水力発電の環境負荷を軽減、魚と共生する次世代タービン

再生可能エネルギーの中でも、水力発電は最も多くの量の電力を生み出している。だが水力発電にも問題はある。タービンが魚を傷つけ、流域の生態系に悪影響を与えるのだ。この問題への解決策となり得るタービンが登場している。 by Casey Crownhart2024.07.05

この記事の3つのポイント
  1. 水力発電は普及している再エネだが、魚の生息地に悪影響を及ぼす可能性
  2. ナテル・エナジーは魚に安全なタービンを開発し、水力発電所に導入
  3. タービンだけでは環境問題は解決できないものの、重要な選択肢の1つ
summarized by Claude 3

水力発電は世界をリードする再生可能エネルギーだ。2022年時点で水力発電の発電量は他のすべての再生可能エネルギーの合計を上回っている。だが送電網のクリーン化に役立つ水力発電も、魚にとっては必ずしも良いものとはいえない。

河川に巨大な貯水池(ダム)を作ると、魚の生息地を変えてしまうおそれがある。また、一部の種(特に長距離を移動する種)にとっては、水力発電施設が危険、または乗り越えられない障壁となることがある。米国、カナダ、欧州など世界の一部地域では、政府が水力発電が潜在的に持つ危険性から生態系を保護する政策を施行している。

新たな環境規制により、古い施設は高額な改修工事を強いられたり、完全閉鎖に追い込まれる可能性がある。これは深刻な問題だ。水力発電所が送電網から除外されてしまうと、気候変動対策に役立つ、柔軟かつ低排出量の発電源が失われてしまうからだ。魚に危害を加えないタービンなどの新テクノロジーは、電力会社や規制当局が河川生態系の健全性と世界的な気候目標のバランスを取るのに役立つだろう。

ここでナテル・エナジー(Natel Energy)のような企業の出番となる。共同設立者で最高商務責任者(CCO)のジア・シュナイダーによると、同社は「高い性能」と「魚の生存」という2大目標を掲げて発足した。

水力発電所では、発電設備を通り抜ける水が、設備内にあるタービンのブレードを動かす力で発電する。ナテル・エナジーはこのタービンを新たに設計している。シュナイダーCCOによれば、従来のタービン・ブレードは秒速30メートル(時速96~112キロ)もの速さで動くことがある。まっすぐな薄いブレードがこれほどの速さで動き、魚に衝突すれば「ひどい結果になることは明らかです」と、シュナイダーCCOは言う。

ナテル・エナジーが設計したタービンでは、すさまじい速さで動く設備が、魚にとって致命的になる接触を起こさないということに重点を置いている。ブレードの先端には厚みがあり、前方にある水を押し出すことで「淀みゾーン」と呼ばれる「魚のためのエアバッグ」を作り出すのだとシュナイダーCCOは説明する。また、ブレードを湾曲させているため、タービンに魚を巻き込んでもブレードに直撃することはない。

https://youtu.be/ZsKrYc15w5k?si=mRaW9fRtTnLGE_W7&t=103

同社はアメリカウナギ、エールワイフ(ニシン科の魚)、ニジマスなど、さまざまな魚種でタービンを試験している。最近実施されたアメリカウナギを使用した試験では、ナテル・エナジーのタービンを通過したアメリカウナギのうち99%以上が、48時間後も生存していた。比較対象として2010年に実施された試験の例を挙げると、目印を付けたヨーロッパウナギのうち、水力発電所のタービンを通過できたのはわずか4 …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. How a top Chinese AI model overcame US sanctions 米制裁で磨かれた中国AI「DeepSeek-R1」、逆説の革新
  2. Why the next energy race is for underground hydrogen 水素は「掘る」時代に? 地下水素は地球を救うか
  3. OpenAI has created an AI model for longevity science オープンAI、「GPT-4b micro」で科学分野に参入へ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る