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生成AI時代のゲームは神経科学の研究にどう役立つか?
Stephanie Arnett/MIT Technology Review | Envato
How AI video games can help reveal the mysteries of the human mind

生成AI時代のゲームは神経科学の研究にどう役立つか?

神経科学者や心理学者は以前から人間の心を研究するためにビデオゲームを活用してきた。大規模言語モデルを活用したAIビデオゲームは、さらに多くの謎を解くツールとなり得るのか。 by Jessica Hamzelou2024.07.09

この記事の3つのポイント
  1. 大規模言語モデルを使ったAIゲームは人間の心の研究に役立つ可能性がある
  2. 人々の社会的行動や狩猟行動を低コストで研究できる可能性
  3. AIとの関係性に人々がのめり込む現象も研究対象として興味深い
summarized by Claude 3

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

今週、私は思考について考えていた。本誌のニアル・ファース編集者が書いた、ビデオゲームでの人工知能(AI)利用に関する最近の記事を読んだことがきっかけだった。その記事は、より強い没入感をプレイヤーに提供するため、ゲーム企業各社がAIを自社製品に組み込もうとしている様子を紹介している。

それらの企業は大規模言語モデルを応用することで、詳細な生い立ちを持つ新たなゲームキャラクターを生み出している。プレーヤーとさまざまな形で関わり合うことができるキャラクターだ。性格の特徴、キャッチフレーズ、その他の詳細をいくつか入力すれば、台本なしに同じことを繰り返すことなくいつまでもプレイヤーと会話を続けられるキャラクターを作り出せる。

そのことが、私を考え込ませた。神経科学者や心理学者は以前から、人間の心について学ぶ研究の道具としてゲームを利用してきた。例えば、人々がどのように学習するのか、どのように動き回るのか、どのようにして他人と協力するのかといったことを研究するために、数多くのビデオゲームが利用されてきた。研究のために、ビデオゲームを特別に設計した例もある。AIビデオゲームによって、私たちの脳や行動に関する尽きることのない謎をより深く解明できるようになるのだろうか?

私はその答えを見つけるため、神経科学者のヒューゴ・スピアーズに電話をかけることにした。スピアーズはユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの教授を務めており、進むべき道を人がどのように見つけるのか、ゲームを使って研究している。スピアーズ教授の研究チームは2016年に、ドイツテレコムとスコットランドのゲーム会社であるグリッチャーズ(Glitchers)と協力し、プレイヤーがボートで海を航海するモバイルビデオゲーム「シー・ヒーロー・クエスト(Sea Hero Quest)」を開発した。それ以来、スピアーズ教授たちはこのゲームを使って、アルツハイマー病の初期段階で人がどのように進む道を探す能力を失っていくのか詳しく研究してきた。

神経科学研究におけるビデオゲームの利用が本格化したのは、1990年代に「ウルフェンシュタイン3D(Wolfenstein 3D)」や「デューク・ニューケム(Duke Nukem)」などの3Dゲームが発売された後のことであると、スピアーズ教授は話してくれた。「人間のテストに使える完全な疑似世界が初めて用意されたのです」と、スピアーズ教授は言う。

科学者たちはゲームの中でのプレイヤーの行動を観察し、研究することができた。プレイヤーはどのようにしてバーチャル世界を探索し、報酬を得ようと努力し、決断を下すのか。研究に協力してくれるボランティアたちに、研究室に来てもらう必要もなく、プレイヤーがゲームを遊んでいるその場から、科学者たちが行動を観察することができた。それが、自宅や図書館、あるいはMRIスキャナーの中であってもだ。

スピアーズ教授のような科学者にとって、研究でゲームを使う最大のメリットの1つは、人々がゲームで遊びたがることだ。ゲームを利用することで、科学者は楽しさや好奇心といった基本的な感情について研究できる。研究者は研究に参加してくれるボランティアに対し、少額の謝礼を払うことが多い。しかし、ゲームで遊んでもらうのであれば、お金を払わずに済むとスピアーズ教授は言う。

人はやる気をもって事に臨んだ方が、楽しめる可能性がずっと高くなる。ただ、純粋にお金のためだけに何かをしていると、このようにはいかない。そして参加者に謝礼を支払う必要がなければ、研究者はより少ない予算で大規模な研究を進めることが可能になる。スピアーズ教授はこれまでに、195カ国から400万人を超えるデータを収集できた。 全員が「シー・ヒーロー・クエスト」を自ら進んでプレイしたのだ。

AIは、研究者たちのさらなる進歩にも貢献するかもしれない。プレイヤーを相手に本物の人間のようなやり取りができるキャラクターで満たされた、美しく没入感のある世界は、私たちの心がさまざまな社会的状況に反応する方法や、私たちがほかの個人と関わり合う方法についての研究に役立つ可能性がある。プレイヤーとAIキャラクターとのやり取りの様子を観察することで、科学者たちは、私たちが他者とどのように協力し、そして競争するのかということについて、より多くのことを学べる。俳優を雇って研究ボランティアたちとやり取りをさせるよりも、はるかに安上がりで簡単だろうと、スピアーズ教授は言う。

スピアーズ教授は、人々がどのようにして狩猟行動をするのかということに関心がある。狩猟行動とは、食料や着るものを得るための狩りだけでなく、行方不明のペットを探すような行動も指す。「祖先が毎日使っていたであろう脳の小さな部位を、私たちは今でも使っています。そしてもちろん、一部の伝統的なコミュニティは今でも狩りをしています」と、スピアーズ教授は私に話す。「しかし、そのような行動に関係する脳の働きについては、ほとんど何もわかっていません」。スピアーズ教授は、AIで動くキャラクターを利用することで、人間が狩猟のために協力する仕組みについて、もっと多くのことが分かると考えている。

ほかにも、もっと新しい探求すべき疑問がある。人々が「バーチャルな仲間」にのめり込んで、数多くのAI彼女AI彼氏が利用できるようになっている今、そのようなまったく新しい関係を理解するのにも、ビデオゲームのAIキャラクターが役に立つかもしれない。「人々は人工エージェントと関係を築いています」と、スピアーズ教授は言う。「それは本質的に興味深いことです。当然、研究したくなりますよね?」

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ロンドンにいる同僚たちは、本誌のニアル・ファース編集者をモデルにしてAIゲームキャラクターを生成することをとても楽しんだ。このキャラクターは皮肉屋で、独りよがりで、生意気な怪物になった。

本誌のウィル・ダグラス・ヘブン編集者が今年記事にしたように、グーグル・ディープマインドは、短い説明書きや、手描きのスケッチ、または写真から、ビデオゲームを生成できる生成AIモデルを開発した。生成されたゲームは単純だが遊べるものに仕上がっており、『スーパーマリオブラザーズ』に少し似ている。

今日の世界は紛れもなくゲーム化されていると、ブライアン・ガーディナーは主張している。ガーディナーはこの記事で、私たちがどのようにして今のような状況に至ったのかを探っている。

大規模言語モデル(LLM)は予期せぬ振る舞いを見せる。そして、本誌のウィル・ダグラス・ヘブン編集者が3月に書いたように、その理由は誰にもわからない。

テクノロジーは、さまざまなやり方で脳の研究に応用できる。その中には、他よりも侵襲性がずっと高い方法もある。以前の記事で私が書いたように、あなたの心を読み、あなたの記憶を探ることを目的とするテクノロジーがすでに実用段階に入っている。


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生物医学と生物工学を担当する上級記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、ニューサイエンティスト(New Scientist)誌で健康・医療科学担当記者を務めた。
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