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見えてきた「生成AIの限界」がアーティストの不安を取り除く
Stephanie Arnett/MIT Technology Review
Why artists are becoming less scared of AI

見えてきた「生成AIの限界」がアーティストの不安を取り除く

生成AIを使った実験を重ねるにつれて、クリエイティブ分野での限界が明確に理解されるようになってきた。AIとアーティストたちの力関係を変えようとする取り組みもいくつか始まっている。 by Melissa Heikkilä2024.06.30

この記事の3つのポイント
  1. AIとアーティストとの関係性はこの2年間で変化しつつある
  2. 独創的で面白いものを生み出すのは難しく、補強ツールとして使うのが最適
  3. 権利侵害を防ぐ技術やツールも開発が進み、不安を和らげている
summarized by Claude 3

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

人工知能(AI)のジョークはありきたりだ。グーグル・ディープマインド(Google DeepMind)の研究チームがプロのコメディアン20人に依頼し、一般的なAI言語モデルを使ってジョークやコメディパフォーマンスの台本を書いてもらった。その結果はさまざまだった。

コメディアンたちは、AIツールは最初の「粗案」を生み出すのに有用で、そこから何度も手直しを加えて仕上げたと話した。また、自分たちの創作ルーチンを構成するのにも役立ったという。しかしAIは、独創的なものや刺激的なもの、あるいは一番肝心な面白いものを生み出すことはできなかった。本誌のリアノン・ウィリアムズ記者が詳しい記事を書いている

AIと創造性を専門に研究するコロンビア大学のコンピューター科学研究者、トゥヒン・チャクラボルティ博士がリアノン記者に語ったように、ユーモアは多くの場合、驚きと意外性に依存している。クリエイティブな台本を作成するには、創作者が基準から逸脱することが必要だが、大規模言語モデル(LLM)は基準を模倣することしかできない。

そしてそのことは、今日のアーティストたちによるAIへのアプローチ方法にとても明確に表れ始めている。私は、欧州最大のクリエイター向けイベントが開催されたハンブルクから戻ってきたばかりだ。イベントで話をした人々から受け取ったメッセージは、AIは人間に完全に取って代わるには不具合が多くて信頼性に欠けるため、人間の創造性を補強するためのツールとして使うのがベストであるということだった。

今、私たちは、AI企業やAIツールにどれくらい創造的な力を与えるのがちょどよいか、決定しようとしている。2022年に「ダリー(DALL-E)」と「ステーブル・ディフュージョン(Stable Diffusion)」が登場し、最初のブームが始まった後、多くのアーティストたちが、著作権物である自分たちの作品を、AI企業が同意も補償もなくスクレイピングしていることを懸念した。テック企業各社は、公共のインターネット上にあるものはすべてフェアユースに該当すると主張している。フェアユースとは、特定の状況において著作権で保護された素材の再利用を認める法原理である。これまでアーティスト、作家、映像制作会社、そしてニューヨーク・タイムズ紙が、それらの企業を相手取って訴訟を起こしてきた。しかし、誰が正しいのか明確な答えが出るまで、まだ何年もかかるだろう。

一方、世論の判断はこの2年間で大きく変化した。私が最近インタビューしたアーティストたちは、2年前にAI企業のデータ・スクレイピング行為に抗議したことで、嫌がらせやあざけりを受けたと話す。今は、一般の人々も、AIに関連する害についてより認識が進んでいる。わずか2年の間に一般の人々は、AIが生成した画像に感動する段階から、AIによるスクレイピングをオプトアウトする方法をソーシャルメディアの投稿で共有する段階まで進んでいる。AIのスクレイピングをオプトアウトするという概念は、ごく最近までほとんどの一般人にとって縁のないものだった。この変化から恩恵も受けている企業もある。アドビは自社のAI製品を、著作権侵害を心配せずにこのテクノロジーを利用するための「倫理的」な方法として売り込むことに成功している。

また、AIとの力関係を変化させ、アーティストが自分のデータに対しより多くの権限を持てるようにしようとする、草の根的な取り組みもいくつかある。私は、シカゴ大学の研究チームが開発したツール「ナイトシェード(Nightshade)」について記事を書いたことがある。このツールを使ってユーザーが自分の画像にこっそり毒を仕込むと、スクレイピングされたときにそのAIモデルを破壊できる。同じ研究チームが開発したのが、模倣行為をするAIからアーティストが自分の個人的なスタイルを隠せるようにするツール「グレイズ(Glaze)」だ。グレイズは、今話題の新しいアートポートフォリオ・サイト兼ソーシャルメディア・プラットフォーム「キャラ(Cara)」に統合され、アーティストたちの関心が高まっている。キャラは、人が創り出したアートのためのプラットフォームであることを売りにしており、AIが生成したコンテンツはフィルターにかけて排除している。このサイトは、数日で100万人近い新規ユーザーを獲得した。

コンピューター・プログラムに仕事を奪われるのではないかと心配するクリエイティブな人々全員にとって、このニュースは心強いものに違いない。そしてディープマインドの研究は、AIが実際のところクリエイターにとってどのように役立つのかということを示す、優れた事例である。AIは、クリエイティブなプロセスが持つ退屈で、平凡で、定型的な側面の一部を引き受けることはできるが、人間がもたらす魔法や独創性に取って代わることはできないのだ。AIモデルは訓練データに制限される。そして永遠に、訓練された時点の時代精神しか反映しない。それではすぐに古くなってしまう。


  アップルのAI機能は他社とどう違うのか?

アップルは最近、AIを利用して自社の製品ラインナップを強化する構想を発表した。その鍵となる機能が、実質的にすべての製品で稼働することになる「アップル・インテリジェンス(Apple Intelligence)」だ。センシティブなデータを安全に保ちながら、パーソナライズされたAIサービスを提供することを約束する、AIをベースとした一連の機能である。

アップルによれば、プライバシーに焦点を置く同社のシステムはまず、デバイス自体のローカル環境でAIタスクの遂行を試みるという。クラウドサービスとデータをやり取りする場合は、データが暗号化され、その後、削除される。これは、個人データを大量に収集して保存しているアルファベットやアマゾン、メタなどと暗黙の対照をなすセールスポイントである。 詳しくはジェームス・オドネル記者の記事で読める

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メリッサ・ヘイッキラ [Melissa Heikkilä]米国版 AI担当上級記者
MITテクノロジーレビューの上級記者として、人工知能とそれがどのように社会を変えていくかを取材している。MITテクノロジーレビュー入社以前は『ポリティコ(POLITICO)』でAI政策や政治関連の記事を執筆していた。英エコノミスト誌での勤務、ニュースキャスターとしての経験も持つ。2020年にフォーブス誌の「30 Under 30」(欧州メディア部門)に選出された。
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