脳波はVRゲームのコントローラー代わりになるか?
スタートアップ企業のニューラブルは、脳コンピューター・インターフェイスでVRゲームをプレイできると考えている。リアルタイムで脳波を検出し、意思を読み取るにはまだ精度が不十分だが、より問題が大きいのは脳波検出装置が不格好なことだ。 by Rachel Metz2017.03.23
実質現実(VR)は初期段階にあり、どうすればユーザーがVR世界内でスムーズに行動できるのかは模索中だ。スタートアップ企業のニューラブル(Neurable)は文字通り、頭を使おうとしている。脳波を追跡し、分析結果でVRゲームを制御するのだ。
ニューラブル(本社ボストン)は脳の活動を解読し、特にVR/AR用途でユーザーの意図を判定することを専門にするスタートアップ企業だ。ニューラブルは、脳の活動をドライ電極で脳波(EEG:electroencephalography)として記録するソフトウェアで信号を分析し、ユーザーが意図する動作を判別するのだ。
ミシガン大学の大学院生としてこのテクノロジーを開発したニューラブルのラムセス・アルカイド最高経営責任者(CEO)は「本当に何もする必要はありません」という。「意識下にある反応を読み取るのは本当にクールです」
昨年、ベンチャーキャピタルから200万ドルを出資されたニューラブルの事業はまだ初期段階だ。デモ版のハードウェアはVRゴーグルのHTC Viveと一緒に組み合わせて装着し、ユーザーの頭を覆う電極のオビは冠のようだ。VRゴーグルとは異なり、ニューラブルの装置はBluetoothでコンピューターにデータを送信する無線式だ。ニューラブルは今年、ゲーム開発者用にソフトウェア開発ツールを提供予定で、独自のハードウェアを販売する予定はない。むしろニューラブルの希望は、今後数年間で、他の企業が自社のテクノロジーに対応したセンサー付きゴーグルを製造してくれることだ。
成功するとは限らない。今のところ、デジタル体験の操作に一般的に使われるである手持ち式コントローラーやマウス、キーボード、タッチスクリーンに代わる物理装置はない。特に脳コンピューター・インターフェイスは見た目が悪く、動作も遅く、誤操作しやすい。しかし、VR/ARはまだ初期段階にあり、どう使うのかまだ決まっていないため、脳コンピューター・インターフェイスが使われる余地はある。
脳波で脳の活動を追跡し、ユーザーが何かを選ぼうとした時に発生する特定の信号を探知することに目新しさはない。ただしニューラブルにはノイズを低減し、従来の方法よりも素早く信号を分析する方法があるという。
アルカイドCEOは、VRゴーグルのHTC Viveとドライ電極一式をユーザーの頭部に装着したときの様子を写したビデオを取材時に見せてくれた。『スカイリム』の脳コンピューター・インターフェイス版で、アルカイドCEOは脳波で4つの呪文のうちのひとつを選び、手持ちコントローラー上のボタンで呪文を放つパワーをため、もう一度脳波で敵をめがけて呪文を放った。
現時点で、システムを使うには最低5分の訓練が必要だが、アルカイドCEOは、使いたいアプリケーションごとに訓練し直す必要はないという。基本的にニューラブルは、脳活動を記録しながら、バーチャル世界でさまざまなオブジェクトを表示しながら、あるオブジェクトから次のオブジェクトへの移るときの変化を検出して、何をしようとしているのかを判断する。
カリフォルニア大学サンディエゴ校認知神経科学研究所のハイメ・ピネダ教授は、実質現実で脳コンピューター・インターフェイスが使えるようになるアイデアには関心があるが、ニューラブルが測定し、分析する事象関連電位(ERP:Event-Related Potential )は、瞬時に捕捉するのがとても難しく、処理に数秒かかることもあるという。
「ゲーム中に、本当に速く処理できれなければ、プレイヤーは興味を失ってしまいます」
ニューラブルは、現時点のテクノロジーの精度を話そうとしない。ただし、アルカイドCEOは、以前のバージョンでは、脳波をリアルタイムで処理したときの精度は約85%、1秒遅くすると精度は99%に高まったという。テクノロジーはその後ずっと改善し続けている、とアルカイドCEOはいう。
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クレジット | Images courtesy of Neurable |
- レイチェル メッツ [Rachel Metz]米国版 モバイル担当上級編集者
- MIT Technology Reviewのモバイル担当上級編集者。幅広い範囲のスタートアップを取材する一方、支局のあるサンフランシスコ周辺で手に入るガジェットのレビュー記事も執筆しています。テックイノベーションに強い関心があり、次に起きる大きなことは何か、いつも探しています。2012年の初めにMIT Technology Reviewに加わる前はAP通信でテクノロジー担当の記者を5年務め、アップル、アマゾン、eBayなどの企業を担当して、レビュー記事を執筆していました。また、フリーランス記者として、New York Times向けにテクノロジーや犯罪記事を書いていたこともあります。カリフォルニア州パロアルト育ちで、ヒューレット・パッカードやグーグルが日常の光景の一部になっていましたが、2003年まで、テック企業の取材はまったく興味がありませんでした。転機は、偶然にパロアルト合同学区の無線LANネットワークに重大なセキュリテイ上の問題があるネタを掴んだことで訪れました。生徒の心理状態をフルネームで記載した取り扱い注意情報を、Wi-Fi経由で誰でも読み取れたのです。MIT Technology Reviewの仕事が忙しくないときは、ベイエリアでサイクリングしています。