地球工学研究に再び脚光? 世界の大富豪が資金提供、最高4000万ドルも

Foundations are lining up to fund geoengineering research 地球工学研究に再び脚光?
世界の大富豪が資金提供、
最高4000万ドルも

ハーバード大学が昨年、実験中止を決めた太陽地球工学分野の研究に対し、非営利団体などによる資金流入が活発化している。ただ、公益に関わる分野だけに、資金源をめぐっては課題も多い。 by James Temple2024.06.20

ロンドンを拠点とする非営利団体が、太陽地球工学(ソーラー・ジオエンジニアリング)研究の世界最大級の資金提供者になろうとしている。太陽光をより多く反射させることで気候変動を緩和できるかどうかを研究する科学者の支援に熱心な財団は増えてきており、この組織はその1つにすぎない。

2019年に設立され、投資ファンドであるクアドラチャー・キャピタル(Quadrature Capital)の収益で運営されるクアドラチャー気候基金(Quadrature Climate Foundation)は、今後3年間で太陽地球工学の分野の研究に4000万ドルを提供する計画だ。同基金の最高科学責任者(CSO)であるグレッグ・デ・テマーマンがMITテクノロジーレビューに明かした。

4000万ドルは、この分野の研究者にとっては大きな金額だ。2008年から2018年までに財団や資産家が提供した総額の2倍であり、米国政府がこれまでに提供した額にほぼ等しい。

「この分野の研究を加速させること、研究を確実に実現させること、そして、いずれは公的資金による支援を受けられるようにすることに、非常に大きな影響を与えられると考えています」と、デ・テマーマンCSOは言う。

他の非営利団体も、今後数カ月から数年のうちに、太陽地球工学の研究や関連する政府への提言活動に対して、数千万ドル相当の追加助成金を提供する予定だ。今回の資金増により、物議を醸しているこの分野の科学者は、これまでよりもはるかに多くの支援を受けられるようになる。より多くの研究室で研究やモデリングができるようになり、さらにはこうした介入のメリットとリスクについての理解を深める可能性のある屋外実験を進めることさえ可能となるかもしれない。

「まるで新しい世界のようで、昨年とは本当に異なる状況です」。著名な地球工学研究者であり、シカゴ大学気候システム工学イニシアチブを創設したデビッド・キース教授は語る。

太陽地球工学の研究や政府への提言活動のための資金提供を最近公表した、あるいは計画を発表した他の非営利団体には、サイモンズ財団(Simons Foundation)、環境防衛基金(EDF:Environmental Defense Fund)、バーナード&アン・スピッツァー慈善信託(Bernard and Anne Spitzer Charitable Trust)などがある。

さらに、メタの元最高技術責任者であるマイク・シュローファーはMITテクノロジーレビューに対し、新たな非営利団体であるアウトライアー・プロジェクト(Outlier Projects)を立ち上げると語った。シュローファーによると、アウトライアー・プロジェクトは海洋ベースの二酸化炭素除去や急速に溶けている氷河を安定させる取り組みとともに、太陽地球工学の研究にも資金提供するという。

アウトライアー・プロジェクトはすでに、太陽地球工学の分野に関して、EDF、シカゴ大学のキース教授によるプログラム、そして世界のより貧しく暑い地域でのこのテーマに関する研究や取り組みを支援する活動をしている2つの団体に助成金を支給している。この2つの団体とは、ディグリーズ・イニシアチブ(Degrees Initiative)と太陽地球工学の公正な審議のための同盟(Alliance for Just Deliberation on Solar Geoengineering)だ。

研究者によれば、気候変動の危険性が高まっていること、二酸化炭素の排出量削減が進んでいないこと、これまでの政府研究費が比較的少額であったことが、この分野への支援を高めているという。

「多くの人々が、明白なことを認識しつつあります」と、コーネル大学の機械・航空宇宙工学の上級研究アソシエイトで、地球工学の研究に注力するダグラス・マクマーティン准教授は言う。「現在、気候変動の緩和は好ましい状況にありません。これまで、太陽地球工学に関する適切かつ賢明な決断をサポートできる研究には十分な資金が費やされてきませんでした」。

科学者は、より多くの太陽光を反射させるためのさまざまな方法を模索している。たとえば、成層圏に特定の粒子を放出して火山噴火の冷却効果を模倣する、海洋雲に向けて塩を噴霧して雲を明るくする、空に細かい塵のような物質を撒いて熱を閉じ込める巻雲を分解する、などだ。

批評家は、非営利団体も科学者もこれらの方法の研究を支援すべきではないとしており、そのような介入の可能性を提起することは、排出削減への圧力を緩和し、こういったテクノロジーを導入する「滑り坂」を作り出すと主張している。研究拡大の支持者の中にも、私的な資金源、特にテック分野や金融分野で財を成した資産家からの資金提供によって、適切な監視なしに研究が進められ、この分野に対する一般の認識が損なわれる可能性を懸念する人もいる。

「過去にメディアや情報のエコシステムや金融市場に混乱をもたらした人々に気候システムを委ねるという感覚は、すでに多くの人が不安を感じている科学的領域に対する社会的信頼を損ないかねません」。こう語るのは、『After Geoengineering(地球工学の後で)』(未邦訳)の著者である、バッファロー大学のホーリー・バック助教授である。

「解決策を解き明かす」

クアドラチャーが最初に提供した太陽地球工学助成金のうち1件は、ワシントン大学のマリン・クラウド・ブライトニング・プログラム(Marine Cloud Brightening Program)に贈られた。4月初旬、このプログラムの研究グループは、カリフォルニア州アラメダ沖に鎮座する退役空母で小規模な屋外実験を開始し、その後中止せざるを得なくなったことで話題となった。これは、小さな海塩の粒子を霧状にして空気中に噴霧するという取り組みであった。

クアドラチャーはまた、ワシントンDCの非営利団体であるシルバーライニング(SilverLining)が5月初旬に発表した2050万ドルの資金を寄付した団体の1つでもある。シルバーライニングは、世界中の太陽地球工学研究者への助成金をプール・分配しており、この分野に対する政府の支援と資金提供の拡大を推進している団体だ。この新たなファンドは、「すべての国による衡平な参加を促進する」ための取り組みや政策提言活動を支援する予定だと、シルバーライニングのケリー・ワンサー執行役員は電子メールで述べた。

ワンサー執行役員はさらに、「破滅的な転換点」を通過するリスクを含めて気候変動の危険性が高まっているため、太陽地球工学の研究を加速させることが極めて重要だと付け加えた。「現在の気候予測は、特に社会的弱者に対するリスクを過小評価している可能性さえあり、リスク予測を改善し、対応戦略を拡大する緊急の必要性があることを浮き彫りにしています」。

クアドラチャーはまた、コロラド州立大学、エクセター大学、地球工学モデル相互比較プロジェクト(一連の気候モデルで同じモデリング実験をする取り組み)にも関連研究のための助成金を支給している。

クアドラチャーは、太陽地球工学への資金を、主に次の2つの分野での取り組みを前進させることに提供する意向だ。さまざまなアプローチに対する理解を深めるための学術的研究と、「透明性、衡平性、科学的根拠に基づいた(太陽放射改変に関する)意思決定を可能にする」世界的な監視体制構築への取り …

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