瀬戸際のCO2回収ブーム、
補助金で化石燃料延命の懸念
気候問題の危機が差し迫る中、政府の補助金を追い風に二酸化炭素の回収・貯留が再び注目されている。だが、化石燃料プラントの延命につながるだけではないかという懸念や、地域社会が抱えることになる健康・環境面のリスクなどが指摘されており、課題は少なくない。 by James Temple2024.06.28
- この記事の3つのポイント
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- 米石油・ガス生産企業がCO2を貯留する井戸の開発許可を取得
- CO2回収・貯留(CCS)は気候変動対策に不可欠だが正味の効果は不明確
- CCSプロジェクトは化石燃料産業を延命させる恐れがある
カリフォルニア州のエルク・ヒルズ油田には、ポンプジャッキやパイプラインが乱立している。セントラルバレー南部の低木が生い茂るこのひと続きの土地は、全米で有数の化石燃料埋蔵量を誇る。
米国の石油生産量は数十年前から減少の一途をたどってきた。テック関連の雇用が急増し、国会議員たちが環境と気候に関する厳しい規則を制定したためだ。貧困率が18%前後に及ぶカリフォルニア州カーン郡全域の企業、町、住民たちは、新たな経済的機会を求める切実さをますます強めている。
昨年末、カリフォルニア州最大の石油・ガス生産会社の1つ、カリフォルニア・リソーシズ・コーポレーション(California Resources Corporation:CRC)は、米環境保護庁から、この油田で新しい種類の井戸(油井)を開発する仮許可を取得した。同社は、この開発がまさに地域へ経済的機会をもたらすと主張している。規制当局から最終的な承認が得られれば、地表からおよそ約1800メートル下の広大な堆積岩層まで一連のボーリング孔を掘削するつもりだ。そこへ数千万トンの二酸化炭素が注入され、永久に貯蔵されることになる。
このプロジェクトは、地球の気温を上昇させる温室効果ガスを隔離するために特別に規定された「クラスVI」と呼ばれる、カリフォルニア州初の一連の井戸になりそうだ。しかし、同様の二酸化炭素貯留プロジェクトは、州内、米国内、そして世界中で非常に数多く進行中である。この傾向は、政府補助金の増加、重くのしかかる国家気候目標、そして従来の石油・ガス事業における収入と成長の縮小が後押ししている。
2022年に入ってから、CRCなどの企業がこの新しい種類の井戸を開発するために、米国だけでも200件近い申請を提出してきた。それは、産業界やエネルギー事業から排出される二酸化炭素汚染を大気中に放出する代わりに、回収することが、以前よりもはるかに大きなビジネスになろうとしていることを示す、これまでで最も明確な兆候の1つである。
この傾向の支持者たちは、これが一種の逆石油ブームのようなものの始まりであり、世界がついに大気中へ新たに放出する量よりも多くの温室効果ガスを埋蔵することになるプロセスに、はずみがつくことを期待している。支持者たちは、二酸化炭素の回収・貯留(CCS)の導入は、排出量を急速に削減するための計画に不可欠な手段であると主張している。その理由の1つは、世界に膨大な数が存在する既存のインフラに二酸化炭素を除去する設備を組み込む方が、すべての発電所や工場を建て直すよりもスピードが速く、簡単である可能性があることだ。CCSは、セメント、肥料、紙・パルプ生産など、特定の重工業の排出量を削減するのに特に有効な方法となり得る。それらの産業には、二酸化炭素を放出せずに重要な商品を生産する、拡張可能でコストが手頃な方法がないのだ。
「適切な状況において、CCSは時間とお金の節約になり、リスクを低減します」と、カーボン・ダイレクト(Carbon Direct)の主任科学者であるフリオ・フリードマンは言う。フリードマン科学者は以前、米国エネルギー省の化石エネルギー局で首席副次官補を務めていた。
しかし反対派は、そうした取り組みが化石燃料プラントを延命させ、大気汚染や水質汚染の継続を許し、新たな健康・環境リスクを生み出すことになると主張している。そのようなリスクが、エルクヒルズ油田近郊を含むプロジェクト周辺の不利な条件に置かれた地域社会に対し、不均等な害を及ぼすという。
「これら多くのプロジェクトを提案し、資金を提供しているのは、石油メジャーです」。セントラルバレー大気環境連合(Central Valley Air Quality Coalition)の常務理事を務めるキャサリン・ガルーパは言う。同連合は、この地区全体で急増している二酸化炭素貯留プロジェクトの申請を追跡調査している。「石油メジャーはこれを、従来どおりのビジネスを引き延ばし、昔と同じ汚いやり方をしながら、書類上はカーボンニュートラルになれる方法だと考えています」。
スロースタート
米国連邦政府が注入井を監督し始めたのは、1970年代のことだ。多くの企業が廃棄物を地下に注入するようになったため、水質汚染に関する訴訟が相次ぎ、きれいな飲料水を確保するための主要な法律がいくつか制定された。米環境保護庁は、さまざまな種類の井戸や廃棄物に関する基準と規則を策定した。危険物や放射性廃棄物用の深い「クラスI」井戸や、非危険物用の浅い「クラスV」井戸などである。
2010年、産業界に対してより多くの二酸化炭素を回収するインセンティブを与えようと連邦政府が取り組む中で、米環境保護庁はCO2隔離用の「クラスVI」井戸を追加した。掘削許可を受けるために、クラスVIの井戸の予定地は適切な地質を有していなければならない。具体的には、頁岩など非多孔質の「キャップスロック(帽岩)」の層の下に、二酸化炭素分子を収容できる多孔質岩の深い貯留層が必要となる。また貯留層は、飲料水を汚染しないように、地下水帯水層よりも十分下になければならない。さらに、地震によって亀裂が入り、そこを伝って温室効果ガスが抜け出す可能性を減らすため、断層線から十分に離れている必要もある。
この炭素隔離プログラムは、スロースタートとなった。2021年後半の時点で、稼働中のクラスVI注入井はわずか2基しかなく、規制当局が審査中の申請も22件のみであった。
しかしそれ以降、米環境保護庁と、そのような井戸を独自に認可する許可を得た3つの州(ノースダコタ州、ワイオミング州、ルイジアナ州)の両方に対し、プロジェクトの提案が相次いだ。ボストンを拠点にこのようなプロジェクトの追跡調査を続けているエネルギー政策シンクタンクのクリーン・エア・タスク・フォース(Clean Air Task Force)によれば、現在は審査中の申請が200件を超えているという。
何が変わったかというと、連邦政府のインセンティブである。2022年の「インフレ抑制法(Inflation Reduction Act)」は、二酸化炭素を地下層で永久に貯留することで利用できる税額控除を大幅に引き上げた。これにより、産業施設や発電所から二酸化炭素を回収した場合は、1トンあたり50ドルだった控除額が、85ドルに増えた。また、温室効果ガスを大気から吸収する別の技術である直接空気回収(DAC)の施設から二酸化炭素を調達した場合は、控除額が1トンあたり50ドルから180ドルに引き上げられた。税額控除によって企業は連邦税の負担を直接軽減できるため、ますます多くの産業分野でCCSのための追加費用をカバーできるようになる。
また、超党派インフラ法も、二酸化炭素回収の実証プロジェクトや試験プロジェクトに数十億ドルを提供した。
税額控除の棚ぼた的利益
CRCは、2014年に世界最大級の石油・ガス生産者であるオクシデンタル・ペトロリアム(Occidental Petroleum)が、カリフォルニア州の資産の多くとともにスピンオフして創業した企業である。しかし、この新会社はすぐに財政難に陥り、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの初期段階中にエネルギー需要が激減する中、2020年に破産保護を申請した。その数カ月後、負債の返済を繰り延べ、借り入れを株式に転換し、新たな与信枠を調達した後、再び表舞台に浮上した。
翌年、CRCは炭素管理子会社のカーボン・テラヴォールト(Carbon TerraVault)を設立し、自社向けか顧客向けかにかかわらず二酸化炭素を地下に戻すことに関連して、新ビジネスを開発する新たなチャンスを掴んだ。CRCは、「エネルギー転換を進めることと、世界の気温上昇を1.5℃に抑制することを手伝う」ことができる可能性も、動機になったと述べている。
MITテクノロジーレビューはCRCに質問を送ったが、返答はなかった。
カリフォルニア州ロングビーチに本社を置くCRCは、米環境保護庁への申請書の中で、当初はエルク・ヒルズ地域のガス処理施設と、天然ガスから水素を製造するために設計された計画中の工場から毎年数十万トンの二酸化炭素を回収すると説明している。回収した二酸化炭素は、純化と圧縮の処理をした後、地下へと送り込む。
CRCによれば、今回仮許可を取得した4つの井戸は、申請書で言及した施設や他の施設から回収した年間150万トン近い二酸化炭素を貯留でき、26年間で合計3800万トンの貯留が可能であるという。CRCは、このプロジェクトが地元の雇用を創出し、州が差し迫った気候目標を達成するのに役立つと述べている。
「私たちは、カーボンニュートラルの達 …
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