現地時間6月10日に開催されたWWDC(世界開発者会議)において、アップルはAI(人工知能)を活用して製品ラインナップを強化するビジョンを初めて明らかにした。その主な特徴は、ほぼすべての製品で展開される「アップル・インテリジェンス(Apple Intelligence)」だ。機微なデータの安全性を確保しながら、1人ひとりに合ったAIサービスの提供を約束する。ユーザーの個人データを利用してAIにタスクを実行させるという点で、アップルにとっては最大の飛躍となる。プライバシーを犠牲にすることなくこれを実現できることを示すため、同社は機微なデータをクラウド上で処理する新しい方法を構築したと述べている。
プライバシーに特化したアップルのシステムは、まずデバイス上でのローカルの処理実行を試みるという。クラウドサービスとの間でデータをやり取りする場合は暗号化し、処理が終わった後でデータは削除する。また、アップルが「プライベート・クラウド・コンピュート(Private Cloud Compute)と呼ぶこのプロセスは、独立したセキュリティ研究者たちによる検証を受けるとしている。
こうした説明は、個人データを大量に収集して保管しているアルファベット(Alphabet)やアマゾン、メタ(Meta)などとは暗黙裡に対比をなしている。クラウドに送られた個人データは目の前のAIタスクにのみ使用され、AIモデルがリクエストを完了した後に保存したり利用したりすることはないとアップルは説明する。デバッグや品質向上のために利用することもないという。
簡単に言うと、写真やメッセージ、メールなどの極めて機微な個人データをアップルが分析し、それらのデータに基づいて自動化サービスを提供することについて、信頼してもらって構わないというのが同社の主張だ。実際にデータはオンラインに保管されず、脆弱な状態に置かれることもないという。
こうした機能が最新バージョンのiOSで実行される仕組みについて、今回の発表ではいくつかの例が示された。例えば、友人から送られたポッドキャストを探すためにメッセージをスクロールする代わりに、シリ(Siri)にポッドキャストを探すように指示し、再生してもらうだけで良いのだ。アップルのソフトウェア・エンジニアリング担当上級副社長、クレイグ・フェデリギは、仕事のミーティングの後ろ倒しを知らせるメールが来たが、その夜は娘が出演する演劇の発表を見に行く予定がある、という別の例で説明した。そのような場合、iPhoneが発表会の情報が書かれたPDFを見つけ出し、現地の交通状況を予測し、時間に間に合うかどうか知らせてくれるという。こうした機能はアップル製アプリ以外にも開放され、外部の開発者も同社のAIを利用できるようになる。
アップルは広告事業よりもハードウェアやサービス事業から多くの利益を得ているため、他社に比べて個人データを収集する理由が乏しい。そのため、iPhoneを最も「プライベートな」デバイスとして位置付けている。それでも、過去にはプライバシー擁護団体から批判を浴びたことがある。2014年には、セキュリティ上の欠陥によってiCloud(アイクラウド)から私的な写真が流出する事件が発生。2019年には、品質管理の名目で委託業者がSiriの録音内容を聞いていたことが判明した。司法当局のデータ提出要求を巡る同社の対応については、今でも論争が続いている。
アップルによると、プライバシー侵害に対する最初の防御線は、AIタスクの処理にクラウド・コンピューティングをできるだけ利用しないことだ。「個人向けのインテリジェンス・ …