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生成AIはSDGs達成に役立つか? 国連サミットでの学び
ITU
What I learned from the UN’s "AI for Good" summit

生成AIはSDGs達成に役立つか? 国連サミットでの学び

5月末にジュネーブで開催された国連の会議では、「持続可能な開発目標」達成にAIがどう活用できるかが議論された。膨大なエネルギーを消費し、バイアスを助長しているAIを、いかに持続可能なものにするか、といった視点ではやや物足りない内容だった。 by Melissa Heikkilä2024.06.07

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

スイス・ジュネーブからちょうど帰ってきたところで、この記事を執筆している。ジュネーブでは5月30、31日に、国連の専門機関である国際電気通信連合(ITU)が主催するサミット「AIフォー・グッド・サミット(AI for Good Summit)」が開催された。 サミットの大きな焦点となったのは、貧困と飢餓の撲滅、ジェンダー平等の達成、クリーン・エネルギーと気候変動対策の推進など、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を達成するために、人工知能(AI)をどのように活用できるかということだった。

この会議ではたくさんのロボットが紹介されたが(ワインを出すロボットもいた)、最も気に入ったポイントは、世界中からAIに携わる人々が招集されていたことだ。中国、中東、そしてアフリカからの参加者もいた。アフリカ言語のためのAIモデルを構築するスタートアップ企業、レラパAI(Lelapa AI)の最高経営責任者(CEO)であるペロノミ・モイロアもその1人だ。AI分野は非常に米国中心で男性主体となり得るため、AIにまつわる議論をよりグローバルで多様なものにしようとする取り組みはすばらしいものだ。

しかし正直なところ私は、AIが国連の目標のいずれかを前進させる上で有意義な役割を果たせる、との確信を持って会議を後にしたわけではなかった。実際、最も興味深かった講演は、AIがいかにその逆のことをしているかというものだった。気候活動家のセイジ・レニアーは、AIに環境破壊を加速させてはならないと語った。ヒューメイン・テクノロジー・センター(Center for Humane Technology)の共同設立者であるトリスタン・ハリスは、ソーシャルメディアへの依存、テック分野の金銭的インセンティブ、過去のテックブームから学ばなかった私たちの失敗について説得力のある講演をした。そして、テック業界にはいまだに根深いジェンダー・バイアスが存在すると、「AI倫理における女性(Women in AI Ethics)」の創設者であるミア・シャー・ダンドは思い出させてくれた。

会議自体はAIを 「良いこと(good)のために使う」ことをテーマにしていたが、私はむしろ、透明性、説明責任、包摂性を高めることで、開発から展開にいたるまで、AIそのものをどのように良いものにすることができるかについて、もっと語ってほしかった。今では、生成AIで1枚の画像を生成するのに、1台のスマホを充電するのと同じくらいのエネルギーを使うことが知られている。気候目標を達成するために、このテクノロジーそのものをより持続可能なものにする方法について、もっと率直な議論がされるのを目にしたかったのだ。私たちが使っているAIシステムの非常に多くが、グローバル・サウスに住む人間のコンテンツモデレーターの労働のもとに構築されており、彼らは薄給でトラウマになるようなコンテンツに目を通している。そのことを知っているのに、AIを不平等の是正にどのように役立てることができるか、という議論を聞くのは、あまり心地よいものではなかった。

AIの「とてつもない恩恵」を訴えたのは、このサミットの主役となる登壇者、オープンAI(OpenAI)のサム・アルトマンCEOだ。アルトマンCEOは、アトランティック(Atlantic)のニコラス・トンプソンCEOからリモートでインタビューを受けた。ちなみにアトランティックは、新しいAIモデルを訓練するためのコンテンツを共有する契約をオープンAIと結んだと発表したばかりである。オープンAIはまさに現在のAIブームを巻き起こした企業であるため、このインタビューはこれらの問題についてアルトマンCEOに尋ねる絶好の機会となっただろう。しかし、2人の議論は、安全性についての比較的漠然とした抽象度の高いものであった。そのため、オープンAIが自社のシステムをより安全なものにするために具体的に何をしているのか、聴衆は何もわからないままだった。聴衆はアルトマンCEOの言葉を鵜呑みにするしかないように思えた。

このアルトマンCEOの講演があったのは、オープンAIの元取締役であるヘレン・トナーが、同社の取締役会はツイッターを通じてチャットGPT(ChatGPT)の立ち上げを知ったと、あるインタビューで語った1週間ほど後のことだった。トナーは現在、ジョージタウン大学セキュリティ・エマージング・テクノロジー・センターの研究者である。トナーはまた、アルトマンCEOは取締役会に対して何度も、会社の正式な安全プロセスについて不正確な情報を与えたと語り、膨大な利益インセンティブが常に優先されるため、AI企業に自らを統治させるのは良くないと主張している(アルトマンCEOは「彼女の記憶には同意できません」と述べている)。

トンプソンCEOが、生成AIが最初にもたらす良いことは何かとアルトマンCEOに尋ねると、アルトマンCEOは生産性について言及した。ソフトウェア開発者がAIツールを使うことで仕事が格段に速くなるといった例を挙げて、「このようなツールを使えるようになったことで、さまざまな産業が以前よりもはるかに生産的になるでしょう。そしてそれは、あらゆることにポジティブな影響を与えます」と語った。私は、その点についてはまだ判断がつかないと考えている。


グーグルの「AIオーバービューズ(AI Overviews)」が間違える理由

グーグルの新機能「AIオーバービューズ(AI Overviews)」は、重要な情報やリンクが強調された簡潔な要約をAIが生成し、検索結果の上に表示する。残念なことに、米国でAI Overviewsがリリースされてから数日も経たないうちに、よく言っても奇妙としか思えない回答の事例がユーザーたちによって報告された。この機能が、ピザに接着剤を加えることや、1日に少なくとも1個の小さな岩を食べることを勧めたのだ。

AIを搭載した検索エンジンが間違いを起こす理由を理解するためには、その仕組みに目を向ける必要がある。このようなモデルは単純に、ひと続きの文章の中の次の単語(またはトークン)を予測するだけだ。そのため、流暢に見える半面、でたらめな答えをしてしまいがちである。これらのモデルには根拠となる真実がない代わりに、それぞれの単語を純粋に統計的な計算に基づいて選択する。最悪なのは、この事態を修正する方法がおそらくないことだ。 これがAI検索エンジンを信用してはいけない理由である。 詳しくは、こちらの記事をお読みいただきたい

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メリッサ・ヘイッキラ [Melissa Heikkilä]米国版 AI担当上級記者
MITテクノロジーレビューの上級記者として、人工知能とそれがどのように社会を変えていくかを取材している。MITテクノロジーレビュー入社以前は『ポリティコ(POLITICO)』でAI政策や政治関連の記事を執筆していた。英エコノミスト誌での勤務、ニュースキャスターとしての経験も持つ。2020年にフォーブス誌の「30 Under 30」(欧州メディア部門)に選出された。
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