「モリー」や「エクスタシー」と呼ばれることもあるMDMAは、米国では30年以上前から禁止されている薬物だ。そして今、この精神作用のある強力な薬物が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療薬として強く求められるようになりつつある。
6月4日に米国食品医薬品局(FDA)の諮問委員会が開かれ、MDMA療法のリスクとメリットについて議論される(日本版注:本記事のオリジナルは6月3日に米国版に掲載された。翌4日の諮問委員会ではMDMA療法を承認しない決定が下された)。委員会が賛成票を投じれば、今夏にもMDMAがPTSDの治療薬として承認される可能性がある。そうなれば、何十年もの間この目標に向けて取り組んできた精神作用医薬品推進派にとっては、画期的な成果となるだろう。そして、シロシビンのような他の違法薬物のFDA認可への道が開かれる一助となるかもしれない。しかし、そうなった場合でも、これらの薬物が非合法の物質から合法的な治療薬へとどのように移行していくのか、その道筋はまだはっきりとしていない。
公聴会を前に知っておくべきことを以下に挙げよう。
MDMAを合法化する論拠は?
研究によると、MDMAはPTSDやうつ病などの精神疾患の治療に役立つ可能性が示されている。MDMAを治療薬として開発している企業、ライコス(Lykos、旧・幻覚剤学際研究学会公益会社=MAPS<Multidisciplinary Association for Psychedelic Studies> Public Benefit Corporation)は、PTSDの患者約200人を対象とした2つの臨床試験でその有効性を調べた。研究者は、参加者をMDMAを用いた心理療法を受けるグループと、MDMAを用いない心理療法を受けるグループに無作為に振り分けた。すると、MDMA支援療法を受けたグループでは、PTSDの症状が大きく軽減した。また、こちらのグループの方が治療に反応し、PTSDの寛解基準を満たし、PTSDと診断されなくなる可能性も高かった。
しかし、この結果の妥当性を疑問視する専門家もいる。MDMAのような物質を使用する場合、研究参加者はプラセボを投与されたか、その薬物を投与されたかをほぼ必ず知っている。特に、参加者やセラピストが薬物療法が有効だと強く信じている場合、結果が歪んでしまう可能性がある。医薬品の臨床的・経済的価値を評価する非営利研究機関であるICER(Institute for Clinical and Economic Review)は最近、MDMA支援療法のエビデンス(科学的根拠)を「不十分」だと評価した。
6月4日の委員会に先立って公表された概要説明資料の中で、FDA当局者は、MDMAを承認するかどうかの問題は、「多くの複雑な審査課題を提示している」と書いている。
ICERの報告書では、不正行為や倫理違反の懸念についても言及されている。ライコスは、倫理違 …