人工知能(AI)のブームのおかげで、半導体チップの世界は大きな潮流の変化に直面している。AIモデルをより高速に学習させ、スマホや人工衛星などのデバイスからデータを取得し、個人データを開示せずにこれらのモデルを使用できるようにするチップへの需要が高まっている。各国政府、巨大テック企業、スタートアップ企業は一様に、成長する半導体の市場で自らのシェアを確保しようと競い合っている。
将来のチップがどのようなものになり、誰がそれを製造するのか。そしてどのような新技術が登場するのか。この記事では、今後1年間に注目すべき4つのトレンドを紹介しよう。
1. 世界中で「CHIPS法」が広がる
米国アリゾナ州フェニックス郊外では、世界最大級のチップメーカー2社、TSMCとインテルが、砂漠にキャンパスを建設しようと競い合っている。両社はここを、米国における半導体製造の拠点にしようとしているのだ。2社の取り組みに共通しているのは、資金調達方法だ。2023年3月、ジョー・バイデン大統領は、インテルの全米各地での展開のために、85億ドルの連邦政府直接資金と110億ドルの融資を発表した。その数週間後、TSMCに対しても66億ドルの資金提供が発表された。
これらの資金は、2022年に署名された2800億ドル規模の「半導体・科学法(CHIPS法)」を通じてチップ産業に投入される米国の補助金の一部に過ぎない。こうした補助金の存在により、半導体エコシステムに足を踏み入れているあらゆる企業が、資金の恩恵を受けるためにサプライチェーンをどう再構築すべきかを分析している。資金の多くは米国のチップ製造産業を後押しすることを目的としているが、装置メーカーからニッチな材料のスタートアップ企業まで、他のプレーヤーにも適用される余地がある。
だが、チップ製造サプライチェーンの一部を国内に取り戻そうとしようとしているのは米国だけではない。日本はCHIPS法に相当する取り組みにおよそ130億ドルを費やし(日本版注:令和5年度補正予算における半導体関連の予算がおよそ1兆円)、欧州も470億ドル以上を費やす予定だ。今年に入ってからはインドが150億ドルを投じて国内にチップ工場を建設すると発表した。タフツ大学の教授で『半導体戦争:世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防(原題:Chip War: The Fight for the World’s Most Critical Technology)』の著者であるクリス・ミラーは、このトレンドのルーツは2014年まで遡るという。中国がチップメーカーに巨額の補助金を支給し始めた時期である。
「他国の政府もインセンティブを提供する以外に選択肢はなく、そうでなければ企業が製造拠点を中国に移すことになるという力学が生み出されたのです」と、ミラー教授は言う。こうした脅威とAIの巨大ブームが相まって、西側諸国の政府も資金を提供するようになった。来年には雪だるま式に、取り残されることを恐れて独自のプログラムを始める国がさらに増えるかもしれない。
政府資金によって、まったく新しいチップの競合企業が生まれたり、チップの最大手企業が根本的に再編されたりすることにはならないだろうと、ミラー教授は言う。そうではなく、TSMCのような有力企業が複数の国に根を下ろす動機付けになることがほとんどだろう。しかし、展開を加速させるには、資金だけでは十分ではない。TSMCのアリゾナでの工場建設の取り組みは、工期の遅れや労働争議に陥っており、インテルも同様に約束した工期を守ることができなかった。また、工場がいつ稼働したとしても、その設備と労働力が、両社が海外で維持しているのと同じレベルの高度なチップ製造に対応できるかどうかは不明だ。
「サプライチェーンは、何年も何十年もかけてゆっくりと変化していくだけです」と、ミラー教授は言う。「しかし、変化はしています」。
2. AIの端末内蔵化が進む
現在、「ChatGPT(チャットGPT)」のようなAIモデルとのやりとりのほとんどは、クラウド経由で実行されている。つまり、GPTに服を選んでもらう(あるいは彼氏になってもらう)場合、あなたの要求はオープンAI(OpenAI)のサーバーに送信され、そこに収容されているモデルに処理を促して結論を導き出してから(「推論」と呼ばれる)、回答が送り返される。クラウドに依存することにはいくつかの欠点がある。ひとつはインターネット・アクセスが必要なこと、もうひとつはあなたのデータの一部がモデルメーカーと共有されることだ。
そのため、ノートPCやスマホのようなデバイス上で直接AIモデルと情報をやり取りするエッジ・コンピューティングに多くの関心と …