香港の上訴審が政府の主張を支持し、「香港に栄光あれ(Glory to Hong Kong)」のインターネット配信を禁止したことは、さほど驚くべきことではなかった。弁護側の代表が存在しないこの裁判は、中国による統制強化と香港警察の暴力と闘う抗議参加者たちの非公式なテーマソングとなってきた曲をめぐる、数年におよぶ闘いのクライマックスとなった。しかし、西側の大手テック企業が実際にどのように対応をするかは、今のところまだ分からない。この禁止命令は、企業が遵守しやすいよう限定的な範囲で定められているとはいえ、企業がこれに従えば、権威主義的な支配に手を貸し、インターネットの自由を妨害しているとみなされる可能性がある。
国家安全保障への脅威であると主張し、この曲の拡散を阻止しようとする香港政府のこれまでの取り組みに対して、グーグル、アップル、メタ、スポティファイ(Spotify)などは、ここ数年ほとんど協力することを拒否してきた。一方で、国際的な騒動に発展して、香港の経済に悪影響を及ぼす恐れがあることから、香港政府は刑法を適用してコンテンツの削除要求に応じるよう強制することに躊躇してきた。
今回の新たな決定は、著作権侵害のケースにおける措置と同じように、刑事訴追がされない民事上の禁止命令をプラットフォームに出すことで、理論的には、プラットフォームがこの裁判所命令に従った場合の風評的な負の影響を軽減できるという第三の選択肢を見つけたようだ。
「今回の決定をよく見てみると、基本的には問題となっているテック企業に合わせて定められたものとなっています」。民主主義諸国の国会議員たちが設立した国際議員連盟「対中政策に関する列国議会同盟(Inter-Parliamentary Alliance on China)」で上級アナリストを務めるクォン・ソン・チン(鄺頌晴)は言う。この議員同盟は30カ国以上の国会議員を結びつけて中国の責任を追及しようとする擁護団体だ。今回の決定文が示唆しているのは、この曲の削除を命じる裁判所の判断が出た以上、テック企業はそれに従う準備ができていると考えられるとクォンは話す。
グーグルの広報責任者は、会社として裁判所の決定を精査中と述べたものの、MITテクノロジーレビューが送った具体的な質問には回答しなかった。メタの広報責任者は、アジア太平洋地域の多くのテック企業を代表する業界団体であるアジア・インターネット連盟(Asia Internet Coalition)に回答を委ねたが、同連盟からの返答はまだない。アップルとスポティファイは、コメントの要請に対してすぐには応じていない。
しかし、これら企業がどのような手段をとるかは関係なく、この決定はすでに影響を及ぼしている。裁判所命令からわずか24時間余りで、禁止命令で明示的に削除が求められている32本のユーチューブ動画の一部は、香港のみならず世界中のユーザーがアクセスできなくなった。
これら動画がプラットフォーム側によって削除されたのか、作成者によって削除されたのかは定かではないが、専門家らは、今回の裁判所の決定が前例となって、今後香港のインターネットでさらに多くのコンテンツが検閲されるのはほぼ確実だと言う。
「この曲の検閲は、インターネットの自由と表現の自由に対する明らかな侵害となるでしょう」と人権擁護団体フリーダム・ハウス(Freedom House)で中国、香港、台湾の調査部長を務めるワン・ヤーチョー(王亜秋)は話す。「グーグルやそのほかのインターネット企業は、使える手段をすべて使ってこの決定に異議を申し立てるべきです」。
インターネットから曲を削除
「香港に栄光あれ」は、2019年8月に「Dgx Music」という匿名グループによって初めてユーチューブにアップロードされて以降、抗議活動参加者たちに愛され、彼らのテーマソングとして称賛されてきた。中国が2020年に厳しい香港特別行政区国家安全維持法を成立させてから、その人気はさらに高まった。
また、当然のことながら、大きな論争の火種となった。「香港に自由を、私たちの時代の革命(Liberate Hong Kong, revolution of our times)」といった歌詞があり、香港や中国政府はその拡散を警戒していた。
この曲が国際的なイベントで繰り返し中国の国歌と間違われ、香港のアスリートが優勝したスポーツ大会で曲が流されたことで、政府の懸念はさらに高まった。香港政府のコンテンツ削除要求によれば、意図的かどうかにかかわらず、2023年半ばまでにこの間違いは8 …