この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
私は6週間前、「ホタル・ペチュニア(Firefly Petunia)」を予約注文した。生物発光菌の遺伝子を使って暗闇で光るように作られた観葉植物である。
米国や他の国々における反GMO(遺伝子組換え生物)感情について長年執筆してきたが、いよいよバイオテックで楽しんでみる時が来たと感じたのだ。この植物は、消費者が直接購入できるようになった最初の遺伝子組換え生物のひとつであり、確かにすばらしいもののようだ。
しかし、今週になって箱から取り出した2株のペチュニアは、葉が朽ち、ひどい状態だった。そして1日のうちにカサカサに枯れてしまった。自宅でバイオテックをやろうという私の最初の試みは、送料込みで84ドルを支払った末に完全な無駄に終わった。
購入した植物は、かっこいい黒の箱に入って届いた。外装には、中の生物に注意を向けさせる蛍光色のレタリングが施されていた。高さ13センチメートルほどのペチュニアは、ひとつずつ透明なプラスチック製容器に入れられて直立を保っていた。箱の裏には政府からの注意書きがあり、マメコガネ、イモゾウムシ、ヒメリンゴマイマイ、マイマイガは付いていないことが保証されていた。
問題は、箱を開けたタイミングである。このペチュニアを販売しているスタートアップ企業、ライトバイオ(Light Bio)からは、「光る植物をあなたに輸送中です」というメールがUPSの追跡番号と一緒に届いていたらしい。ところがその時、私はフロリダでの1週間の休暇に出かけていたのだ。私はメールを見ていなかった。見ていたとしても、荷物が到着する時には自宅にいなかった。
つまり、私のペチュニアは7日間、暗闇の中に放置されていたのだ。黒い箱はその最後の棺となった。
私の落ち度だろうか。おそらくそうなのだろう。だが、ライトバイオが私に植物を発送する時期は見当もつかなかった。ほかにも似たような経験をした人々がいる。本誌のマット・ホーナン編集長は、家族で日本へ発った日にペチュニアが届いたという。幸運にも、ペットのトカゲに餌をやっていたハウスシッターが箱を開けてくれた。マット編集長によると、植物は今も、庭でなんとか生きているという。
しかし、輝きはどうだろうか。丈夫さはどうなのか。
マット編集長は、これまでのところ、真っ暗な風呂場へ持ち込んでも植物が光っている様子はないと話す。とはいえ光を見るには、購入者は少し待たなければならないのかもしれない。いちばん明るく輝くのは花なのだ。花盛りを迎え、その神秘的な結果を見るには、あと数週間ペチュニアの世話をする必要があるのかもしれない。
「箱を開けたときに花は2つ咲いていました。でも残念ながら、それらは落ちてしまい、まだ輝きを見ることはできていません。またすぐ花が咲くことを願っています」。こう話すのは、カリフォルニア大学デービス校の博士研究員であるケルシー・ウッドだ。
ウッド博士は、大学で受け持っている授業でこの植物を使いたいと考えている。「生物発光植物を作ることは、合成生物学者の長年にわたる夢でした。ですが、肉眼で見るのに十分な明るさを得られなかったのです」。
箱から取り出してすぐに成功している購入者もいる。テーマパークに関するWebサイト「EYNTK.info」を運営するタリン・ホワイトがその1人だ。「ペチュニアはたくさんの保護材で包まれていて、栽培に必要なことを説明する小冊子が付いていました」とホワイトは言う。「完全な暗闇に置けば、強く輝きます。普通に暗い部屋にいるだけでは、しっかり光を見ることはできません。そうは言っても、派手な輝きを期待していたわけではないので満足しています」。
ホワイトの言葉となれば、それはかなり重要な推薦である。ホワイトはディズニーランドの元「キャスト」であり、植物が輝く惑星をアクションの舞台とする映画にちなんで命名された、同パーク「アバター」ライドの元オペレーターなのだ。「パンドラに近づいていると感じます。『ザ・ワールド・オブ・アバター(The World of Avatar)』が現実になっています」と、ホワイトはX(ツイッター)に投稿した。
時間生物学者のブライアン・ホッジも成功した1人である。彼は、ペチュニアをすぐに20センチメートルの大きな鉢に植え替え、養分と水分をしっかり与えた。そして日光の下に鉢を置いた。「1週間ほどすると、本当に急速に成長し始めました。そして10日目頃に蕾が現れ始めました。輝きは、予想していたのと同じくらいです。それはネオン灯のような光とは程遠く、もっとやさしく穏やかな輝きです」。カリフォルニア大学サンフランシスコ校でスタッフ・サイエンティストとして勤務するホッジはこう話す。
ホッジは、日常業務の中でこれまでにも生物発光体(主に細菌)を扱ってきたが、わずかでも光を見るためにはいつも光電子増倍管が必要だったと言う。「私の経験では、生物発光細胞が生み出す光を肉眼で捉えることはかなり難しいです。ですから、ペチュニアから見えた光量には満足しました。光がよく見えるようにするには、すべての照明を消すことがとても重要です」。
ホッジが投稿したペチュニアのスナップ写真は見栄えが良いが、それはアイフォーン(iPhone)で露出時間を2秒に設定しなければ撮ることはできないものだ。
ライトバイオの最高経営責任者(CEO)であるキース・ウッドは、植物がどのように枯れたかについての私のメールには返信しなかった。しかし先月のインタビューで、バイオ植物の販売は話題になっており、初回出荷分はおそらく売り切れるだろうと語っていた。新しい株を生産するために、ライトバイオは商業用の温室を借り上げ、水中で挿し芽をする。すると数週間後には新しい根が伸びる。ウッドCEOによると、この光るペチュニアは「一般の人々が遺伝子組換え技術の利点を簡単に認識し、体験している珍しい例」なのだという。
ホッジは、街灯の代わりに生物発光植物を使って光害と闘うという記事を読み、この植物に興味を持ったという。昼と夜が生命へ影響する仕組みについて研究する生物学者として、街の灯りとコンピューター画面が自然のサイクルを乱していることを心配しているのだ。
「最初にそれを手にする人間の1人になれるという機会を逃すことはできませんでした」とホッジは言う。「明かりを消すと、輝きは本当に美しいものです。それに、未来的なSF映画内の何かを目撃している気分になります」。
そう聞くと、もう一度試してみたくなる。
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発光する植物を並べて街灯を置き換えることが果たして可能なのかは分からない。しかし、光害が拡大していることは疑いようがない。地球上の人工光の放出量は、1992年から2017年の間に約50%増加した。一部の地域では最大400%も増えている。シェル・エバーグリーンは、明るいLED街灯への切り替えに関する記事の中でこう述べている。
科学者たちは、消費者の関心を引くのに十分なほど植物を明るく輝かせなければならない。しかしその方法を見つけるのに時間を要している。2016年には、キックスターター(Kickstarter)で失敗したプロジェクトを見たことがある。暗闇で輝くバラを約束したのに成果を得られなかったのだ。
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