絶滅に瀕するアザラシを救う、人工雪だまり作戦が温暖化でピンチ
フィンランドの研究チームはこの10年、絶滅の危機に瀕しているアザラシを保護するため、湖の氷の上に雪を押し固めた人工シェルターを作って繁殖の手助けをしてきた。だが、昨今の世界的な気温上昇で、湖が雪と氷で覆われなくなることが予測されている。 by Matthew Ponsford2024.04.24
午前10時前、水生生物学者のヤリ・イルモネンと彼の6人のチームは、平らで幅約820メートルの雪と氷の円盤に足を踏み入れた。この広大で何もない場所は、ロシアの西側国境近くまで達するフィンランド最大の迷路のような湖、サイマー湖の一角であり、1年の半分は開水面となっている。スノーブーツが着地するたびに、冷凍庫の引き出しが閉まるときの背筋がぞくぞくする擦れる音のような静電気が起こる。「雪の量が少ないです」と、1月中旬に期待していた20センチの半分以下の積雪しか確認できなかったイルモネンはこぼす。
チームの目的地は、湖の凍った表面から突き出た約1万4000の島のひとつだ。ここににたどり着くには、マイナス17℃の中を1時間近く歩かなければならない。イルモネンが足元の雪に細心の注意を払うのは、今日この雪が、世界で最も絶滅の危機に瀕しているアザラシであるサイマーワモンアザラシの命を救うシェルターを建設する材料になるからだ。
ある重要な問題のために、ボランティアたちは、この凍てつくような状況の中に繰り出している。その問題とは、 雪の洞穴の中で生まれた動物は、温暖化する地球上でどのように生き延びるのだろうかということだ。何千年もの間、サイマー湖の猛烈な冬には、湖の汀線沿いの高さ数メートルの雪だまりへと風が雪を運び込み、アザラシが洞窟のような巣穴を掘って風雨を避け、子を育てるのに最適な場所を提供してきた。しかしここ数十年、気候変動によって気温が上昇し、雪ではなく雨が降るようになったため、このような雪の吹きだまりは、十分な数を形成できなくなっている。
この11年間は、人間が介入して、自然がもはや確実に提供できないものを建設してきた。強風の働きを模倣するために手持ち型の除雪機を使って、人為的な雪の吹きだまりを作ることは、狩猟や産業公害の抑制、刺し網を使った漁に禁漁期間を設けることなどに続く、サイマー湖のアザラシを絶滅寸前から復活させた一連の対策における最新のものである。1980年代には100頭ほどだったアザラシの数は、現在では約400頭にまで回復している。2014年以降に生まれたサイマーワモンアザラシの半数に当たる約320頭の子アザラシが、これらのシェルターの中で誕生した。
今年、イルモネンとフィンランドの公園野生生物局の同僚たちは、冬 …
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