中国テック規制の深謀遠慮、
「振り子の法則」は
AI政策にも当てはまるか
中国の政府は、国内のテック企業を厳しく規制していると思われがちだ。だが、香港大学のアンジェラ・フユエ・チャン准教授によると、政府の規制は国内産業の成長を維持するために、意図的に緩められていることがあるという。 by Zeyi Yang2024.04.12
中国のテック業界に対する規制方法は、まったく予測不可能に見えるかもしれない。中国政府は、中国テック企業の業績を称えたかと思えば、翌日には敵対していることもある。
しかし、新刊 『High Wire: How China Regulates Big Tech and Governs Its Economy(綱渡り:中国はビッグテックをどのように規制し、経済を統治するか)』の著者である香港大学のアンジェラ・フユエ・チャン法学准教授は、中国がテクノロジーを規制するやり方には パターンがあると主張する。中国の政策変更は、ほとんどの場合、3つの段階をたどる。まず緩いアプローチによって、企業は拡大し競争するための相対的な柔軟性を与えられる。そして突然の厳しい取り締まりにより利益が大幅に削減され、最終的には規制の新たな緩和が起こる、という流れだ。
アリババ(Alibaba)とテンセント(Tencent)を例にとってみよう。2000年代以降、それら2つのテック大手は数多の合併と投資を繰り返してきた。その結果、彼らのビジネス帝国は中国におけるデジタルライフのほぼすべての面を含むまでに拡大した。この貪欲な拡大は、より高い料金と少ない選択肢というユーザーの犠牲の上で成り立ったものだ。しかし、中国の規制当局はその状況を放置した。そして2020年、政府は突如としてテック企業への取り締まりを開始した。過去の合併や買収に対する調査が前触れもなく始まり、独占禁止法違反を犯した企業には多額の罰金が発生した。 これにより、アリババにも28億ドルの罰金が科せられた。
MITテクノロジーレビューはチャン准教授に取材し、自身の新著と、人工知能(AI)のような重要な新分野を含む中国テック業界に対する洞察について、話を聞いた。
振り子の揺れ
「書籍内でも引用した、一放就乱、一抓就死(緩めれば混乱し、握りしめれば死す)ということわざがあります」(チャン准教授)。中国のこの表現は、規制当局によるテクノロジー業界の取り締まりを完璧に捉えている。劇的ながらも予測通りに、手抜きとやり過ぎとの間を揺れ動いているのだ。
著書の中でチャン准教授は、次のように主張する。中国のテクノロジー・プラットフォームは、長年にわたって競争の妨害、プライバシーの侵害、ギグワーカーの労働者権利の侵害で非難されてきた。ところが規制当局は、2020年後半に突然企業を監視下に置くまで、3つの分野すべてでそれらを受け入れていたという。そして2022年に取り締まりがピークを過ぎた後、3分野すべてで規制当局は動きを鈍くし、中国企業との妥協に達した。
著書の例以外でも、「このパターンは、ほぼすべてのセクターに当てはまると思います」とチャン准教授は言う。2010年代半ばのピア・ツー・ピアの融資仲介サービスのような金融イノベーションから、パンデミック(世界的な流行)の間に爆発的に人気が …
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