世界の大多数の人は、メタのテキストベースのソーシャルネットワーク、スレッズ(Threads)のことなど何カ月も忘れていただろう。しかし、台北のプロのデザイナーであるリウは、スレッズでかつてないほどの注目を集めている。
「何気ない私の投稿を、多数の人がリポストしてくれることが多いんです。そんなことは、ツイッターでは数カ月に一度でしたが、スレッズでは数週間、あるいは数日に一回起こるんです」とツイッター(現X)を8年以上使い、1月からはスレッズに投稿しているリウは言う(彼女はプライバシー保護のため、名前の記載は姓のみにとどめてほしいとMITテクノロジーレビューに求めた)。
このような人気の高まりを感じているのはリウだけではない。スレッズは2023年7月のローンチ後、急激な伸びを見せたが、大部分のユーザーはすぐに離れた。しかし、台湾では最近、人々がこのプラットフォームに戻り始めている。台湾でスレッズは数カ月にわたって、アプリ・ストアのダウンロード・チャートを席巻している。著名な高官らがアカウントを開設し、若者の間では最も人気の高いプラットフォームになっている。
メタも、この関心の高まりには気づいている。3月上旬、インスタグラムのアダム・モッセーリ責任者は「何でも聞いて(ask me anything)」形式のやり取りの中で、「(スレッズは)さまざまな国で本当にうまくいっていますが、中でも台湾では例外的と言えるほど好調です。見ていておもしろいぐらいです」とシェアした。メタの広報担当者は、同責任者が台湾での傾向について公言したことは認めたが、台湾におけるスレッズの躍進に関する詳細なデータの提供は拒否した。
ユーザーや観測筋は、台湾におけるスレッズの予想外の成功に関していくつかの要因を挙げている。その第一は、台湾ではツイッターが本当の意味で主流になったことがなかったという点だ。スレッズはフェイスブックなどのメタの他のプラットフォームが魅力を失いつつあるときに、開かれた議論を求める声に応えた。1月に実施された台湾総統選挙の期間中にも、多くの新規アカウントが開設され、政治や社会問題について活発な議論が交わされた。
その結果、台湾の多くの人々がスレッズに登録し、日常的に利用されている。リウは平均して毎日1時間弱をこのアプリに費やし、心に浮かんだことを何でも書き込んでいる。もともと彼女の友人はインスタグラムでつながったリアルな知り合いだったのだが、今ではスレッズを通じてどんどん新しい友人ができている。
「私はごく普通の、内向的な人間です。(中略)スレッズで注目されることにはとても驚いていますし、光栄にも思います。他のプラットフォームでは、こんなことは一度だってありませんでした」とリウは言う。
選挙はスレッズにとってセカンドチャンス
イーロン・マスクによる買収でツイッターは悪評を被り、長年のツイッター・ユーザーの多くがツイッターに替わる手段を求めていた。そんな状況の中で、スレッズはツイッターに対するメタの回答という形で世界に送り出された。スレッズがお試し的に使われ始めた他の多くの国や地域とは違って、台湾の人々はそもそもツイッターを本格的に使ってはいなかった。ネバダ大学ラスベガス校のオースティン・ワン准教授(政治学)はメールにこう書いている。「多数の調査が示していますが、ツイッターを常用している台湾の人はせいぜい人口の1〜5%にすぎません」。
ただ、少数の例外はあった。台北の大学生、セバスチャン・ホアンはこう語る。「私は(ツイッターを)使っていますが、理由の第一は、Kポップ好きの人たちがアイドルの画像を保存するため。第二は、LGBTコミュニティ(特にゲイの男性)が出会いを求めるサブカルチャー的ソーシャル・プラットフォームとして使っているからです」 。
しかし、こうしたニッチなグループを別にすれば、スレッズは台湾のユーザーを獲得する新たなチャンスを得た。「私が見るところ、(スレッズは)ツイッターのソーシャル化の論理を広め、それをメインストリームに押し上げたのです」とホアン …