理想とギャップ、プラグイン・ハイブリッド車のメリット活かすには?
プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)は電気と燃料の2つのモードを使い分けられる。しかし、ユーザーの使い方次第で、期待した環境性能が発揮できないリスクもある。適切な活用法を理解することが重要だ。 by Casey Crownhart2024.04.09
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
多国籍料理のレストランで食事をしたり、歌とダンスのテレビドラマ「グリー(Glee)」の各話を見たことがある人なら、融合が素晴らしいものになり得ることを知っているだろう。
プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)は、自動車業界が今まさに必要としている融合なのだろう。このタイプの車は、電気モードで小型バッテリーを使って短い距離を走ったり、副燃料で長い距離を走ったりする。これにより、完全な電気自動車への移行を求めずして、排出ガスが削減できる。
ただし、その自由にはちょっとした複雑さが伴うかもしれない。プラグイン・ハイブリッド車は、ドライバー次第のところがあるからだ。これは良くない結果につながる可能性がある。なぜなら、最近の記事「プラグイン・ハイブリッド、想定以上の環境負荷のなぜ」で書いたように、電気モードが予想ほど使われない傾向があり、その結果、車の排出ガスが予想以上に多くなってしまうからだ。
では、あなたはプラグイン・ハイブリッド車と相性がいいだろうか? この記事では、プラグイン・ハイブリッド車について知っておくべきことを述べていく。
電気による走行距離は限られており、条件が重要
プラグイン・ハイブリッド車のバッテリー性能は非常にささやかなもので、それが走行距離にも反映される。現在販売されているモデルが電気で走行できる距離は、一般モデルで40〜65キロメートルほどで、少数のオプションモデルでも80キロメートル程度である。
冬場の条件下では、走行距離がさらに短くなる可能性がある。ガソリン車でも寒いと燃費が落ちるが、電気自動車では低温の影響はもっと大きい。バッテリー駆動の自動車の走行距離は、氷点下では25%短くなる可能性があり、ヒーターの効き具合や運転の仕方によってはもっと短くなることもある。
バッテリーが小さいプラグイン・ハイブリッド車では、このような走行距離の短縮は、たとえ短距離通勤であっても影響が大きい。以前、「トヨタの賭け、EV一辺倒ではなくハイブリッド車を売り続ける理由」という記事を書くためにある研究者に話を聞いたところ、彼は1年のうち約9カ月は、自分のプラグイン・ハイブリッド車を常に電気モードで走らせていると話していた。一晩かけて一度充電すれば、ほとんどの場合、彼は職場との往復ができる。しかし、冬になると電気での走行距離が短くなるため、移動の一部にガソリンが必要になる。
カリフォルニアやスペイン南部(といった温暖な地域)に住む幸運な人々は気にしなくていいかもしれないが、寒冷地の住民は走行距離が短くなるというこの問題は考慮に入れるべきかもしれない。ガレージのような暖かい場所に駐車するのは効果的だし、コンセントにつないでいる間に車を暖めておくと走行距離を伸ばすことができる。
充電はキーとなる要素
自宅に安定した充電設備がないなら、現実的に見て、プラグイン・ハイブリッド車は最良の選択ではないかもしれない。
ガレージ付きの一戸建てに住んでいない電気自動車のドライバーは、充電に工夫を凝らす余地がある。話を聞いたニューヨーク市のドライバーの中には、30分ほど停車して必要に応じて公共の急速充電器ですべての充電をすませる、という人もいた。
しかし、プラグイン・ハイブリッド車の場合、急速充電には対応せず、急速充電器での充電ができない車種も多い。プラグイン・ハイブリッド車は、自宅や駐車場、職場に充電器がある人に最も向いているだろう。バッテリー容量にもよるが、プラグイン・ハイブリッド車の充電にはレベル1充電器で約8時間、レベル2充電器で2~3時間かかる。
プラグイン・ハイブリッド車のドライバーの大部分は、公式推定値を下回る充電しかしていない。つまり、平均すると、ドライバーは予想を上回る排出ガスを出しており、おそらく予想を上回る燃料費を支払っている。プラグイン・ハイブリッド車にまつわる予想の詳細については、「プラグイン・ハイブリッド、想定以上の環境負荷のなぜ」をお読みいただきたい。
近いうちに(少なくとも一部の場所では)より優れたプラグイン・モデルが登場するかも
米国では州の定める規則によって、近いうちにプラグイン車の選択肢が増える可能性がある。
カリフォルニア州は最近、自動車メーカーに低排出ガス車の販売比率を高めることを義務付ける規則を定めた。2026年以降、自動車メーカーは環境に配慮したクリーンカーの販売比率を35%とし、2035年にはその比率を100%まで引き上げることが求められる。ニューヨーク州、マサチューセッツ州、ワシントン州など、他のいくつかの州も規則の制定に乗り出している。
カリフォルニア州の規則では、電気による走行距離が80キロメートル以上のものだけがプラグイン・ハイブリッド車と認定される。国際クリーン交通委員会(ICCT:International Council on Clean Transportation)のアーロン・アイゼンスタット上級研究員が話すように、非常に近い将来、長距離を電気走行できるプラグイン・ハイブリッド車の選択肢が増える可能性があるということだ。
プラグイン・ハイブリッド車に対する支援策を実施していない国もあれば、ドライバーをプラグイン・ハイブリッド車から完全な電気自動車に積極的に誘導している国もある。欧州連合(EU)は2035年に、ハイブリッド車全種を含め、ガソリン走行する車の販売を終了させる予定だ。
結局のところ、プラグイン・ハイブリッド車は短期的に見れば、陸上輸送から出る排出ガスの削減に役立つ。特に、ドライバーが、完全な電気自動車に乗り換える心構えや意志を持たない場合にはそうである。しかし、いずれは妥協を排して完全なゼロ・エミッションという選択肢に移行する必要があるだろう。
MITテクノロジーレビューの関連記事
現実世界の運転習慣が、プラグイン・ハイブリッド車の理論上の長所を損なう可能性がある。なぜドライバーが問題になる恐れがあるのか、詳細は「プラグイン・ハイブリッド、想定以上の環境負荷のなぜ」をお読みいただきたい。
「トヨタの賭け、EV一辺倒ではなくハイブリッド車を売り続ける理由」に書いたように、プラグイン・ハイブリッド車がすぐになくなることはないだろう。
ハイブリッド車や電気自動車について、まだ疑問があるだろうか? 「ハイブリッドはアリか? EVに関する読者の質問に答える」でいくつか回答している。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。