プラグイン・ハイブリッド、想定以上の環境負荷のなぜ
プラグイン・ハイブリッド車は、電気自動車(EV)への移行用として販売されることが多い。しかし、欧州の新しいデータは、プラグイン・ハイブリッド車の排出量を過小評価していることを示している。 by Casey Crownhart2024.04.01
プラグイン・ハイブリッド車は、ガソリン車の利便性とバッテリー電気自動車の気候上の利点を兼ね備えた、理想的な自動車とされている。しかし、新たなデータによると、公式に発表されている数値の中には、プラグイン・ハイブリッド車の排出量を著しく過小評価しているものがあることが分かった。
欧州委員会(EC)の新たな実走行データによると、プラグイン・ハイブリッド車の二酸化炭素排出量は、公式発表の推定値のおよそ3.5倍になっている。この違いはドライバーの習慣に大きく関係している。人々はプラグイン・ハイブリッド車を充電したり、電気モードで運転したりすることが予想以上に少ない傾向にあるのだ。
「プラグイン・ハイブリッド車が環境に与える影響は、公式の数字が示しているよりも格段に悪いものです」。独立非営利団体「国際クリーン交通委員会(ICCT)」のヤン・ドーノフ研究責任者は言う。
従来のハイブリッド車が燃費をわずかに向上させるために小さなバッテリーを搭載しているのに対し、プラグイン・ハイブリッド車は短距離であれば完全な電気走行が可能だ。プラグイン車の航続距離は通常、電気走行モードでおよそ30~50マイル(50~80キロメートル)である。ガソリンやディーゼルのような副燃料を使用する場合、航続距離はさらに長くなる。しかし、ドライバーは推定よりもはるかに多くの燃料を使用しているようなのだ。
欧州委員会の新しい報告書によると、自動車が使用する燃料量の経時的測定に基づくと、プラグイン・ハイブリッド車のドライバーは1キロメートル走行するごとに約139.4グラムの二酸化炭素を排出している。一方、メーカーによる公式の推定値は研究室での試験によって決定されるもので、1キロメートル走行あたりの排出量は39.6グラムとされている。
このギャップの一部は、研究室での管理された条件と実走行との違いによって説明することができる。従来の内燃機関車でさえ、実際の排出量は公式の推定値よりも多い傾向にある。しかし、その差はおよそ20%であり、プラグイン・ハイブリッド車のように200%以上ではない。
大きな違いは、ドライバーのプラグイン・ハイブリッド車の使い方にある。研究者は過去の研究でこの問題を認識していた。そのうちのいくつかは、クラウドソーシング・データを使用したものだ。
2022年に発表されたICCTのある研究では、研究者はプラグイン・ハイブリッド車に乗っている人々の実際の運転習慣を調査した。公式発表の排出量を決定するために使用された方法では、ドライバーは70〜85%の時間、自動車の動力源として電気を使用すると推定されていた。しかし、実走行データでは、プラグイン・ハイブリッド車の所有者は45〜49%の走行で電気モードを使用していることが示された。また、会社から支給された車の場合は、平均11〜15%の使用に過ぎなかった。
この現実と推定値の差は、気候上の利益やガソリン代の節約を期待してプラグイン・ハイブリッド車を購入するドライバーにとって問題となり得る。しかし、ドライバーの電気使用が予想より少なければ、宣伝されていたほどの劇的なメリットは得られないかもしれない。新たな分析によると、プラグイン・ハイブリッド車での移動は、公式の試算では4分の3近く排出量を削減できると予測されているものの、実際は従来の自動車での移動に比べて23%しか削減できていない。
「人々は自分たちが目の当たりにしていることを、現実的に考える必要があります」とドーノフ研究責任者は話す。プラグイン・ハイブリッド車を可能な限り電気モードで走行させることで、経済的・環境的利益の最大化に役立たせることができると同研究責任者は続ける。
この期待と現実のギャップを埋めることは、個人のためだけでなく、排出削減を目的とした政策が意図した効果を発揮するためにも重要だ。
欧州連合(EU)は昨年、2035年にガソリン車の販売を終了する法案を可決した。これは、世界の二酸化炭素排出量の約5分の1を占める輸送部門からの排出削減を目的としている。EUでは、メーカーは販売するすべての車について特定の平均排出量にすることが義務付けられている。もしプラグイン・ハイブリッド車の実走行での排出削減効果が予想よりはるかに劣るとしたら、それは、輸送部門が気候目標に対して、現在評価されているよりも実際には前進していないことを意味しているのかもしれない。
プラグイン・ハイブリッド車が期待されていたほどの成果を上げていないことは米国でも問題になっている、とICCTサンフランシスコ事務所のアーロン・アイゼンスタット上級研究員は話す。例えば、ICCTのある調査では、実際の燃料消費は米環境保護庁(EPA)の推定値よりも約50%高かった。米国では公式の推定排出量の計算方法が異なること、また、ドライバーの運転習慣が異なり、自宅での充電を利用しやすいことも一因となって、この期待と現実とのギャップはより小さなものとなっていると同上級研究員は語る。
バイデン政権は最近、新たなテールパイプ排出規制を最終決定した。これは、販売する車両の排出量についてメーカーに対してガイドラインを定めるものだ。この規制は新車販売時の排出削減を目的としているため、2032年までに米国で販売される新車の約半数が、この基準を満たすためにゼロ・エミッションを達成する必要がある。
EUと米国は今後、ドライバーのプラグイン・ハイブリッド車の使用状況に関する推計を更新する予定だ。これにより、両市場の政策はより現実を反映したものになるはずだ。EUは2025年から、米国はそれより遅れて2027年から、ドライバーの行動に関する推定を調整することになる。
- 人気の記事ランキング
-
- Bringing the lofty ideas of pure math down to earth 崇高な理念を現実へ、 物理学者が学び直して感じた 「数学」を学ぶ意義
- Promotion Innovators Under 35 Japan × CROSS U 無料イベント「U35イノベーターと考える研究者のキャリア戦略」のご案内
- The 8 worst technology failures of 2024 MITTRが選ぶ、 2024年に「やらかした」 テクノロジー8選
- Google’s new Project Astra could be generative AI’s killer app 世界を驚かせたグーグルの「アストラ」、生成AIのキラーアプリとなるか
- AI’s search for more energy is growing more urgent 生成AIの隠れた代償、激増するデータセンターの環境負荷
- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。