「おいしいビール」どう作る? AIが導く味わいの新境地
もうすぐビールのおいしい季節がやってくる。250種類のベルギービールを分析した機械学習モデルは、消費者の評価を予測し、さらにおいしくするための改良案を提案できるという。 by Rhiannon Williams2024.03.28
おいしいビールを造るのは難しい仕事だ。大手ビール会社は、従業員の中から訓練を受けたテイスターを何百人も選抜し、新製品をテストしている。だが、そのような感覚的なテイスティング・パネルの運営には多額の費用がかかるし、おいしいと感じるかどうかは非常に主観的なものだ。
もし人工知能(AI)が、その負担を軽くするのに役立つとしたらどうだろうか。3月26日にネイチャー・コミュニケーションズ誌に掲載された研究によれば、新たなAIモデルは消費者が特定のベルギービールをどの程度高く評価するかだけでなく、ビールをよりおいしくするために醸造者はどのような化合物を加えるべきかについても、正確に特定できるという。
この種のモデルは、食品・飲料メーカーが新製品を開発したり、既存のレシピに手を加えて消費者の嗜好により合うようにしたりするのに役立つかもしれない。また、これまでテストに投入してきた多くの時間とお金の節約につながる可能性がある。
この研究チームは、AIモデルを訓練するため、5年間で250種類の市販のビールを化学的に分析し、それぞれのビールの化学的性質と風味化合物を測定した。これがビールの味を決定づけることになる。
次に、研究チームは、これらの詳細な分析結果と、訓練を受けたテイスティング・パネルによるビールの評価(ホップ、酵母、モルトの風味など)、および人気のビール評価サイト「レートビアー(RateBeer)」から収集した同じビールに対するレビュー18万件を組み合わせ、そのビールの味、外観、香り、全体的な品質についてスコアを算出した。
化学的データと感覚的特徴が結びついたこの大規模なデータセットを利用して、ビールの味、香り、口当たりと、そのビールに対する消費者の評価を正確に予測するため、研究チームは10個の機械学習モデルを訓練した。モデルを比較するため、データを訓練用セットとテスト用セットに分け、訓練用セットのデータでモデルを訓練した後、テスト用セットをモデルがどの程度正確に予測できるかを評価した。
その結果、レートビアーでのビールの評価を予測するテストにおいて、訓練された人間の専門家よりも、すべてのAIモデルのほうが優れていることが分かったという。
これらのモデルを通して研究チームは、ビールに対する消費者の評価に寄与する特定の化合物を突き止めることができた。あるビールにそれらの特定化合物が含まれている場合、人々がそのビールを高く評価する可能性がより高かったのである。例えば、酸味のあるサワービールに存在する乳酸を他の種類のビールに加えることで、よりフレッシュな味わいとなり、味や評価が向上するとモデルは予測した。
「モデルにこれらのビールを分析させ、『どうすればこれらのビールをもっとおいしくできるのか?』と問いかけました」と、このプロジェクトに取り組んだルーヴェン・カトリック大学教授で、VIB-KUルーヴェン微生物学センター(VIB-KU Leuven Center for Microbiology)の所長であるケヴィン・フェルストレペンは述べている。「その後、実際にビールに風味化合物を加え、変更を加えました。そしてブラインド・テイスティングを実施したところ、驚いたことにビールはよりおいしくなり、全般的な評価が上がったのです」。
フェルストレペン所長はまた、飲料業界にとって大きな課題である、よりおいしいノンアルコール・ビールの開発にも利用できる可能性があると考えている。研究チームは、このモデルの予測を利用してノンアルコール・ビールに化合物の混合物を加えた。人間のテイスターの評価では、コクと甘さの点で以前のものより味(に対する評価)が大幅に向上したという。
このような機械学習アプローチは、食品の食感や栄養を探求したり、さまざまな消費者層に合わせて成分を適合させたりする上でも非常に有用な可能性があると、ワシントン州立大学のキャロリン・ロス教授(食品科学)は話す(同教授は今回の研究には関与していない)。例えば、年配の人ほど、食感や成分の複雑な組み合わせにあまり魅力を感じない傾向があるという。
「特に異なる消費者層に注目し、その消費者に合った具体的な製品を考案しようとしている場合、探求できる領域は非常に広いでしょう」とロス教授は話している。
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- リアノン・ウィリアムズ [Rhiannon Williams]米国版 ニュース担当記者
- 米国版ニュースレター「ザ・ダウンロード(The Download)」の執筆を担当。MITテクノロジーレビュー入社以前は、英国「i (アイ)」紙のテクノロジー特派員、テレグラフ紙のテクノロジー担当記者を務めた。2021年には英国ジャーナリズム賞の最終選考に残ったほか、専門家としてBBCにも定期的に出演している。