中国テック事情:中身すかすか、AI系インフルエンサーに制裁
中国のAI系インフルエンサーが、中身の薄いオンライン講座を売りさばいて膨大な利益を上げている。稼ぎの舞台となったソーシャルメディアは、検索の対象から外すなどの対抗措置に出ている。 by Zeyi Yang2024.04.16
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
昨年、数人の中国人インフルエンサーが人工知能(AI)に関する短いビデオ・レッスンを広く売りさばいて数百万ドルを稼いだ。この新たなテクノロジーが及ぼす生活への影響がまだ不透明なことに関して抱く人々の不安につけこみ、利益を上げているのだ。
しかし、そうしたインフルエンサーたちの稼ぎの舞台となったソーシャルプラットフォームが、対抗策を打ち出してきた。ウィーチャット(WeChat)とドウイン(Douyin:抖音)が数週間前から、彼らのアカウントを停止したり、削除や制限をしたりし始めたのだ。こうしたプラットフォームで活動するインフルエンサーたちは、長い間、人々の不安をトラフィックと利益に変えてきた。しかし、最近になり、中国のソーシャルプラットフォームは、手遅れになる前にダメージを食い止めようと措置を講じている。
反撃は2月に始まった。講座の内容が薄いことに学生たちが腹を立て、ソーシャルメディアで不満を訴えたのだ。学生たちによれば、講座は約束されていた教育的内容とは程遠いものだという。
「198元(27ドル50セント)を支払いましたが、最初の3つの講座は実際の内容がありませんでした。そのまま1980元を払い続けて次の講座を受講することを促すだけのものです」と、ソーシャルメディア「小紅書(Xiaohongshu)」の中国人ユーザーであるベッシーは、自分の経験について投稿した。この講座は、連続起業家からスタートアップ企業のメンターに転身したリー・イージョウが作成したものだった。リーはAIのバックグラウンドがないにもかかわらず、2022年11月に「チャットGPT(ChatGPT)」がリリースされると、AIについて解説し、人々の不安を煽る投稿に活動の方向を転換した。
リーは入門講座を27ドル50セントで、上級講座はその10倍の料金で販売した。安い方の講座には40本のレッスンビデオが含まれており、そのほとんどは長さ10分程度のものだった。リーの講座は、特定の生成AIツールのチュートリアルと、中国のAI企業の幹部との対談、および時間のより効果的な管理方法といった関係のないテーマの初歩的な解説で構成されていた。
リーのレッスンは商業的に大成功を収めた。ソーシャルメディア・データ分析サイトである飛瓜(Feigua)によれば、昨年は25万ユーザー以上に販売され、600万ドル以上の収益がもたらされた可能性がある。
AIのバックグラウンドがないにもかかわらず、間に合わせの対処法でAIに対する人々の不安を鎮めることにビジネスチャンスを見出したインフルエンサーは他にもいる。700万人以上のフォロワーを持ち、最近まで主にマーケティングや個人金融について話していたインフルエンサー の“ティーチャー・ヒー(Teacher He)” や、同じく数百万人のフォロワーを持ち、普段は基本的な経済学と、9.11否定論のようなセンセーショナルな陰謀論を織り交ぜた動画を投稿しているチャン・シートンなどだ。それらのクリエイターもまた、リーと同じような料金で初心者向けのAIレッスンを提供している。
不満は講座の質だけではない。購入者は、返金を受けるのが難しかったと報告している。ベッシーはMITテクノロジーレビューに、自分は早期に返金を申請したため払い戻されたが、購入後1週間以上経ってから申請した他の人は返金を拒否されたと話した。北京を拠点に活動するAIコミュニティのWebサイトも、自分たちのユーザーが提供した無料のテンプレートをリーが流用し、講座の一部として営利目的で販売していると非難している。
2月下旬までには、それらのビデオレッスンをホスティングしていたプラットフォームが苦情を聞き入れ始めた。リーや他の指導者によるAI講座はすべて、中国のソーシャルメディアと電子商取引Webサイトから削除された。リーは2月下旬にソーシャルメディアのチャンネルを停止され、それ以来、どこにも投稿していない。“ティーチャー・ヒー” やチャン・シートンなどの他のクリエイターたちも、沈黙を続けている。
MIT テクノロジーレビューはリーと “ティーチャー・ヒー” に質問を送ったが、反応はなかった。しかし、チャン・シートンのところで働く顧客担当者は、すべての返金要求を12時間以内に処理していると話した。また、過去3週間にわたり何も投稿していないのは、自分たち自身の判断であるという。
中国版ティックトック(TikTok)のドウイン(Douyin)では、300万人以上のフォロワーがいたリーのアカウントが、現在、検索結果から外されている。別の人気ショート動画プラットフォームであるWeChatチャンネルは、2月最終週に、リーやその他の似たようなクリエイターが新たなフォロワーを獲得するのをブロックした。他のもっと小規模なプラットフォームも措置を講じている。AIに特化したコミュニティへのアクセスを販売するため多くのインフルエンサーが利用していたパトレオン(Patreon)風のプラットフォームであるジーシーシンチュー(Zhishi Xingqiu)は現在、「AI」「リー・イージョウ」「ソラ(Sora)」などのキーワードによる検索をブロックしている。
しかし、どのプラットフォームも、それらの指導者たちがどのルールに違反したのか、明示していない。彼らはマーケティング活動において大げさな約束をしたかもしれないが、その活動が本当に「詐欺」に当たるのかどうかはわからない。ドウインとWeChatは、それぞれが決定した措置についてコメントを拒否した。
しかし、制限が撤回される可能性を示す兆候もある。中国のソーシャルメディア・プラットフォームは、規則を軽視していると判断したユーザーのアカウントを永久に削除することが多い。だが、これらのAI講座の制作者たちのアカウントは、すべてのプラットフォームで維持されている。WeChatのAI講座制作者は2週間ほど新たなフォロワーの獲得ができなかったが、3月中旬にはひっそりとブロックが解除された。ドウインではリーのアカウントがアプリ内検索の結果から隠されていたが、過去の動画はまだ残っており、リーのプロフィールページに直接行けば見つけられる。
これまでのところ、中国政府はこの現象に直接対処したり、公式な立場を示したりしていない。近年、中国政府はインフルエンサーの活動や投稿を検閲するため、ライブ配信業界を厳しく統制してきた。それに応じて中国のプラットフォームは、時には政府の命令よりも先に独自のルールを設定し、自らがコンテンツ規制における役割を果たしていることを示している。
AI講座の制作者と彼らのレッスンがネット上で削除されたにもかかわらず、それらのレッスンにアクセスしたがる中国人はまだ大勢いる。ソーシャルメディアには、ファイル共有を通じてリーの講座の海賊版ビデオを、おそらく無許可で再販売している人々もいる。現在、27ドル50セントではなく数ドルで、すべての講座が収録されたパッケージにアクセスできる。
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- ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
- MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。