ハーバード大、10年越しの太陽地球工学実験を断念
ハーバード大学の研究チームは、かねてから物議を醸していた太陽地球工学の成層圏での実験を中止することを発表した。実験の中心となる研究者のチーム離脱を受けての決定だが、透明性の高い方法で実験プロジェクトを進めようとした姿勢を評価する声もある。 by James Temple2024.04.02
ハーバード大学の研究チームは、度重なる延期と世論の批判を受け、成層圏で小規模な地球工学実験を実施しようとしていた長年にわたる取り組みを中止した。
3月18日に発表された同大学の声明で、このプロジェクトの研究主宰者であるフランク・コイチュ教授は、「もはやこの実験は実施しない」と述べた。
太陽地球工学(ソーラー・ジオエンジニアリング)の基本コンセプトは、太陽光を散乱させる微粒子を大気中に散布することで、地球温暖化に対抗できるかもしれないというものだ。
ハーバード大学の実験計画は、プロペラとセンサーを搭載した高高度気球を打ち上げ、数キログラムの炭酸カルシウムや硫酸、その他の物質を地球上空に放出するというものだった。その後、気球は旋回して噴煙の中を飛行し、粒子がどの程度拡散するか、太陽光をどの程度反射するか、その他の変数を測定することになっていた。声明によると、この気球は今後、太陽地球工学とは関係のない成層圏の研究に再利用される予定だという。
太陽地球工学研究の大部分はこれまで、研究室やコンピューターモデルで実施されてきた。ハーバード大学の「成層圏制御摂動実験(SCoPEx:Stratospheric Controlled Perturbation Experiment)」は、成層圏で実施される初の科学的取り組みになると期待されていた。しかし、この実験は当初から物議を醸し、最終的には、別の実験が、地上約10キロから50キロの範囲にある成層圏に反射物質を意図的に放出するという一線を越えてしまった。
昨年春、このプロジェクトの中心的な科学者の1人であるデビッド・キース教授はシカゴ大学に移った。キース教授は現在、同大学で気候システム工学の取り組みを率いている。同教授の新しい研究グループは、二酸化炭素除去や、氷河の補強などの地域的な気候介入をはじめとして、太陽地球工学に対するさまざまなアプローチを探求する予定だ。
昨年の夏、ハーバード大学の研究チームは諮問委員会に実験の「中断」を伝えた。しかし、この実験は何カ月も宙に浮いたままだった。10月初旬の時点では、プロジェクトの運命に関する最終決定は下されていなかったと、ハーバード大学の太陽地球工学研究プログラムの諮問委員を務めるダニエル・シュラグ教授は、当時、MITテクノロジーレビューに語っていた。
太陽地球工学研究の提唱者らは、気候変動の危険を大幅に低減できる可能性があるため、このコンセプトを調査すべきだと主張している。研究が進めば、潜在的な利益、リスク、さまざまなアプローチ間のトレードオフを、科学者らはよりよく理解できるようになるかもしれない。
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