干ばつで発電量が大幅減、気候変動で苦境に立つ水力発電
水力発電は、ニーズに応じてオン/オフできる優れた再生可能電力源だ。しかし昨年は、気候変動による干ばつで水力発電所の発電量が減少し、化石燃料でその穴を埋めることにより、世界の二酸化炭素排出量が一昨年よりも増加してしまった。 by Casey Crownhart2024.03.22
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
水力発電はクリーン・エネルギーの定番である。近代的な水力発電は1世紀以上前から存在し、世界最大の再生可能電力源の1つとなっている。
しかし昨年は気象条件のせいで水力発電が大幅に不足し、発電量は記録的な落ち込みを見せた。実際、この減少は世界の二酸化炭素排出量に測定可能な影響を与えるほど大きかった。国際エネルギー機関(IEA)の新しい報告書によると、2023年のエネルギー関連二酸化炭素総排出量は約1.1%増加した。その増加分の40%を占めているのが、水力発電である。
年々変化する気象と長期的な気候変動の狭間で、水力発電はこれから難しい時期を迎えるかもしれない。今回は、この電力源に何を期待でき、それが気候目標にとってどのような意味を持つ可能性があるのか、紹介する。
枯渇
水力発電所は、動いている水を使って発電する。今日の水力発電所の大半は、ダムを使って水をせき止め、貯水池を作る。運営事業者は必要に応じてその水を発電所に流すことができ、それによって好きなときにオン/オフできるエネルギー源が作り出される。
この需要呼応性は、送電網にとって天の恵みほどの重要性を持つ。特に、再生可能エネルギーの中には風力や太陽光のように、コントロールがあまり容易ではないものもあるからだ。
しかし、ほとんどの水力発電所にある程度の需要呼応性があるとはいえ、この電力源はやはり天候に依存している。一般的に、貯水池を満たすのは雨や雪であるためだ。世界中の多くの地域が大干ばつに直面したここ数年は、それが問題になってきた。
実は、世界の水力発電能力は2023年に約20ギガワット増加している。しかし、気象条件のせいで水力発電からの発電量は全体として減少した。
その落ち込みは特に中国において深刻であり、発電量は4.9%減少した。北米も干ばつに見舞われ、水力発電の不振の一因となった。干ばつの原因の1つが、エルニーニョがもたらした温暖で乾燥した気象条件だった。欧州は2023年に状況が改善した数少ない地域の1つであったが、これは、2022年に欧州大陸でもっとひどい干ばつがあったためである。
水力発電の不足によって生じた穴を埋めるため、石炭や天然ガスなどの化石燃料が使われることになり、世界的に二酸化炭素排出量が増加する一因となった。全体として、水力発電量の変化が世界の二酸化炭素排出量に与えた影響は、パンデミック後の2022年から2023年にかけて航空産業が成長したときよりも大きかった。
滴り
昨年の水力発電量減少の原因となった天候の変化の一部は、予想された年々の変化によるものと見なすことができる。しかし、気候が変化する中で、1つの疑問が浮かび上がる。水力発電は苦境に陥っているのだろうか?
気候変動が降雨パターンに及ぼす影響は複雑な場合があり、完全には解明されていない。しかし、2022年のあるレビュー論文で概説されているように、水力発電が影響を受ける可能性が高い重要なメカニズムがいくつかある。
- 気温が上昇すると干ばつが増える。空気の温度が高いほど多くの水分を吸い上げ、河川や土壌、植物をより急速に乾燥させるためである。
- 冬が概して暖かくなり、積雪や氷が少なくなる。 そのため、米国西部などの場所でしばしば早春に貯水池が満杯になる。
- 降水量の変動が大きくなる。降雨がより極端になる期間を伴い、洪水を引き起こす可能性がある(そのため、発電所で後日使用する目的で貯水池に水をしっかり貯めることができない)。
これらすべてのことが発電にとって何を意味するかは、問題になっている世界のそれぞれの地域によって異なる。2021年に発表されたある世界的な研究によると、水力発電能力を持つ国の約半数は、10年に一度の頻度で発電量が20%減少することが予想できるという。中国に焦点を当てた別の報告書は、より極端な二酸化炭素排出量シナリオにおいて、同国内の発電所の4分の1近くが、継続的に同じレベルの発電量の減少に見舞われる可能性があるとしている。
乾燥した年でも、水力発電がほとんどなくなるまで落ち込むことはないだろう。しかし、将来の送電網は天候の変化に備えなければならなくなる。幅広いさまざまな電力源を持ち、それらを広い地理的エリアの送電インフラと結びつけることが、送電網を堅牢に保ち、気候変動に備えるために役立つだろう。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。