はじめにブラックフライデー(クリスマスセールの開始日で、店が黒字になる感謝祭の翌日の金曜日)があった。次にサイバーマンデー(オンライン系のクリスマスセールの開始日で、感謝祭の次の月曜日)が現れ、最後にアマゾン・ドット・コムが「プライムデー」を作った。プライムデーは年会費99ドル(日本では税込み3900円)のプライムプログラムの会員を対象にした、1日限りの大安売りだ。
子ども用のおもちゃ、衣料品、ビタミン剤、洗剤。合計で 10万種類ものアイテムが、日本を含むアマゾンのサイトで7月12日に特価で販売された。従来価格から75%引きの掘り出し物もあった。
今回で2度目のAmazonプライムデーは、4億ドルの売上額に達した昨年より、さらに規模が拡大する可能性が高い、とJPモルガンのアナリスト、ダグ・ アンムスさんが伝えている(アマゾンの昨年の純売上高は1070億ドルで、MIT Technology Reviewは2016年の優秀企業の1位に認定した)。世界中の注文は、前年同日を266%上回った。
より重要なのは2015年のプライムデーで、アマゾンが提供するサブスクリプション方式のショッピング・サービスの会員数が増加したことだろう。プライム会員は、年会費を支払うと、300万アイテムを対象に2日以内の配達(日本では「お急ぎ便」「お届け日時指定便」が無料)、動画や音楽のストリーミングサービスその他の特典が得られる。
アマゾンが得るのは売上額だ。プライム会員は非会員よりAmazonで多くの買い物をする。
CIRP(コンシューマー・インテリジェンス・リサーチ・パートナーズ)のアナリストは、米国内のプライム会員6300万人のうち1900万人は昨年7月の最初のプライムデーを機に会員になったと推定している。 プライム会員の年間平均購入額は1200ドル(CIRPによると非会員は年間500ドル)で、通常のAmazonユーザーよりも支出額が多い。
プライム会員数が増加するにつれ、アマゾンがデジタル音楽や動画のストリーミングを含め、従来のEコマース以外の分野にも大きな影響を及ぼすようになった。コーエン・アンド・カンパニーによる5月の消費者調査によると、 回答者の16%は、 Amazonプライムで音楽を聴くことが、「Spotify」や「Apple Music」の有料サブスクリプションで音楽を聴くより多い、と答えた。米国内40の大都市圏で当日配達サービスを提供する「プライム・ナウ」は、アマゾンの商品以外にも、12都市の選定レストランを対象に、1時間以内の出前サービスを試行している。
だが、フォレスター・リサーチのアナリスト、スチャリタ・マルプルさんは、アマゾンはプライムで儲けていない、と見ている。
マルプルさんの推定では、Amazonのプライムプログラムで購入された商品の無料配送には、毎年10億ドルかかる。48時間以内に顧客に配送する物流上の条件を満たすため、 ある倉庫に在庫がなければ、プライム会員が注文した商品を分割して、別々の倉庫から配送するからだ。アマゾンに限らず、薄利多売の小売り業には痛い出費だ。
だが、アマゾンの幹部はプライム会員の年会費をあててても物流コストがまかなえなくても、動じないだろう、とマルプルさんはいう。ジェフ・ベゾスCEOのビジネス哲学では「利益が多すぎることは、どこかで成長の機会を失った」ことになるからだ。
アマゾンのプライムデーのように、小売業が独自の特価販売日を盛り上げようとするのは、ライバルと競争する必要がなく、クリスマス前の数日間や、中国の「独身者の日(シングルズデー)」のように、物流が逼迫する時期に商品を発送しなくて済むからだ。
マルプルさんは、アマゾンはやがて過去のデータに基づいて、どの販促商品がどこで注文されるかを予測し、既存会員には最寄り倉庫の売れ残りを見て、プライムデーで販売促進をすると見ている。