セレナ・デッケルマンはインターネット上の人々を恐れたことはない。テレビの修理工でCB無線マニアの祖父と、配管工の義父を持つデッケルマンは、議論したり、ものをいじったりすることで問題を解決しながら育った。そのため、1990年代に大学生だったデッケルマンが最も初期のオープンソース・オペレーティング・システムのひとつであるLinuxに行きついた時、オンライン・コミュニティには、励まされるような親しみを感じた。そしてスリリングな新技術に触発され、デッケルマンは専攻を化学からコンピューター・サイエンスに変えた。
オープンソース技術のキャリアを30年近く積んだ現在、デッケルマンはウィキペディア(Wikipedia)を主宰・管理する非営利団体ウィキメディア財団(Wikimedia Foundation)の最高製品技術責任者(CPTO)を務めている。同財団でデッケルマンは、世界で最も参照されている情報源のひとつであるウィキペディアを指導するだけでなく、「ウィキペディアン」と呼ばれる数十万人の実在の個人からなる巨大なコミュニティのためにも奉仕している。ウィキペディアンは、自分の自由時間を使って300以上の言語で項目を執筆、編集、議論し、今日のウィキペディアを作り上げている。
技術の進歩や文化的変遷が、私たちのオンライン世界を長年にわたって変容させてきたことは否定できない。特に最近では人工知能(AI)によって生成されたコンテンツが急増している。しかしデッケルマンは、インターネット上の人々のことを恐れていない。インターネット上の人々こそが未来だと信じているのだ。
CPTOという新設された役職に就任した2022年の夏、デッケルマンは、その数カ月後に、生成AIの構築競争が猛烈なスピードで加速するとは思ってもいなかった。オープンAI(OpenAI)の「チャットGPT(ChatGPT)」やその他の大規模言語モデルのリリースと、それに続く数十億ドル規模の資金調達サイクルによって、2023年はチャットボットの年になった。そして、これらのモデルが機能するためには、大量の安価な(あるいは、できれば無料の)コンテンツが必要なため、ウィキペディアの何千万もの記事が豊富な燃料源となっている。
インターネットで時間を過ごしたことのある人なら誰でも、ボットやボット開発者たちが自分たちの知識収集を強化するためにウィキペディアに注目するのはお分かりいただけるだろう。ウィキペディアはその23年間で、最も信頼される情報源のひとつとなり、オープンソースの使命と財団の支援のおかげで、完全に無料のものとなっている。しかし、AIによって生成されたテキストや画像の拡散が、誤情報やデマの問題を大きくすることにつながっているため、デッケルマンはウィキペディアの製品やコミュニティにとって存亡に関わる問題に取り組まなければならない。ウィキペディアのオープンソースの精神は、来るべきコンテンツの氾濫をどのように生き残ることができるのだろうか?
デッケルマンは、ニュアンスに富んだ人間的な視点をオンラインで見つけることが難しくなるにつれ、ウィキペディアはさらに価値のあるリソースになると主張する。 …