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「もしトラ」に現実味、トランプ返り咲きで気候政策はどうなる?
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Trump wants to unravel Biden’s landmark climate law. Here is what’s most at risk.

「もしトラ」に現実味、トランプ返り咲きで気候政策はどうなる?

11月に控えた米大統領選挙で、トランプ前大統領が復帰する可能性が現実味を帯びてきた。もし再選すれば、インフレ抑制法の電気自動車(EV)やクリーン・エネルギーへの支援は暗礁に乗り上げてしまうかもしれない。 by James Temple2024.03.11

気候変動の増大する危険に対処するための米国最大級の投資「インフレ抑制法(IRA)」。ジョー・バイデン大統領の立法上の最高の功績は、この法律を制定したことである。

だが、もしドナルド・トランプ前大統領が次期大統領選挙で勝利した場合、この画期的な法案の廃止がToDoリストの最優先事項になるだろうと関係者は明らかにしている。同前大統領が再選すれば、クリーン産業への米国の移行が滞り、地球温暖化につながる温室効果ガス削減の取り組みが阻害されてしまう可能性がある。

インフレ抑制法は、再生可能エネルギー源、電気自動車(EV)、バッテリー(電池)、ヒートポンプなどに対し、少なくとも数千億ドルの連邦補助金を投入している。これはパリ協定に基づくバイデン政権の国家公約達成計画の「骨格」である。調査企業のロジウム・グループ(Rhodium Group)によると、米国はこの10年の末までに温室効果ガスの排出量を2005年に比べ最大42%削減できる見込みだという。

しかし、トランプ政権で米環境保護庁(EPA)移行チームを率いていたマイロン・エベルによると、この膨大な連邦政策パッケージは、バイデン大統領の在任中に保守派が被った「最大の敗北」を意味しているという。そして、第二次トランプ政権初期の極右ロードマップとして広く見なされているヘリテージ財団の「プロジェクト2025(Project 2025)」の執筆者も含め、多くの保守派はこのインフレ抑制法の廃止に強く執着している。

気候政策の専門家らによると、EVとクリーン電力プロジェクトに対するインフレ抑制法の税額控除は、特に脆弱だという。これらの条項が廃止になるだけで、国の温室効果ガスの排出軌道が大きく変わり、この10年間で数億トンの気候汚染が再び増加する可能性がある。

さらに、国際機関を弱体化させ、世界貿易戦争を煽り、国の資源を化石燃料採掘に開放するというトランプ前大統領の広範な公約は、インフレ抑制法の変更に複合的な影響を及ぼす。潜在的に経済成長、より広範な投資環境、新興グリーン産業の見通しを損なう可能性がある。

消えるEV税額控除

インフレ抑制法は政府資金を活用して、直接補助金と税額控除を組み合わせてエネルギーの移行を加速する。これによって企業や個人は、よりクリーンな電力や製品の購入、設置、投資、または生産と引き換えに、連邦政府の義務を削減できるのだ。 これは連邦政府機関の規制や大統領令ではなく、法律として制定されたものであるため、実質的な変更は議会を通じて実現する必要がある。

トランプ前大統領の在任中に強行された個人向け減税は、来年、期限切れとなる予定だ。同前大統領が2期目に当選し、共和党が下院の多数派を維持し、上院の議席数を増やした場合トランプ減税の延長を求める議員らは税法にメスを入れ、インフレ抑制法の主要な構成要素を排除する可能性がある。インフレ抑制法の税額控除のいずれかを廃止できれば、トランプ時代の減税を維持するための追加費用を賄える可能性があるからだ。

多くの政策観測筋は、EVとEVトラックの価格から最大7500ドルが減額されるインフレ抑制法のEV税額控除が、トランプ前大統領の最上位ターゲットの1つになると考えている。EVの費用補助は共和党議員の間でひどく評判が悪く、予備選期間中、共和党の大統領候補者のほとんどが政府のEVへの支援について激しく批判している。そして、その共和党の大統領候補者の中には、もちろんトランプ前大統領も入っているのだ。

選挙活動中、トランプ前大統領はこの政策を補助金ではなく義務だという誤りを繰り返し、聴衆の地元事情に合わせて批判する内容を変更した。

昨年12月、国内最大のトウモロコシ生産州であるアイオワ州の集会で、トランプ前大統領は「いんちきジョー・バイデンの、非常識でエタノールを潰してしまう電気自動車の義務化を、初日に廃止する」と公約した。

そして9月には激戦州のミシガン州で自動車労働者の不安に迎合した。

トランプ前大統領は「いんちきジョー・バイデンは自動車製造業を破壊し、国そのものを破壊する狂気の左翼勢力の側に立っている」と述べた。「EVは十分な距離を走れず、また高すぎる」。

他のトランプのターゲット

ワシントンDCの中道左派系シンクタンクであるサード・ウェイ(Third Way)で気候・エネルギープログラムを率いるジョシュ・フリード上級副社長によれば、トランプ前大統領のターゲットになる可能性が高いインフレ抑制法の他の要素には、2025年以降に稼働する温室効果ガス排出ゼロの発電所への投資・運営に対する税額控除が含まれるという。

これらのいわゆるテクノロジー中立的な控除は、太陽光発電や風力発電のような再生可能エネルギーへの補助金に取って代わるもので、原子力、バイオエネルギー、炭素回収機能を備えた発電所など、より広範なエネルギー生産の可能性を包含している。

例えば、後者のカテゴリーは太陽光発電所よりも共和党の支持を受ける可能性が高い。しかし、化石燃料からの移行を加速す …

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