KADOKAWA Technology Review
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米ベンチャーがリチウム硫黄バッテリーを生産、EV搭載はいつ?
Lyten
How sulfur could be a surprise ingredient in cheaper, better batteries

米ベンチャーがリチウム硫黄バッテリーを生産、EV搭載はいつ?

電気自動車の急増などでバッテリーに対するニーズが高まっている。リチウム硫黄バッテリーは、コストとエネルギー密度の両方で、リチウムイオンバッテリーを凌駕する可能性がある。 by Casey Crownhart2024.02.20

電気自動車(EV)の航続距離を延ばせる安価なバッテリーを製造する鍵は、安価で豊富に存在する材料である硫黄にあるかもしれない。

気候変動問題に対処するには、ますます増えるEVを駆動し、そして再生可能な電力を送電網に蓄えるために、大量のバッテリーが必要になる。現在は、リチウムイオンバッテリーがどちらの分野でも主流の選択肢となっている。

しかし、バッテリーの需要が高まるにつれ、必要な材料を採掘することがより困難になっている。そしてその解決策は、コバルトやニッケルといった、リチウムイオンバッテリーに必要な金属の中でも特に限定的で物議を醸しているものを避けた、代替の材料を増やすことにあるのかもしれない。

この候補材料の1つであるリチウム硫黄は、間もなく大きなマイルストーンに達する可能性がある。スタートアップ企業のライテン(Lyten)が、2024年後半に最初の顧客に限定数量のリチウム硫黄バッテリーを納入する予定になっているのだ。同バッテリーの「セル」は、複数をつなぎ合わせてさまざまなサイズのバッテリーを構築可能であり、航空宇宙産業および防衛産業の顧客に提供されることになっている。EVの試験に耐えられるバッテリーを構築するための一歩となることが期待される。

バッテリーの新しい選択肢に関して、「大量に生産でき、すぐに作れるものが必要です。そこでリチウム硫黄が登場したのです」と、ライテンの最高バッテリー技術責任者であるセリーナ・ミコライチャクは話す。

硫黄は広く豊富に存在し、安価である。これが、リチウム硫黄バッテリーの価格が大幅に安くなる主な理由である。ミコライチャクによると、リチウム硫黄バッテリーの材料費は、リチウムイオンバッテリーの約半分だという。

ただし、この新しいバッテリーのコストがすぐに低くなるわけではない。リチウムイオンバッテリーは、生産規模が拡大し、企業が問題点を解決してきたため、数十年をかけてゆっくりとコストが下がってきた。しかし材料コストの低下は、将来的により安価なバッテリーの製造が可能になることを意味している。

リチウム硫黄バッテリーは、最終的にはより安価なエネルギー貯蔵方法を提供できるだけでなく、エネルギー密度という重要な指標でリチウムイオンを上回る可能性もある。リチウム硫黄バッテリーは、同じ重量のリチウムイオンバッテリーに比べ、ほぼ2倍のエネルギーを蓄えられる。これはEVにとって大きなプラスとなる可能性がある。自動車メーカーは車に搭載するバッテリーの重量を減らしながら、1回の充電でより遠くまで走行できる自動車を製造できるようになる。

しかし、ライテンの製品をEVに搭載して実用化するためには、克服しなければならない大きな技術的障壁がまだある。その中で最も重要なのは、バッテリーの寿命の問題だ。

現在のEV用に作られたリチウムイオンバッテリーは、800サイクル以上使用可能だ(つまり、800回充電できるということである)。シカゴ大学とアルゴンヌ国立研究所(Argonne National Laboratory)でバッテリーを研究しているシャーリー・メン博士によると、リチウム硫黄を使用した選択肢は劣化がはるかに早い傾向にあり、現在の多くのリチウム硫黄バッテリーの取り組みは、100サイクル前後でとどまっているという。

というのも、リチウム硫黄バッテリーに電力を供給する化学反応を制御するのは、非常に難しいことがわかっているからだ。リチウムと硫黄の間の望ましくない反応はバッテリーの寿命を奪い、バッテリーを早く使えなくしてしまう可能性がある。

リチウム硫黄バッテリーの分野には、数十年にわたって大小さまざまな企業が進出しており、その可能性を追求するのはライテンが最初の企業ではない。英国を拠点とするオキシス・エナジー(Oxis Energy)のようにすでに倒産した企業もあれば、サイオン・パワー(Sion Power)など、リチウム硫黄からの撤退を決めた企業もある。 しかし代替のバッテリーへの需要が高まり、関心と資金のレベルが高まっているということは、以前の取り組みが失敗したところで今後ライテンが成功する可能性がある、とメン博士は言う。

ライテンはバッテリーの寿命を延ばす点で大きな成果を出しており、最近では300サイクルに達するサンプルもあるとミコライチャクは話す。同氏は成功の要因として、不要な副反応を防ぎ、セルのエネルギー密度を高めるのに役立つ独自の3Dグラフェン素材を挙げている。ライテンはまた、2次元グラフェンよりも複雑な構造である3Dグラフェンを、センサーや複合材料などの他の製品で使用することも検討している。

しかし、最近大きな進歩を遂げているものの、同社がEVに電力を供給できるほど十分に長持ちするバッテリーを生産するのにはまだ程遠いのが現状だ。それまでの間、ライテンは寿命がそれほど重要ではない領域でセルを市場に出すことを計画している。

リチウム硫黄バッテリーは非常に軽量であるため、バッテリーを頻繁に交換することで軽量化できるドローンなどの機器を製造する顧客と協力していると、ライテンの最高サステナビリティ責任者であるキース・ノーマンは述べる。

ライテンは、2023年に年間最大20万セルの生産能力を持つ試験製造ラインを開設した。最近になって少数のセルの生産を開始しており、今年後半には販売を開始するスケジュールである。

ライテンは、最初にどの企業にバッテリーを納入するのか公表していない。 今後に向けてライテンの主な焦点の2つは、3Dグラフェンとバッテリーセルの寿命を改善すること、そして生産量を拡大することだとノーマンは話す。

EVに電力を供給できるリチウム硫黄バッテリーへの道のりはまだ長い。だが、ミコライチャクが指摘するように、現在のバッテリーにおける主要な化学物質であるリチウムイオンは、各社が改良に取り組んできた数年の間に、コスト、寿命、エネルギー密度において性能が飛躍的に向上している。

「バッテリーで使用する化学物質の選択肢については、これまで様々なものが試されてきました」とミコライチャクは言う。「そして、そのうちのひとつを現実のものにするには、多くの労力を費やす必要があるのです」。

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MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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