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米国で販売失速でもヒートポンプに注目すべき理由
Stephanie Arnett/MITTR | Envato
This chart shows why heat pumps are still hot in the US

米国で販売失速でもヒートポンプに注目すべき理由

2023年には販売額が減速することになったが、ヒートポンプは化石燃料を使用する暖房器具に差をつけつつある。 by Casey Crownhart2024.03.04

ヒートポンプは依然として注目のテクノロジーだが、世界最大級の市場の1つである米国での2023年の販売額は減少した。だが、空調システム全体でヒートポンプの占める割合は2年連続でガス暖房器具を上回っており、昨年同様に販売高が減少したガス暖房器具と比較しても市場全体でのシェアは増えている。

ヒートポンプは電気を使って空間を暖めたり冷やしたりするシステムで、温室効果ガスの排出量を削減するための主要なツールとなる可能性がある(世界の温室効果ガス排出量の約10%は、建物の暖房から発生している)。世界中の多くの住宅やその他の建物では、ガス暖房器具などのようなシステムで化石燃料を使用している。しかし、一般的にはヒートポンプの方が効率が高い上に、再生可能電力を使用して電力を供給できるという利点がある。さらに専門家らは、気候変動対策の目標を達成しながら建物の安全性と快適性を保つためには、ヒートポンプの普及を急速に伸ばす必要があると述べている。

ヒートポンプは何十年も前から存在しているが、近年脚光を浴びており、国際エネルギー機関(IEA)によると世界での販売額は2021年と2022年のともに2桁増加している。また、ヒートポンプは、MITテクノロジーレビューの2024年のブレークスルー・テクノロジー10のリストでも取り上げられている。

米国の冷凍空調工業会(Air-Conditioning, Heating, and Refrigeration Institute)が発表した新しいデータによると、ヒートポンプの最大市場の1つである米国では、2023年の販売額が17%近く減少した。ヒートポンプは10年近くにわたって一定の成長を続けてきたが、ここにきて失速したのだ。冷凍空調工業会のデータは包括的なものではないが、米国で年間販売されるユニットの約90%を占めるメーカーの数字が含まれている。

ただ、ガス暖房器具とエアコンの販売額の落ち込みはさらに大きかったため、この減少はヒートポンプについてと言うよりも、むしろ空調制御システム(HVAC)セクター全体についての傾向である可能性が高い。2023年にはガス暖房器具の販売額がヒートポンプ以上に減少しており、実際には今年の総販売額に占めるヒートポンプの割合は、2022年よりもわずかに大きくなっているのだ。

IEAのアナリストであるヤニック・モンシャウアーは、この広範な減速は、金利上昇とインフレ下での消費者の悲観を反映しているとメールで述べた。

「2023年は、世界の他の地域でもヒートポンプの販売減速が見られました」。欧州では、エネルギー危機と天然ガス価格の高騰による電化ラッシュが鈍化しているのだ。

一方、米国の新しいインセンティブ・プログラムが、2024年以降のヒートポンプの普及を加速するのに役立つ可能性がある。2022年に可決された包括的な気候関連法案である「インフレ抑制法(IRA)」には、ヒートポンプに対する最大2000ドルの個人税額控除が含まれている。法案は2023年の初めに施行されている。

米国の電化に焦点を当てた非営利団体「リワイヤリング・アメリカ(Rewiring America)」の研究員であるワエル・カンジは、インフレ抑制法のうち、特に手厚いインセンティブについてはまだ施行されていないという。

低・中所得世帯向けのヒートポンプ・システムに、最大8000ドルの資金を提供する予算が組まれているが、配分は各州の判断に委ねられており、アナリストらはこれらのプログラムが2024年末か2025年初めに開始されると予想しているとカンジ研究員は述べている。

ヒートポンプは、気候変動と戦う計画の重要な要素だ。IEAの分析によると、2050年までに世界が温室効果ガスの実質排出量ゼロに達するシナリオでは、2020年代の終わりまでにヒートポンプが世界の暖房能力の20%を占める必要がある。

「今後の5年、10年、15年が本当に重要になります。私たちは間違いなく、ヒートポンプの普及のペースを上げる必要があります」とカンジ研究員は言う。

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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