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AIボット導入で、メンタルヘルス・サービスの利用者が増加
Stephanie Arnett/MITTR | Getty
A chatbot helped more people access mental-health services

AIボット導入で、メンタルヘルス・サービスの利用者が増加

英国国民健康サービス(NHS)が導入したAIチャットボットは、メンタルヘルスのサービス利用者増加につながった。スクリーニングにも役立つという。 by Rhiannon Williams2024.02.21

人工知能(AI)チャットボットの導入によって、英国国民健康サービス(NHS)を通じたメンタルヘルス(精神的健康)サービスの利用者を増やせることが、新たな研究で分かった。とりわけ、支援を求める可能性が低いと評価されている少数派グループの人々の利用増加が顕著だったという。

英国におけるメンタルヘルス・サービスへの需要は、特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、高まっている。2022年にメンタルヘルス・サービスを紹介された患者は460万人と過去最大で、サービスを利用する人数は着実に増えている。だが英国医師会によると、予算もメンタルヘルス専門家の数も、増加している需要に応えるには不十分だという。

チャットボットを開発したAI企業のリンビック(Limbic)は、患者がより早く効率的にメンタルヘルス・サービスを利用できるよう支援するため、AIが治療への障壁を低くできるかどうかの調査に乗り出した。

2月5日のネイチャー・メディシンに掲載されたこの新しい研究は、「リンビック・アクセス(Limbic Access)」と呼ばれるチャットボットが、NHSによる「不安とうつ病のためのトーク・セラピー(話し合い療法)プログラム」への紹介にどのような影響を与えたのかを評価したものだ。NHSの同プログラムは、不安障害やうつ病、またはその両方を抱える成人向けの、一連のエビデンスに基づく心理療法である。

研究では、英国各地にある28のNHSのトーク・セラピーのWebサイトを訪れ、自ら問い合わせをした12万9400人分のデータを検証した。問い合わせのうち半数がWebサイトのチャットボットを利用し、残りの半数がWebフォームなど他の手段を利用していた。3カ月間の調査期間中、リンビックのチャットボットを利用したサービスからの紹介件数は15%増加したのに対し、利用していないサービスからの紹介件数は6%増に留まった。

チャットボットが利用できるようになると、人種・性的マイノリティなどの少数派グループの紹介件数は大幅に増加した。性自認がノンバイナリーの人が179%、アジア系が39%、黒人が40%増加したのである。

重要なのは、紹介を受けた患者の数が増加しても、待ち時間の増加や実施される臨床診療数は減少しなかったことだ。これはチャットボットが詳細な情報を収集することで、人間の臨床医が患者の診療にかける時間が減ったことが主な理由だ。一方で診療の質は改善し、他のリソースには余裕が生まれた。

インタラクティブ性のあるチャットボットと静的なWebフォームはまったく異なる情報収集法であることは、念頭に置くべき価値があるとジョン・トルースは言う。トルースはマサチューセッツ州にあるベス・イスラエル・ディーコネス医療センター(Beth Israel Deaconess Medical Center)のデジタル精神医学部長を務めており、今回の研究には関与していない。

「これはある意味で、この分野が今後どこに向かっていくのかを示しているのかもしれません。テクノロジーに関係なく、人々に接触してスクリーニングがしやすくなるということです」とトルース部長は話す。「しかし、そうなると、どのようなサービスを提供するのか、サービスをどのように配分するかといった疑問が起こります」。

全体的に見ると、チャットボットを利用してリンビックに肯定的なフィードバックを返した患者は、使いやすさと利便性に言及する傾向にあった。また、「紹介を受けることで良くなるかもしれないという希望の高まりを感じた」「自分が1人ではないと知ることができた」との回答もあった。ノンバイナリーの回答者は、男性または女性を自認している人よりもチャットボットの非人間性に言及することが多かった。これは対人での会話では批判やスティグマ、不安を感じる可能性があるが、ボットとのやり取りがそれらを回避するのに役立つことを示唆しているのかもしれない。

「性的・人種的マイノリティといった少数派コミュニティに属する人々には一般的に接触しにくいのですが、これらのグループに相対的に大きな改善が見られたのは非常に大きな発見です」。今回の研究論文を共同執筆した、リンビックのロス・ハーパー共同創業者兼最高経営責任者(CEO)は話す。「AIは正しく使えば衡平性と包摂性への強力なツールになり得ると示しています」。

このチャットボットが導入されたWebサイトの訪問者には、リンビック・アクセスが心理的サポートへのアクセスを支援するために設計されたロボット・アシスタントだと説明するポップアップが表示される。最初のスクリーニングでは、チャットボットは患者が長期的に疾患を抱えているか、メンタルヘルスの専門家からこれまでに診断を受けたかどうかといった一連の質問をする。次に一般的なメンタルヘルスの問題や不安の症状を評価するために設計された複数の質問をするが、質問内容は患者の問題に最も関連性の高い症状に合わせて調整される。

チャットボットは収集したデータを用いて詳細な紹介状を作成する。この紹介状は、同サービスが利用している電子記録システムと共有される。人間の治療専門家は数日以内にこの紹介状にアクセスし、患者に連絡をして診療を実施し、治療を始められる。

リンビックのチャットボットは異なる種類のAIモデルを組み合わせたものだ。最初のモデルは自然言語処理を用いて患者が入力した回答を分析し、適切に、親身になって答えを返す。確率モデルは患者が入力したデータを用い、患者が抱えている可能性が最も高いと思われるメンタルヘルスの問題に合わせてチャットボットの応答を調整する。研究チームによると、 これらのモデルは8つの一般的なメンタルヘルスの問題を93%の正確度で分類できるという。

「メンタルヘルスの専門家は足りません。ですから私たちは、AIを活用して既存の専門家に力を与えたいのです」とハーパーCEOは付け加える。「人間の専門家とAIの専門家が協力することで、私たちはメンタルヘルスにおける需要と供給の不均衡を本当の意味で解決できるのです」。

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リアノン・ウィリアムズ [Rhiannon Williams]米国版 ニュース担当記者
米国版ニュースレター「ザ・ダウンロード(The Download)」の執筆を担当。MITテクノロジーレビュー入社以前は、英国「i (アイ)」紙のテクノロジー特派員、テレグラフ紙のテクノロジー担当記者を務めた。2021年には英国ジャーナリズム賞の最終選考に残ったほか、専門家としてBBCにも定期的に出演している。
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