リサイクルだけでは回らない、気候テクノロジーの材料問題
気候変動対策に使われるテクノロジー製品の材料供給が逼迫している。解決策の1つがリサイクルだが、それだけでは不十分だ。 by Casey Crownhart2024.03.06
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
古くなり廃棄された製品を使って新しいものを作り出せると聞くと、まるで魔法のように思える。その魅力はもちろん理解しているし、場合によっては、リサイクルは気候テクノロジーの根幹を担うツールになるだろう。私はこれまで、思いつくかぎりの気候テクノロジーのリサイクルについて記事を書いてきた。太陽光発電パネル、風力発電タービン、電池などだ。プラスチックごみをリサイクルする取り組みについても取り上げたことがある。
最近では、電気自動車(EV)や風力発電タービンの動力に利用される磁石の材料について調査した(その結果はこちら)。そしてまたしても、私は現実の厳しさに直面した。気候テクノロジーの材料需要には途方もない課題が待ち受けており、残念ながらリサイクルだけでは解決できないのだ。今回は、なぜリサイクルが必ずしも解決策にならないのか、他にどのような方法があるのかを見ていこう。
現実とのギャップ
私たちはこれまでになく活発に気候テクノロジーを開発している。それはすなわち、古く廃棄された製品がそこら中に落ちていて、材料としてリサイクルされるのを待っている状況ではないということだ。もちろん、クリーンエネルギー・テクノロジーの成長は、気候変動対策には良いことだ。だが、リサイクルに関してはこれが1つの障壁になる。
例えば、太陽光発電パネルを考えてみよう。太陽光パネルは通常、最低でも25年、時には30年にわたって太陽エネルギーを電力に変換し続け、変換効率が減衰するのはその後だ。つまり、現在リサイクルに利用できるパネルは20年以上前に設置されたものになる(破損したものや早期に撤去されたものも含まれるが、割合としては少ない)。
2000年時点で、全世界に設置されていた太陽光発電設備の総出力は1ギガワット強だった(そう、2000年はもう25年近く前なのだ)。つまり、現在のリサイクル企業はこの比較的わずかな材料を奪い合うほかない。競争を耐え抜ければ、いずれは太陽光発電パネルが豊富に手に入るようになるだろう。2023年に新たに設置された太陽光発電設備の総出力は300ギガワットを超えている。
こうしたギャップは、その他のテクノロジーのリサイクルにも共通する課題だ。実際、増えつつある電池リサイクル企業が直面する課題の1つは、リサイクルすべき材料の不足なのだ。
今のうちにインフラを構築し、いずれ必ずやってくる太陽光発電パネルや電池の大量リサイクルが可能になる日に備えることは重要だ。一方で、リサイクル企業は独創的な方法でも材料を調達できる。現在の電池リサイクル企業は、かなりの部分を製造段階の廃棄物に頼ることになるだろう。その他の製品に目を移すことも有用だ。EVモーターや風力発電タービンに使われるレアアースの一部は、古いアイフォーン(iPhone)やノートPCから調達できる。
ギャップを埋める
新たなテクノロジーの爆発的成長がなかったとしても、問題は他にもある。どのようなリサイクル・プロセスも完璧ではないのだ。
問題は古い素材を回収する段階から始まる。あなたの家でも、アイポッド(iPod)や折りたたみ式携帯電話がガラクタをまとめた引き出しで埃をかぶっているのではないだろうか? だが、材料がリサイクル・センターにたどり着いた後も、破損した材料を回収する採算が合わないといった理由で、一部は廃棄処分に回される。
正確にどれだけの材料を回収できるかは、材料の種類、リサイクル・プロセス、経済に依存する。太陽電池に使用される銀など一部の金属については、回収率が99%を超えることもある。一方、電池に含まれるリチウムなどの回収は、より困難を伴う。2023年に取材したリサイクル企業のレッドウッド・マテリアルズ(Redwood Materials)によれば、同社のプロセスでは使用済み電池や製造段階の廃棄物からのリチウムの回収率は約80%だという。残りは失われてしまうのだ。
デビー・ダウナー(コメディ・バラエティ番組の『サタデー・ナイト・ライブ』に登場する、何もかもを悲観的に捉える架空のキャラクター)になるつもりはない。回収が不完全でも、リサイクルは多くのエネルギー・テクノロジーにおける将来の材料需要を満たすことに貢献し得る。レアアースのリサイクルは、ネオジムなどの金属の採掘量を2050年までに半減、あるいはそれ以上に減らすことができるという試算もある。
だが、多くの気候テクノロジーに関して、リサイクル材料が豊富に供給されるようになるのは、まだ数十年先の話だ。一方、多くの企業がより入手しやすく、安価な代替材料を使った製法の開発に取り組んでいる。スタートアップのナイロン・マグネティクス(Niron Magnetics)を取り上げた記事では、レアアースを使わずに永久磁石を製造する手法を開発する取り組みを紹介した。このように、新たな材料は気候変動対策を加速させ、リサイクルでは埋まらないギャップを補うだろう。
MITテクノロジーレビューの関連記事
古いバッテリーが未来のEVの動力になる可能性については、レッドウッド・マテリアルズを取り上げた特集記事を参照してほしい。
さらに詳しいバッテリー・リサイクルの未来については、元テスラ幹部でレッドウッド・マテリアルズの創業者、J.B.ストラウベルのインタビューを参照してほしい。
一部の企業は、太陽光発電パネルに含まれる希少な材料のリサイクルに取り組んでいる。
風力発電ブレードのリサイクルについては、ベストな方法をめぐって科学者の間で議論が続いている。
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BYDが海運ビジネスに参入
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。