中国テック事情:日韓にならえ、海運業に参入したBYDの勝算
電気自動車(EV)の販売台数が急増している比亜迪(BYD)は、自社製EVの海外への輸出を拡大するために海運業に乗り出した。ただし、自社で輸送船団を抱えることには大きなリスクもある。 by Zeyi Yang2024.02.12
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
昔から比亜迪(BYD)を観察してきた人々にとっては、同社が新たな分野へ乗り出したことに驚きはないだろう。
中国の電気自動車(EV)メーカーであるBYDは、これまでもさまざまな関連事業に手を広げるのが特にうまかった。高性能で安全なEV用バッテリーを作れるだけでなく、自動車用チップの設計からリチウムなどの材料の採掘まで、ほとんどすべてを自社でまかなっている。EVのサプライチェーンの各段階に子会社を持っているため、BYDはコストを低く維持し、より競争力のある価格で自動車を販売できる。
今、もう一度同じことを成功させるために、BYDは船舶貨物事業を始めようとしている。先日公開された記事で書いたように、BYDは少なくとも自動車運搬船8隻の建造を進めており、それらの船を使って自社の自動車を中国の工場から欧州、南米、その他の市場へ輸送し、販売する予定だ。
BYDは近年、中国のEVセクターの代表的な存在として急成長を遂げてきたが、2023年は特に好調だった。電気自動車とプラグインハイブリッド車を300万台販売し、2022年の180万台を上回った。2023年第4四半期にはEV販売台数でテスラ(Tesla)を抑えて世界一となった。
それらの自動車の大半は中国国内で販売されたが、BYDの輸出事業は大幅に拡大を続けている。2023年の輸出台数は24万台を超え、2022年の5万5000台から4倍以上に増加した。2022年の数字自体も、2021年の1万3000台から4倍以上に増加したものだった。
しかし、その驚異的な数字の妨げになってきたことが1つある。国際的な自動車運搬船不足だ。国際的な海運業界における2008年以降の不況サイクル、船舶のグリーン化という技術的な課題、さらに、既存の船舶は他国の自動車メーカーによってすでに予約されていることが多いという事実が相まって、中国製EVの海外輸送が可能な船舶を雇うためのコストは、上昇する一方だった。
そのため、BYDや上海汽車(SAIC Motor)などの中国企業は、日本や韓国の自動車メーカーにならって、自社の船団を構築し、チャーターし、管理している。今年1月、BYDが運航する船1隻と上海汽車が運航する船1隻が初めて出航し、合わせて1万台以上の自動車をヨーロッパに向けて運んだ。
この2隻の巨大な船は、中国のEV産業がいかに競争力を持つようになり、成功を収めたかということを示す、象徴である。他の国や伝統的な自動車ブランドは遅ればせながら追いつこうと躍起になっている最中であるため、この状況はしばらく続きそうだ。
だからといって、中国のEV産業に恐れるべきものは何もないというわけではない。以前の記事で私が説明したように、中国製EVの輸出を減速させる、あるいは頓挫させるかもしれない要因がまだ存在する。地政学は大きな要因の1つだ。たとえば、新造した自動車運搬船の多くが向かう先の欧州では、中国製自動車に対してすでに反補助金調査が実施されており、最終的に現地で販売するコストが大幅に高くなってしまう可能性がある。
海運業に参入しようとしている中国企業は、最近の歴史から得た少なくとも1つの教訓に気を配るべきである。BYDより前に、奇瑞(Chery)という中国の自動車会社が存在し、2000年代に自社製自動車の輸出を開始した。2007年にはBYDとまったく同じ理由で、ある造船会社を買収した。自動車を海外に出荷する能力を増強したかったのだ。しかし、急成長していた奇瑞の輸出事業は、金融危機によって壊滅的な影響を受けてしまった。結局、最初の船を建造できたのは、それから10年後のことだった。
奇瑞は今も存在している。ガソリン自動車から電気自動車へと軸足を移し、国内だけでなく輸出市場でもBYDと競い合っている。しかし、その不運な造船業への挑戦は、現在同じような動きを見せている他の中国企業にとって、1つの教訓となるかもしれない。たとえ未来が明るいように見えたとしても、自動車の十分な販売が維持できない場合、そのような巨大な船の建造と維持はリスキーで高価なビジネスである。
中国の最新動向
1. ホワイトハウス(大統領府)は、中国企業が人工知能(AI)モデルを訓練するのに、米国のクラウドサービスを利用できなくするつもりだ。(ロイター)
2. 米国の一部の議員は、司法省の「中国イニシアチブ」復活を望んでいる。(NBCニュース)
- 物議を醸しているこのプログラムは、国家安全保障を守るために作られた。しかし、本来の目的から逸脱し、2022年に終了した。(MITテクノロジーレビュー)
3. 連邦議会に提出された別の法案は、中国のバイオテック企業が連邦政府と契約するのを禁止しようとしている。(サウスチャイナ・モーニング・ポスト)
4. 約5年間にわたるボーイングのジェット機「737 MAX」の輸入凍結を経て、中国の航空会社は物議を醸している同機の購入を再開した。(ロイター)
5. 中国の映画市場はかつて、ハリウッドの大ヒット作品にとって稼ぎ場だった。しかし、もはやそうではない。(ニューヨーク・タイムズ)
6. 台湾政府は、中国の政治的影響力を受けない独自の中国製AIモデルを構築する取り組みに対し、資金提供している。(ブルームバーグ)
- 一方で、米国のスパイたちは、国家機密を漏らすことなく中国に対して使用できる独自のAIモデルを求めている。(ブルームバーグ)
7. イーロン・マスクがまた中国の電気自動車を賞賛した。マスクによれば、貿易障壁がなければ、中国のEVメーカーは大多数の競争相手を「ほぼ駆逐する」だろうという。(CNBC)
学校向けAI搭載タブレットで混乱?
中国で、別の種類のデバイスがAIによって変革を遂げつつある。生徒用のタブレットだ。一般に「学習機械」(機械学習とは無関係)と呼ばれるそれらのタブレットは、学校の教科で子どもたちを個人指導するために特別に設計されており、電子辞書やバーチャル授業などの機能に対応している。中国メディアのIQタックス・リサーチ・センター(IQ Tax Research Center)によると、昨年はこの種の製品の多くがAIを導入したという。その中には、バイドゥ(Baidu:百度)やアイフライテック(iFlytek)などの中国大手AI企業が製造したデバイスも含まれる。
しかし、一部の親が、これらの「AI搭載デバイス」はエラーや間違いがたびたび起こることに気づいた。たとえば、あるユーザーは、算数の問題についてAIに解説させたところ、説明のたびに答えが違っていたと述べた。また、AIが勧める教育コンテンツが必ずしも子どものニーズに合っていないと感じた親もいた。結局のところ、こうした「学習機械」は、どのように売り込まれているかにかかわらず、まだ不十分であることが多い。
あともう1つ
ディナーを予約する際、グーグルで星4.5以上のレストランにこだわるだろうか?中国の一部の若者は、大げさなレビューの人気レストランを追いかけ、結局失望に終わったことを、あまりにもたくさん経験してきた。そのような若者たちが、代わりにレビューの星3.5前後のレストランを選ぶ傾向が始まっている。その理由とは?「そのような少ない星のレビューで何十年も生き残れているレストランなら、何か本当に特別なことがあるに違いない」と、ソーシャルメディアのあるコメントには書かれている。それは、誰もが行く場所を決定づけるユビキタスなデジタルプラットフォームへの反抗でもあると、中国のライフウィーク誌は報じている。
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- ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
- MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。