オープンAI、グーグルはなぜAIの「数学」能力を競うのか?
ディープマインドが先日、複雑な幾何学問題を解けるAIを発表し、話題になった。AI企業はなぜ、数学に注目しているのか。 by Melissa Heikkilä2024.01.29
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
AI業界は最近、グーグル・ディープマインド(DeepMind)が学術誌のネイチャー(Nature)に発表した新しい論文で盛り上がった。複雑な幾何学問題を解くことができるAIシステムの開発に成功した、という論文だ。「アルファジオメトリー(AlphaGeometry)」と命名されたこのシステムは、言語モデルと記号エンジンと呼ばれるタイプのAIを組み合わせたもので、記号と論理ルールを使用して推論を実行する。こちらで、アルファジオメトリーについて詳しく知ることができる。
AIの世界が数学で盛り上がるのは、この数か月で2回目だ。昨年11月、サム・アルトマンが一時的にCEOを解任されたオープンAI(OpenAI)の騒動は、新たな強力なAIの進歩によって引き起こされたという報道がある。問題のAIシステムは「Q*(Qスター)」と呼ばれ、複雑な数学の計算ができると報告されている(オープンAIはQ*についてはコメントしておらず、アルトマンCEOの解任と何らかの関連があったかどうかは不明)。Qスターについては、こちらの記事で説明している。
このことが潜在的に非常に興味深い理由を理解するために、あなたが本当に数学に興味がある必要ない。AIモデルにとって、数学は本当に難しいのだ。幾何学などの複雑な数学には高度な推論スキルが必要であり、多くのAI研究者は、これを解く能力があれば、より強力で知的なシステムの到来を告げることができると革新している。今回のアルファジオメトリーのようなイノベーションは、私たちがより人間に近い推論スキルを備えた機械に、少しずつ近づいていることを示しているといえる。これにより、数学者が方程式を解くのを支援したり、より優れた個別指導ツールを考案したりするために使用できる、より強力なAIツールを構築できる可能性がある。
ウルフラム・リサーチ(Wolfram Research)のコンラッド・ウルフラム国際戦略部長は、このようなタスクは、コンピューターを使用してより適切な意思決定を下し、より論理的になるのに役立つと述べている。ウルフラム・リサーチは、複雑な数学の質問を処理できる回答エンジンの「ウルフラムアルファ(WolframAlpha)」を開発している。
しかし、ここには落とし穴がある。私たちがAIの恩恵を享受するには、人間も適応する必要があるとウルフラム部長は言う。コンピューターが解決できる方法で問題にアプローチできるように、テクノロジーがどのように機能するかをより深く理解する必要があるのだ。
「コンピューターが改良されるにつれて、人間はこれに適応し、それが機能するか、どこが機能しないのか、どこが信頼できるのか、どこが信頼できないのかについて、より多くの知識を身につけ、より多くの経験を積む必要があるのです」とウルフラム部長は述べている。
ウルフラム部長は、より強力なコンピューターを備えたAI時代に突入するにつれ、人間は「計算論的思考」を採用する必要があると主張している。これには、問題を定義して理解し、コンピューターが答えを計算できるように問題を細分化することが含まれる。
ウルフラム部長はこの瞬間を、エリートだけが読み書きができる時代に終止符を打った、18世紀後半の大衆識字率の上昇になぞらえる。
「最初に大衆識字率が上昇した国々は、産業革命で多大な恩恵を受けました。今、私たちはそれと同等の、大規模な計算リテラシーを必要としているのです」。
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- MITテクノロジーレビューの上級記者として、人工知能とそれがどのように社会を変えていくかを取材している。MITテクノロジーレビュー入社以前は『ポリティコ(POLITICO)』でAI政策や政治関連の記事を執筆していた。英エコノミスト誌での勤務、ニュースキャスターとしての経験も持つ。2020年にフォーブス誌の「30 Under 30」(欧州メディア部門)に選出された。