レアアース争奪戦
ゴミから宝を掘り起こす
スタートアップの技術
気候変動対策に不可欠なレアアース。その供給を中国に依存する米国で、石炭灰や廃棄物から効率的に抽出する新技術が注目を集めている。環境問題の解決と資源確保の両立を目指す米国スタートアップ企業の挑戦を追う。 by Mureji Fatunde2024.07.29
- この記事の3つのポイント
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- 米国はレアアース自給に向け多様な供給源開拓に乗り出した
- 石炭灰からレアアースを抽出する技術が開発されている
- 選鉱くずや廃棄磁石からレアアースを回収する企業も
気候変動による悪影響はますます加速する一方だ。この脅威から逃れるために私たちが打てる最善の手は、化石燃料の使用を止め、低炭素テクノロジーを取り入れることである。そして低炭素テクノロジーの多くにおいて、レアアース(希土類元素)は重要な原材料となっている。将来、化石燃料に頼らない発電量の増加や、温室効果ガスの排出削減などの目標をどの国が達成するのか? レアアースを確保できるかどうかが、その勝敗を分ける一因になるだろう。ところが米国など一部の国は、レアアースの供給が今後も安定的に続くかどうか、懸念を強めている。
国際エネルギー機関(IEA)は、レアアースの需要が2040年までに、現在の3倍から7倍に膨れ上がると予測している。リチウムなどの重要な鉱物の需要は、40倍にまで達する可能性がある。2016年に発効したパリ協定は、地球温暖化に歯止めをかけるため、署名国に排出量の削減を義務付けているが、この協定の目標を果たすには、各国が設定している目標達成の期限までの期間に世界の鉱物供給量を4倍に増やす必要がある。現状のペースでは、供給量はせいぜい2倍程度にしかならないだろう。
レアアースを手に入れるには、まず原材料を確保する必要があり、その方法は大まかに3種類に分けられる。原材料を地中から直接掘り出す一次採掘。寿命を迎えた電子機器などの二次資源からの回収。そして石炭灰や鉱山で発生する使い道のない材料など、産業廃棄物をはじめとする、従来とはまったく異なる供給源から抽出する方法だ。しかし、レアアース市場では中国が圧倒的な立場にあり、2021年時点で全世界の生産量のうち60%を占めている。この状況は、ほかの国々にとって喜ばしいものとは言えない。2023年に中国がガリウム、ゲルマニウム、黒鉛の輸出に規制をかけると発表した後、各国は将来のさらなる規制を見越して代替調達源の探索を急いだ。
米国にも一次採掘源は存在するが、ほんの一握りだ。現在、米国内で稼働している唯一の鉱山は、カリフォルニア州にあるマウンテン・パス鉱山(Mountain Pass Rare Earth Mine)であり、米国内向けのレアアースを生産している。新しい鉱山を探し当てて、生産を開始しようとすれば、何十年もかかる可能性がある。このため、科学者や企業は皆こぞってレアアースのさらなる供給源確保や、レアアースの生産を長く続けるための改善に熱心だ。そのために、二次資源からの回収や、従来とはまったく異なる供給源からの回収を研究している。
クリティカル・マテリアルを探し出す
レアアースは17種類存在するが、そのうち1つを除いた全てが、2022年版の「クリティカル・マテリアル」に指定された50種類の材料のリストに入っている。リストに載ったレアアースは経済的に重要だが、供給網の混乱に弱い、ということになる。17種類のレアアースは周期表の下の方に位置している原子番号57番(ランタン)から71番(ルテチウム)の15種類の元素(ランタノイドと総称する)と、化学的に近い性質を持つ2種類の元素から成っており、具体的な例としてはプラセオジム(飛行機のエンジンに使われる)、ガドリニウム(MRI検査時に造影剤として使われる)、およびネオジム(コンピューターのハードディスクに使われる)などが挙げられる。そして「レアアース」の「レア」は量が少なくて入手が難しいという意味ではなく、世界中に広く分散していることを意味している。経済的に意味を見いだせるほどの量を1カ所で確保することが難しいのだ。
レアアースの、これまでになかった供給源の1つとして、石炭灰が挙げられる。発電所で石炭を燃やすと発生する残留固形廃棄物だ。これまで石炭灰は、水と混ぜられてスラリーとした上で、貯蔵池(地表貯水とも呼ばれる)に貯蔵されることが多かった。石炭灰が含有するレアアースの濃度は高く、かつて石炭の街として賑わったが、発電所の閉鎖によって困難に直面している米国内の都市に眠る、レアアース材料のまとまった国内資源となる可能性がある。米国内には1000を超える石炭灰の貯蔵池が存在しているが、その大部分は米国東部に点在している。その中でも最大のものの1つが、アラバマ州モービル郡にあるバリー発電所だ。およそ2.43平方キロメートルの土地に2100万トンほどの石炭灰が貯蔵されている。
貯蔵池は無害なものではない。米環境保護庁によれば、貯蔵池を適切に管理しないと、カドミウムやヒ素などの有害物質で、水路や地下水、飲料水、そして大気を汚染してしまう可能性がある。非営利の環境団体であるアースジャスティス(Earthjustice)と、同じく非営利の環境団体であるアースワークス(Earthworks)が公開した文書には「石炭燃焼残留物(CCRs:Coal Combustion Residuals)を貯蔵している発電所のうち、91%が直下の地下水を連邦飲料水基準を超えるレベルで汚染してしまっている」との記述がある。この文書は、両団体が情報取得を目的に2023年に米国エネルギー省に出した要請に対する回答だ。貯蔵池はまた、異常気象発生時に不安定化することがある。その結果あふれ出た汚染物質が野生生物を壊滅させ、不動産を損傷させ、地域社会の健康と安全を脅かすといったことが起こりかねない。アースジャスティスはサンフランシスコを本拠地とする団体で、環境問題の訴訟を専門としている。アースワークスはワシントンD. C.に本拠地を置く団体で、石油やガス、そして鉱物の採掘による悪影響を止めるために活動している。
ニューヨーク市に本社を構えるリヴェリア・ケミカル(Rivalia Chemical)というスタートアップ企業は、石炭灰の貯蔵池が引き起こす健康災害について、石炭灰を国内向けのレアアース供給源に転用することが対策になると考えている。リヴェリア・ケミカルを2022年に創業したローラ・ストイ最高経営責任者(CEO)は環境工学の博士号を取得しており、環境に関する懸念と経済活性化の可能性の両方が創業のモチベーションになったと語っている。
ストイCEOがリヴェリア・ケミカルの主力となるテクノロジーの開発に着手したのは、ジョージア工科大学の大学院に在籍している頃だった。現在は、米国エネルギー省のアルゴンヌ国立研究所が主催する「チェイン・リアクション・イノベーションズ(Chain Reaction Innovations)」プログラムで、その主力テクノロジーのスケールに取り組んでいる。リヴェリア・ケミカルは、同社が独占権を持つテクノロジーの特許を申請しており、現在は特許出願中となっている。2019年、ジョージア工科大学はこの特許申請を支援している。
リヴェリア・ケミカルのテクノロジーは石炭灰からレアアースを抽出するというものだ。このテクノロジーで石炭灰からレアアースを豊富に含む溶液を抜き出すと、鉄などの金属を含有する残留固形物が残る。石炭灰を加熱した後に冷却すると、プロトン交換の仕組みを経てレアアースがイオン液体(液体状の塩)に移る。酸を利用した還元法と、塩を利用したろ過によって、最終的に得 …
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