2024年に注目すべき気候テック3つ
MITテクノロジーレビューが選ぶ「ブレークスルー・テクノロジー10」の2024年のリストから、気候テクノロジーに関連する3つを改めて紹介しよう。 by Casey Crownhart2024.01.22
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
今年もアワードのシーズンがやってきた。先日はゴールデングローブ賞の授賞式を観た。グラミー賞やアカデミー賞の発表ももうすぐだ。だが、私にとっての最高の賞はは、やはりMITテクノロジーレビューが選ぶ世界を変えるテクノロジーのリスト「ブレークスルー・テクノロジー10」だ。
2024年はうれしいことに、3つの気候テクノロジーがリスト入りを果たしている。今回の記事では、それらの受賞テクノロジーの中から特に注目すべき点を紹介しよう。なお、完全に非公式だが、この記事ではそれぞれのテクノロジーにボーナス・カテゴリーを設定させてもらった。
超高効率の太陽電池
(助演俳優賞)
気候変動への対処において、太陽光パネルは最も重要で、おそらく最も認知度の高い手段である。だが、ある次世代太陽光技術のおかげで、太陽光発電はさらに効率的かつ安価になる可能性がある。その技術が、ペロブスカイト・タンデム太陽電池だ。
ほとんどの太陽電池はシリコンを使って太陽光を吸収し、電気に変換する。しかし、結晶性材料の一種であるペロブスカイトなど、他の材料でも同じことができる。そして、ペロブスカイトとシリコンは吸収する光の波長域が異なるため、この2つの材料をサンドイッチのように重ねることで、超高効率の太陽電池を作ることができる。
従来のシリコン系太陽電池材料に対する卓越したサポートにより、超高効率ペロブスカイト・タンデム太陽電池に今年の助演俳優賞を贈りたい。
商業化には、間違いなく障壁が存在する。ペロブスカイトは製造が難しく、これまでは屋外で風雨にさらされるとすぐに劣化してしまった。しかし、一部の企業によれば、この材料を使って商業的な太陽光発電を変革することに、これまでになく近づいているという。このテクノロジーについて詳しくは、こちらを読んでほしい。
地熱増産システム
(最優秀新人賞)
地球から熱を吸い上げることは、最も古い一般的な技術の1つである。1万年以上前に人類が温泉を使って熱を得ていた証拠があるのだ。
その後、私たちはレベルアップし、地熱を利用して発電するようになった。しかし、地球の中心部から発している熱エネルギーを利用するためには、特定の要素の組み合わせが必要だ。地表に近い熱、浸透性のある岩石、そして地下流体である。
この条件が、地熱エネルギーを利用できる可能性のある場所をかなり狭めている。そのため、いわゆる地熱増産システムを使って、利用可能な場所を広げることに取り組むプロジェクトが増えている。
地熱増産システムは、基本的に人間が作り出した地熱エネルギー源である。多くの場合、岩盤を掘り下げてポンプで流体を送り込み、岩盤の亀裂を広げる作業が実施される。最近はこの分野で、少数の企業によるいくつかの進歩が見られる。たとえばファーボ・エナジー(Fervo Energy)は、2023年に大規模なパイロット施設を立ち上げた(そして本誌が昨年発表した気候テック企業15社リストにも入った)。
地熱の再発明とイノベーションの精神により、私は地熱増産システムを今年の最優秀新人賞に選びたい。 今後予定されている最大規模のプロジェクトの中には、稼働までまだ数年かかるものもある。場所によっては、プラントの建設規模を拡大するのが難しいかもしれない。しかし、地熱増産システムは間違いなく注目すべき分野である。詳しくは、本誌のジューン・キム記者が書いた記事を参照してほしい。
ヒートポンプ式エアコン
(特別功労賞)
最後になるが、間違いなく大事な存在として、敬意を込めてヒートポンプを紹介する。電気を使って冷暖房が可能なこの装置は、私の個人的なお気に入りの気候テクノロジーである。
ヒートポンプは超高効率で、時には物理法則にほとんど逆らっているように見える。しかし実際には、物理法則に限らず、どのような法則にも逆らっていない。 昨年、この技術の仕組みを掘り下げて解説する記事を書いた。
ヒートポンプは決して目新しいものではないが、間違いなく新たな形でブレークスルーしている。ヒートポンプの販売台数は、昨年米国で初めてガスストーブを上回った。世界全体でも販売台数は上昇を続けている。地球規模で見ると、ヒートポンプにより2030年には二酸化炭素排出量を5億トン削減できる可能性がある。これは、現在のヨーロッパの道路からすべての自動車を取り除くのと同じくらいの効果である。
その長年にわたる継続的な脱炭素化への貢献に対し、私は特別功労賞を贈りたい。気候目標を達成する必要があるすべての場所にヒートポンプを導入するのは難しいだろう。詳しくはこの記事をチェックしてほしい。
受賞者の皆さん、おめでとう!リストの他のテクノロジーも忘れずにチェックしてもらいたい。ウェアラブル・ヘッドセットから革新的な新しいクリスパー(CRISPR)治療法まで、あらゆる分野のテクノロジーが取り上げられている。
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洋上風力発電にとって、逆風の時代が続いている。あちこちでプロジェクトに遅れが生じており、中止となるものもあるようだ。
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気候変動関連の最近の話題
- 欧州連合(EU)の気候部門によると、2023年は公式に最も暑い年だった。この記録的な年の詳細と、いくつかの素晴らしいグラフィックをチェックしよう。(BBC)
- 2022年末、カリフォルニア州にある国立研究所が核融合研究の大きなマイルストーンを達成し、話題となった。ご存じないかもしれないが、実はこの施設には1980年代に巨大な核融合炉があった。だが、一度も稼働することはなかった。(MITテクノロジーレビュー)
→ この研究所の現所長による、核融合研究の今後の展開がこの記事で紹介されている。(MITテクノロジーレビュー) - インドは電力需要の増加に対応するため、石炭への転換を急いでいる。インド政府は2030年までに石炭の生産量を約2倍に増やす計画だ。(ブルームバーグ)
- ある人の廃水は別の人の熱?新しいシステムは、廃水の熱を利用して近隣地域全体を暖めることができる。(BBC)
- ノルウェーが、ノルウェー海の一部を海底採掘探査のために開放する。同国は、自国海域における海底採掘業者の操業許可を検討している日本、ニュージーランド、ナミビアなどの国々に加わることになる。(ニューヨーク・タイムズ)
→ 海底採掘は、電池材料の新たな調達源になる可能性がある。しかし、環境保護主義者たちは潜在的な害を心配している。(MITテクノロジーレビュー) - 充電インフラの不足は電気自動車(EV)普及の大きな障壁である。充電インフラのない地域に新たな充電器の設置を促す3つの方法が、この記事で紹介されている。(カナリー・メディア)
- 気温の上昇によりビーバーが北に移動し、問題を引き起こしている。具体的には、ビーバーが凍った地面を融解させ、生態系を破壊する、フィードバックループを生み出している。(ガーディアン)
- 中国の自動車メーカーBYD(比亜迪)が世界を席巻し始めている。同社は2023年にプラグイン・ハイブリッド車とEVの販売台数でテスラ(Tesla)を上回り、今年も急速な成長が続くものと思われる。(ブルームバーグ)
→ BYDは、本誌が選んだ2023年度の注目すべき気候テック企業15社の1つだ。(MITテクノロジーレビュー)
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。