ブルキナファソやマリ、ウガンダでは、強烈な実験の下準備が進んでいる。現在準備中のプロジェクトのひとつでは、遺伝子をプログラムした蚊を実験室の外に放ち、自らの個体群やマラリアを伝染させる同類を絶滅に追いこむことが目的だ。
MIT Technology Reviewが昨年報じた通り「ターゲット・マラリア」計画は、遺伝子ドライブでサブサハラ(サハラ以南のアフリカ)地域でマラリアを伝染させる蚊の個体数を激減させることが目的だ。サブサハラでは、年間何十万人もがマラリアで亡くなっている。しばらく前までは机上の理論の域を出ない発想だったが、すでに遺伝子ドライブで遺伝子を組み換えた蚊を実験室内で繁殖させて実験中の段階なのだ。
基本的な考え方は、いわゆる「利己的な遺伝子」として最終的には種を滅亡へ至らせる形質を遺伝子編集で組み込み、通常よりはるかに高い確率で遺伝子を自己複製させ、あっという間に拡散させてしまうことだ。ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団が資金を援助しているターゲット・マラリアは、遺伝子ドライブを活かす方法を複数探っており、中でも遺伝子を変異させ、次世代の蚊をほぼオスだけにするよう操作する方法は、もっとも有望(オスの蚊は人間の血を吸わないし、メスがほとんどいない個体群は生殖できなくなる)とされている。
遺伝子ドライブによる昆虫を屋外に放つまでの道のりはまだまだ遠いが、計画は先行して進んでいる。テクノロジーを進歩させるのとは別に、現段階で最大の課題は、地元住民に研究の性質を理解してもらい、何が重要なのかを理解してもらうことだ。米国のオンラインメディア「スタット」の記事にあるとおり、ブルキナファソには、マラリアの原因を蚊に噛まれることより、粗悪な食習慣にあると信じている人が多い。研究者は、マラリアの仕組みとターゲット・マラリアの役割について地元の人に知ってもらう活動の一環として、地域に足を運んでいる。
生態系に与える結果については、ほとんどわかっていない。サブサハラ地域でマラリアを伝染に関わっているのは、ほとんどの場合3種類のハマダラカだ。ターゲット・マラリアはガンビエ・ハマダラカに的を絞り、個体数を激減させるか、絶滅させることを目指している。わかっているだけで約3500種の蚊がいるのに、1種類を絶滅させたところで大して意味がないようにも思えるが、前人未到の計画であり、一度野に放ってしまえば、他の種に形質が伝播し、取り返しのつかない事態に発展する可能性もある。
マラリアは長く続く、死に至る病気であり、世界中の何百万人ものQoL(生活の質)に悪影響を与えているのは周知の事実だ。遺伝子ドライブは、ハワイの珍鳥の個体数の減少からニュージーランドでの肉食哺乳類の激増対策まで、数多くの環境的異変を解決する方法のひとつとして提案されている。遺伝子ドライブが自然界にどう作用するかについての疑問点は数多く残ったままだが、もちろん科学者は遺伝子ドライブの活用には慎重な姿勢を示している。しかしマラリアは地球の公衆衛生の点で最大の脅威のひとつだ。人類にマラリアを撲滅させる力があるとすれば、一番肝心な問いは「なぜ使うべきでないのか?」でなければならないはずだ。
(関連記事:Stat, “The Extinction Invention,” “With This Genetic Engineering Technology, There’s No Turning Back,” “遺伝子ドライブによるネズミの根絶は、自然保護といえるのか?”)