結核患者の咳をAIが聞き分け、スマホ診断で新トレンド
結核と他の呼吸器疾患を咳の音で区別できるスマホアプリが開発された。音を使って病気を診断するというAI医療の新トレンドは大きな可能性を秘めている。 by Cassandra Willyard2024.01.17
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
最近、初めて聞く方法で人工知能(AI)を使っている論文と出会った。結核と他の疾患を、患者の咳の音で区別できるスマホ・アプリを開発したという研究だ。
完璧な方法ではない。このアプリでは、実際に結核に罹患している人のうち約30%を検出できなかった。ただ、痰を収集して結核の原因となる細菌を探す方法(結核の診断において標準的な手法)に比べると、はるかに簡単で低コストだ。そのため特に低所得国において、症例を把握して感染拡大を防ぐスクリーニング・ツールとして活用できる可能性がある。
この新しい研究では、米国とケニアの研究チームが、ケニアの医療センターで収集された咳の録音を使用し、スマホ・ベースの診断ツールで訓練と検証を実施している。そこでは、結核患者149人とその他の呼吸器疾患患者46人から集められた約33000件の自発的な咳と、1200件の強制的な咳が使用された。アプリの性能は、従来の診断方法を置き換えるほど良好とはいえなかった。しかし、追加のスクリーニング・ツールとしては使用可能だ。結核に罹患している人々が特定され、治療を受ける時期が早まれば早まるほど、疾患を拡散させる可能性は低くなる。
この新しい論文は、咳やその他の体内音を「音響バイオマーカー」(健康状態の変化を示す音)として使用することを目的とした、近年発表されたに数十報の論文のうちの1つである。 コンセプトは少なくとも30年前から存在するが、過去5年間でこの分野は爆発的に成長した。サウスフロリダ大学の喉頭学者であるヤエル・ベンスーザン助教授によると、変化したのはAIの使用が増加した点だという。「AIを使えば、より多くのデータをより速く分析できます」。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)も、咳の分析への関心を高めた。ベンスーザン助教授によると、前のパンデミックによって、咳の音響分析に焦点を当てたスタートアップ企業が30〜40社ほど誕生したという。2020年に設立されたオーディブルヘルスAI(AudibleHealthAI)は、新型コロナの診断を目的としたモバイル・アプリの開発を始めた。オーディブルヘルスDX(AudibleHealth DX)と呼ばれるこのソフトウェアは現在、米国食品医薬品局(FDA)による審査中だ。同社は現在、インフルエンザと結核にも取り組みを広げている。
オーストラリアのレスアップ・ヘルス(ResApp Health)は、パンデミックのはるか前、2014年から呼吸器疾患の音声診断に取り組んできた。だが、新型コロナが発生すると、同社は音声ベースの新型コロナ・スクリーニング・テストの開発に舵を切った。2022年、同社はこのツールを用い、患者の咳の音だけで新型コロナ陽性者の92%を正しく特定できたと発表した。 程なくして、レスアップは1億7900万ドルでファイザーに買収されている。
ベンスーザン助教授は、この種のアプリによる診断の信頼性については懐疑的だ。ただ、(あらゆる種類の)咳検出アプリは、原因は特定できないとしても貴重な健康ツールになり得るという。咳であれば、スマホで簡単に収集できる。「一般的な機器であるスマホを使って、ベッド脇やポケットの中で咳を観察できるのは大転換です」。グーグル・ヘルスのジェイミー・ロジャース製品部長はタイム誌にこう語っている。グーグルの最新版ピクセルには、咳といびきの検出機能が搭載されている。
ベンスーザン助教授はまた、咳をトラッキングするアプリは臨床試験におけるゲームチェンジャーになる可能性があると考えている。臨床試験において、研究者らが測定しようとしているものの1つが咳なのだ。「咳のトラッキングは本当に難しいです」。研究者たちは、患者の記憶に頼ることが多い。しかし、アプリのほうがはるかに正確だろう。「技術的な点から言えば、咳の頻度を把握するのはきわめて簡単です」とベンスーザン助教授は言う。
健康状態についての手がかりとなるのは咳だけではない。ベンスーザン助教授は、米国国立衛生研究所(NIH)から1400万ドルの助成を受けたプロジェクトを主導している。このプロジェクトでは、がん、呼吸器疾患、神経疾患、気分障害や言語障害といったさまざまな疾患を診断するツールの開発支援のために、声、咳、呼吸音の大規模データベースを開発している。このデータベースでは、咳、文章や母音の読み上げ、吸気、呼気といった、幅広い音を収集している。
「大きな制約となっていることの1つに、多くの研究が非公開のデータセットを使用していることがあります」とベンスーザン助教授は話す。それが研究結果の検証を困難にしているのだ。同助教授らが開発しているデータベースは、一般に公開される予定だ。6月までには最初のデータ・リリースを予定しているという。
より多くのデータが利用可能になるにつれ、咳や発話パターンに基づいて健康上の問題を警告してくれるアプリがさらに登場することが予想される。こうしたアプリが診断やスクリーニングに大きな影響を与えるかどうか、それを判断するにはまだ時期尚早だが、新しい動向に注目していきたい。
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本誌のジェシカ・ヘンゼロー記者は、AIにすべての医療判断を任せてはいけない理由について概説している。「医師は患者自身の生活体験や自身の臨床的判断を犠牲にしてまで、AIを信頼する傾向にある可能性がある」とのことだ。
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- cassandra.willyard [Cassandra Willyard]米国版
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