温かい海水のせいでカリブ海をはじめとする世界中の海域にサンゴ礁の墓場が生まれる中、ある科学者たちのチームは大急ぎでサンゴを冷やそうとしている。それも、ずっと低い温度——マイナス200℃でだ。
スミソニアン保全生物学研究所(Smithsonian Conservation Biology Institute)の生物学者メアリー・ハーゲドルン博士らが中心となって活動しているコーラル・バイオバンク・アライアンス(Coral Biobank Alliance)は、地球上に生息する約1000種の造礁サンゴを凍結保存するか、または他の方法で飼育下に置いて保存することを目指している。サンゴ礁は生態系として、2035年までには機能的に絶滅すると予想されている。ハーゲドルン博士は、熱に強いサンゴの繁殖など、現在の保護活動を支援するだけでなく、海洋大量絶滅の可能性が徐々に高まっているサンゴ礁を再生するために、十分な量のサンゴの精子、幼生、成体ポリプを冷凍したい考えだ。だが、この計画にはこれまで大きな工学的ハードルが立ちはだかってきた。
凍結保存を成功させる上で最大のハードルは、おそらく氷である。「氷は結晶です」と、テキサスA&M大学の熱力学者、マシュー・パウエル=パーム助教授は言う。「私たちは、サンゴの組織内部の水分をガラス状にしようとしています」。分子レベルのガラスは凝固した液体のようなもので、デリケートな組織を引き裂くことがあるギザギザの結晶は存在しないと同助教授は説明する。氷が形成されるのを回避するため、標本はガラス化を促進する凍結保護溶液に浸され、その後急速に冷却される。サンゴと共生する藻類には別のプロセスが必要だ。また、オーストラリアやインドネシアのような遠隔地のフィールド・ステーションでは技術的能力が限られていることを考慮して、必要 …