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MITTRが選ぶ、
「最低」なテクノロジー
7選【2023年版】
Stephanie Arnett/MITTR | Getty, Humane,Wikipedia, Envato,
The worst technology failures of 2023

MITTRが選ぶ、
「最低」なテクノロジー
7選【2023年版】

MITテクノロジーレビュー年末恒例の記事、その年の失敗したイノベーションのリストを発表する。今年はタイタン潜水艇、実験室育ちの鶏肉、GMのロボタクシーなどをピックアップした。 by Antonio Regalado2023.12.28

毎年恒例、「最低」なテクノロジーのリストへようこそ。今年は特に、1件のテクノロジー災害が私たちに教訓を与えてくれた。タイタニック号のすぐ近くで内破した「タイタン(Titan)潜水艇」だ。

この潜水艇は安全ではないと、製作者のストックン・ラッシュに多くの人が警告していた。だがラッシュは、イノベーションとはルールブックを捨て去り、チャンスに賭けることだと信じていた。ラッシュは優れた工学上の助言を顧みずに、希望的観測を優先し、他の4人の乗員と共に死亡した。

この事故は私たちに、イノベーションの精神が現実よりも先走る場合があり、ときには不愉快な結果をもたらすということを示している。今年は同じような現象を何度も目にした。たとえば、ゼネラルモーターズ(GM)の自動運転部門「クルーズ(Cruise)」は、準備が整う前にロボタクシーを運用し始めた。GMがそれほど急いでいたのは、年間20億ドルもの損失を出していたためだろうか?

ほかにも、希望を持ち続けるために複雑な方法を見つける企業もある。たとえばある会社は、自社の工業装置を誇示しながらも、ひそかにカスタムメイドのやり方で実験室育ちの肉を作っている。しかし、最悪の憂慮すべき事実は、強い信念を持つ者には迫り来る災難が見えないのに、私たちにはそれが見えていることだ。スマートフォンに取って代わることを目的に数千万ドルを投じて開発された、新たなテクノロジー「Aiピン(Ai Pin)」が、まさにそれに当たる。私たちには大失敗のように見える。


1. タイタン潜水艇

今年の夏、ニュースフィードを見る人々の目は、海面下3500メートルで繰り広げられたドラマに釘付けになった。5人を乗せた実験用潜水艇「タイタン」が、沈没したタイタニック号を見るため海中を降下した後、行方不明になったのだ。

the oceangate submersible underwater

タイタンは、急進的な設計の深海潜水艇だった。ミニバンサイズの船体はカーボンファイバー製のチューブ状になっており、ジョイスティックで操縦する。航空宇宙エンジニアのストックトン・ラッシュは、この潜水艇が深海に新たな種類の観光の可能性を開くと信じていた。ラッシュの会社であるオーシャンゲート(OceanGate)は、この船が400気圧の圧力に耐えることが証明されていないという警告を受けていた。ラッシュはその答えとして、「『人は破ったルールによって記憶される』と言ったのは、マッカーサー元帥だったと思う」とあるユーチューバーに話していた。

しかし、物理学のルールを破るのはまずい。タイタンとの連絡が途絶えてから4日後の6月22日、深海ロボットが潜水艇の残骸を発見した。壊滅的な爆縮で破壊された可能性が高かった。

ラッシュのほか、以下の乗員が死亡した。

  • ハミッシュ・ハーディング(58)観光客
  • シャーザダ・ダウード(48)、観光客
  • スレマン・ダウード(19)、観光客
  • ポールアンリ・ナルジョレ(77)、タイタニック号探査の専門家

もっと詳しく知りたい人はこちら:
タイタン潜水艇は「起こるべくして起こった事故」だった(ザ・ニューヨーカー)
オーシャンゲートはタイタニック号ミッションで「破滅的な」問題が発生する可能性を警告されていた(ニューヨーク・タイムズ)
オーシャンゲートのストックトン・ラッシュCEOは2021年に「いくつかのルールを破った」ことはわかっていると話していた(ビジネス・インサイダー)


2. 実験室育ちの肉

食べるため動物を殺す代わりに、実験室のバット(実験用トレー)の中で牛肉や鶏肉を製造したらよいのではないか? それが「実験室育ちの肉」の背後にある人道的なアイデアだ。

しかし、問題は、それをいかにして大規模に作るかである。アップサイド・フーズ(Upside Foods)の例を見てみよう。カリフォルニア州バークレーを拠点とするこのスタートアップ企業は、5億ドル以上の資金を調達し、列をなすピカピカの大きなスチール製バイオリアクターを誇示していた。

しかし、記者たちはすぐに、アップサイドが「虚飾で彩られたカラス」であることを知った。同社の大きなタンクは稼働していなかったのだ。従業員たちは、それよりもはるかに小さなプラスチック製の実験用フラスコの中で、ニワトリの皮膚細胞を培養し、培養した細胞の薄い層を手作業ですくい上げて、圧力を加えて鶏肉に整形していた。つまり、アップサイドは多くの労働力とプラスチック、およびエネルギーを使って、ほとんど肉を作っていなかったというわけだ。

元従業員のサミール・クラーシは、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に対し、アップサイドが実験室育ちの食品の可能性を誇張した理由を知っていると語った。「それは 『成功するまで偽れ』の原則です」と、クラーシは話した。

実験室育ちの鶏肉は米国食品医薬品局(FDA)の認可を取得しているものの、それが本物の肉の競合品となるかどうかは疑わしい。スーパーマーケットで売られている一般的な鶏肉は、1ポンド(約454グラム)あたり4.99ドル程度だ。アップサイドはまだ実験室育ちの鶏肉の製造コストを明らかにしていないが、サンフランシスコのあるミシュラン星付きレストランでは、数口分が45ドルで売られている。

アップサイドは、課題があることを認めている。「私たちがこの仕事に参入したのは、簡単だからではなく、世界が緊急に必要としているからです」と、同社は言う。

もっと詳しく知りたい人はこちら:
ミシュラン星付きレストランの培養肉料理、そのお味と食感は?(MITテクノロジーレビュー )
実験室育ちの鶏肉の最大の問題は鶏肉を育てること(ブルームバーグ)
内部関係者が明かす、実験室育ちの肉のスタートアップ企業アップサイド・フーズの主な問題点(ワイアード)


3. クルーズのロボタクシー

自動運転ファンの皆さんには申し訳ないが、今年はその失敗を無視できない。テスラ(Tesla)はつい先日、自動運転モードに設定した車が緊急車両に衝突したことを受け、大規模なソフトウェア・リコールを実施した。しかし、最大の失敗は、GMの「クルーズ」部門だった。クルーズは、サンフランシスコで昼夜を問わず無人タクシー乗車サービスを提供した最初の企業であり、その保有台数は400台を超える。

ロボタクシーは疲れないし、酒に酔わないし、注意散漫にならないと、クルーズは主張している。新聞に「人間はひどいドライバーである」と断言する全面広告すら出した。

a Cruise vehicle parked on the street in front of a residential home as a person descends a front staircase in the background

しかしクルーズは、過ちは人間固有のものであり、ロボットが過ちを犯すなどもってのほかであることを忘れていた。クルーズのセンサーを搭載するシボレー・ボルトはすぐに、歩行者を約6メートルも引きずるなど、目立った事故を重ね始めた。今年10月、カリフォルニア州自動車局は、「公共の安全に対する不当なリスク」を理由に、GMのロボタクシーサービスを一時停止させた。

すでに年間20億ドルの赤字を出していたクルーズにとっては、打撃だった。クルーズはその後、従業員の25%を解雇し、共同創業者兼CEOのカイル・ヴォクト(マサチューセッツ工科大学の元学生)を解任した。現在、クルーズのWebサイトには、「無人運転サービスを一時的に停止しました」と掲載されている。安全性を見直し、「社会的信頼を取り戻す」ための措置を講じているという。私から1つ、提案がある。人間を見下すような発言を止め、道路を凝視しよう。

もっと詳しく知りたい人はこちら:
GMの自動運転車部門が軌道から外れる (ウォール・ストリート・ジャーナル)
クルーズからの重要なアップデート(Getcruise.com)


4. プラスチックのまん延

プラスチックは素晴らしい。強いし、軽いし、プレス加工すれば、ガーデンチェアやボブルヘッド人形、バッグ、タイヤ、糸など、ほぼどんな形にも整形できる。

問題は、ダグ・メインが今年、MITテクノロジーレビューで報告したように、プラスチックが多すぎることだ。人類は年間4億3000万トンのプラスチックを製造しているが(全人類の体重を合わせた量よりはるかに多い)、リサイクルされるのはわずか9%である。残りは最終的に埋め立てに使われ、ますます環境に流れ込んでいる。平均的な大きさのクジラの腹の中には何キログラムものプラスチックが入っているだけでなく、少量の「マイクロプラスチック」はソフトドリンクやプランクトン、人間の血流の中でも見つかっており、空気中にさえ浮遊している。マイクロプラスチック汚染の広がりによる健康への影響は、ほとんど研究されていない。

この地球規模の厄災に対する認識は高まっており、汚染を食い止めるための「プラスチック条約」を求める声もある。しかし、その実現は難しいだろう。プラスチックは非常に安価で便利だからだ。しかし研究者たちは、プラスチックゴミを削減する最善の方法は、そもそもプラスチックを作らないことだと言う。

もっと詳しく知りたい人はこちら:
自分が使ったプラスチックはリサイクルされていると思う?もう一度よく考えよう(MITテクノロジーレビュー)
よかった、ハリケーンは今やマイクロプラスチックでできている(ワイアード)


5. ヒューメインのAiピン

ニューヨーク・タイムズ紙はそれを、スマートフォンの次に来るものに対するシリコンバレーの「大きく大胆なSF的賭け」と宣言した。その製品とは、カメラ、チップ、センサーを搭載したプラスチック製のバッジ「Aiピン(Ai Pin)」である。

Humane's AI Pin worn on a sweatshirt

私たちを携帯電話中毒から解放するデバイスの開発は、追及する価値のある目標だ。しかし、この699ドルのごついピンバッジ(月額24ドルのサブスクリプション料も必要)は、そうではない。スタートアップ企業のヒューメインAi(Humane Ai)が開発したこのデバイスは、初期のレビューで「魔法と扱いにくさが同じくらい混在している」と評され、扱いにくさの方に強調が置かれている。メッセージを送ったり、人工知能(AI)とチャットしたりするには、音声コマンドを使う必要がある(このピンバッジに搭載されたレーザープロジェクターで、手のひらに情報を表示することもできる)。ゴルフボールほどの重さがあるので、おそらくTシャツにつけることはないだろう。

この製品を生み出したのは、アップルの元幹部であるベサニー・ボンジョルノとイムラン・チャウドリの夫婦チームだ。2人は、ブラザー・スピリットという仏教僧の導きによってこの製品アイデアにたどり着いた。これまでに2億2500万ドルを費やし、55件の特許を出願している。

明らかに、この製品はじっくりと考えられ、工学に基づいて生み出されたものだ。しかし、ザ・ヴァージ誌のウェアラブルデバイスのレビュアーであるヴィクトリア・ソングは、「優れたウェアラブルデザインの最も重要なルールが軽視されており、身に着けたいとは思えない」と指摘する。現状では、Aiピンはかっこいいものの、まだスクリーンの魅力には敵わない。

もっと詳しく知りたい人はこちら:
AIとレーザーはスマホ中毒を治せるか?(ニューヨーク・タイムズ)
実際のところ、スクリーンは良い(ザ・ヴァージ)


6. ソーシャルメディアで喧伝された超伝導体

室温超伝導体は、電気抵抗のない物質である。もし存在すれば、新たな種類のバッテリーや強力な量子コンピューターが可能になり、核融合がより実現に近づくだろう。まさに聖杯である。

そのため、今年7月に韓国から入ってきた、「LK-99」と呼ばれる物質が本物の室温超伝導体であるという報道は、インターネット上の目立ちたがり屋たちによってすぐに拡散された。このニュースはまずアジアで、磁石の上に小さな物質が浮いているオンライン映像とともに報じられた。その後、ソーシャルメディアのホットテイク(検証や洞察がほとんどない煽り記事)によってさらに注目の的となった。

Pellet of LK-99 being repelled by a magnet

「今日は、私の生涯で最大の物理学的発見があった日かもしれない」というXへの投稿は、3000万回閲覧された。「人々がその意味を完全に理解しているとは思いません。それが私たちの生活をどのように完全に変えてしまう可能性があるのか、紹介します」。

その投稿を書いたのが、あるコーヒー会社のマーケティング担当者だったことは問題ではない。潤沢な資金を持つスタートアップ企業が、ロケットや生命工学の研究をやめて魔法の物質を作ろうとしているのを見るのは、刺激的であり、滑稽でもあった。ニューヨーク・タイムズ紙のケネス・チャン記者は、LK-99を「この夏の超伝導体」と呼んだ。

しかし、夏の夢はすぐにほころびを見せた。本物の物理学者たちがこの研究を再現できなかったのだ。LK-99は超伝導体ではない。レシピの中に含まれる不純物が、韓国の研究者たちの判断を誤らせていたのである。そして、ソーシャルメディアのせいで、私たちも惑わされた。

もっと詳しく知りたい人はこちら:
LK-99はこの夏の超伝導体(ニューヨーク・タイムズ)
LK-99は超伝導体ではない – 科学探偵たちはいかにしてその謎を解明したか(ネイチャー)


7. 無法者による地球工学

太陽地球工学(ソーラー・ジオエンジニアリング)は、大気中に反射物質を放出することで地球を冷やすというアイデアだ。それは、問題をはらんだ考え方である。なぜなら、温室効果を覆い隠すだけで、止めることはないからだ。そして、誰が太陽を遮ることを決めるのか?

メキシコは今年初め、地球工学実験を禁止した。スタートアップ企業のメイク・サンセッツ(Make Sunsets)が、この取り組みを商業化できると判断したためだ。同社の共同創業者であるルーク・アイゼマンは、反射性のある二酸化硫黄を空にばら撒くように設計された気球をメキシコで打ち上げることを決めた。このスタートアップ企業は、現在もまだWebサイトで「冷却クレジット」を1単位10ドルで販売している。

粒子を空にばら撒くことは、理論的には安くて簡単な方法であるし、気候変動は大きな脅威だ。しかし、本誌のジェームズ・テンプルが書いたように、あまりに急な動きは反動を生み、進歩を止めてしまう場合がある。「それらの取り組みは、地域社会が自分たちの未来を決める権利を侵害している」と、ある評論家は述べている。実験主義者たちでさえ、自分たちが邪悪な存在だと思われていることを自覚している。英国で気球を打ち上げたある科学者が、その実験に「サタン(SATAN:成層圏エアロゾル輸送・核生成)」という名前を付けたのは、それが理由かもしれない。

アイゼマンはまだ考えを改めていない。「私は飛行機に乗る前に、何十億人もの人々から意見を聞いたりしません」と、アイゼマンは述べている。「地球を冷やすためにちょっと何かをしようとする前に、世界中のすべての人に許可を求めるつもりはありません」 。

もっと詳しく知りたい人はこちら:
極端な気候変動対策を急ぐ論理の欠陥(MITテクノロジーレビュー )
メキシコがスタートアップ企業の実地試験を受け太陽地球工学実験を禁止(ザ・ヴァージ)
世界初の太陽地球工学実験、英国で2022年に実施か(MITテクノロジーレビュー)

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MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。
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