3つの重要データで振り返る、2023年の気候問題
2023年は気候問題にとって記録破りの年であった。3つの重要データから気候変動に関する動きを振り返ってみよう。 by Casey Crownhart2023.12.27
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
2023年は気候に関するニュースが多い年だった。気象災害、技術面のブレークスルー、政策変更が世界各地で見出しを賑わせた。山ほど悪いニュースがある。だが、目を向けるべきところさえわかれば、希望の光も見えてくる。
2023年の最後に、この1年をデータで振り返る「まとめ」で締めくくりたい。
排出量が(再び)最高値を記録
厳密に言えば、2023年の最終的な結論を出すことはまだできない。だが、化石燃料による温室効果ガス排出量に関しては、今年もまた過去最高を記録しそうな勢いであることは間違いない。
12月に入って発表された「世界のCO2収支 2023年版(Global Carbon Budget report)」によると、化石燃料による二酸化炭素排出量は、2023年は368億トンに達すると予想されている。昨年の水準より1%強高い値だ。
排出量が再び過去最高値を記録したことは良いニュースとは言えない。理想としては、この路線に反対方向へ、しかも迅速に進んでほしいものだ。
とはいえ、この傾向がどこでも同じというわけではない。たとえば米国と欧州では、実際に炭素汚染がわずかに減少している(ただし、米国と欧州は歴史的に排出量がきわめて多い地域だ)。中国とインドの排出量は、それぞれ約4%および約8%ずつ増えている。
だが、この伸びはすぐに鈍化する可能性があり、今後数年以内に排出量のピーク(排出量が反転して減少し始める時点)に近づくのではないかと述べるアナリストもいる。私は懐疑的だ。
将来ではなく現在進行形の問題
排出量が過去最高を記録するだけではなく、2023年が観測史上、最も暑い年になるのもほぼ確実だ。11月までの年平均気温は、産業革命前の水準よりも1.5°Cほど高かった。
過去数十年と比較しても、温暖化傾向は顕著だ。11月の平均気温は、1990年代の11月より0.85℃高かった。
空も海も、どこを見ても地球はヒートアップしている。そして気温上昇などの気象パターンの変化が連鎖的な影響を及ぼしていることは、2023年に身をもって体験したとおりである。
海氷が新たな低水準に達した。カナダでかつてない規模の山火事が起こり、米国東海岸に煙が猛烈に立ち込めた。リビアの洪水で数千人が死亡し、アフリカの角(アフリカ大陸東端の半島)では干ばつが何年も続き、数百万人が水と食糧の不足に直面している。気象災害と聞いてどのような被害を思い浮かべるだろうか。おそらく2023年に、そのひとつが世界のどこかで記録を更新しているはずだ。
振り返ると、ここ数年で高まってきた傾向が今年は目に見える形で現れたと思う。気候変動から直に多大な影響を受ける人が増えているのだ。それによって、気候変動が理論上の将来の可能性ではなく、現在進行形で起こっている現実であるという認識が高まっている。
投資に明るい兆し
悪いニュースを語らずして今年を振り返ることはできない。だが、明るい面もある。
まず、今年はクリーン・エネルギーへの投資も記録的な規模になり、世界の総支出は1.7兆ドルにのぼった(そう、億ではなく兆である)。
ここしばらく、クリーン・エネルギーへの投資が化石燃料への投資を上回っている。太陽光発電や風力発電、エネルギー貯蔵のようなテクノロジーへの支出が増え、その差が広がり始めた。実際、太陽光発電だけで初めて化石燃料を上回る投資を集めた。
現在の気候状況はかなり厳しい。その事実を常に忘れず、現在の状況と残されている課題について現実的に考えることが大切だ。とはいえ、目を向けるべきところさえわかれば、気候関連ニュースにも明るい面はある。
MITテクノロジーレビュー[米国版]編集部の気候チームは、2023年の気候関連の良いニュースをまとめた。希望を持てる理由について、詳しくはこちらの記事を参照してほしい。
MITテクノロジーレビューの関連記事
2023年の気候・エネルギーに関するトップニュースを振り返ろう。
- ヒートポンプはまるで魔法だ。ヒートポンプの機能を掘り下げた、私のお気に入りの記事のひとつを紹介しよう。
- 本誌のヤン・ズェイ記者は、中国が電気自動車(EV)業界を支配するまでを興味深く考察した。
- 地熱は今年のホープだった。同僚の気候担当記者、ジェームス・テンプルが、井戸を巨大な地下電池として使っているスタートアップを取材した。
- 今年の秋には初めて、MITテクノロジーレビューが選ぶ注目すべき「気候テック企業15社」を発表した。知っておきたい気候関連ビジネスをこちらに網羅している。
◆
気候変動関連の最近の話題
- 2024年1月1日に新たな規制が始まるため、米国では間もなく税額控除の対象になるEVが減る見込みだ。自動車メーカーのテスラ(Tesla)およびフォード(Ford)によると、「テスラ モデル3」と「マスタング マッハE(Mustang Mach-E)」は対象外になるという。(ニューヨーク・タイムズ紙)
- 昨年の気候関連法案の税額控除の詳細が新たに明らかになり、意外にも蓄熱が勝者であることがわかった。控除の適用で、この代替エネルギー貯蔵方式が市場に浸透するかもしれない。(カナリー・メディア)
→ レンガが新たなエネルギー貯蔵テクノロジーとして熱くなっている理由はこちら。(MITテクノロジーレビュー) - アップサイド・フーズ(Upside Foods)などの培養肉企業は、動物を利用せずにヘルシーで気候にやさしい肉を提供すると約束し、数十億ドルを集めた。だが、今のところ成果はいまいちで、スケールアップを目指すには多くの課題が残っている。(ブルームバーグ)
- 米国では、膨大な数のクリーン・エネルギーのプロジェクトが送電網への接続を待っている状態だ。この遅れのせいで、多くの州で2030年のクリーン・エネルギーの目標を達成できなくなる可能性がある。(カナリー・メディア)
- 排出量不正のスキャンダルを起こした自動車メーカーのフォルクスワーゲンは2016年、EV向け充電ステーションの整備に20億ドル投資することを約束した。だが、その充電器は、他の充電ネットワークと比べて信頼性が低いことがわかった。(ワシントンポスト紙)
- 2020年代の終わりまでに、多くの電池にパスポート(原材料と履歴のデジタル記録)が必要になりそうだ。(クォーツ)
- 二酸化炭素除去が、突飛な思いつきから注目の話題に変わった。一部の科学者はその状況を問題視している。企業や政府が、排出量を大幅に削減せず、この実績のないテクノロジーを利用して従来のままのビジネスを続けようとしているからだ。(E&Eニュース)
→ 二酸化炭素除去は間違ってとらえられていると一部の専門家が訴える理由はこちら。(MITテクノロジーレビュー) - 気候変動が現実であることは圧倒的なエビデンスが示しているが、依然として陰謀論にはまる人がいる。その理由はいくつもある。(グリスト)
→ 年末年始の集まりで気候問題の話題を持ち出したい読者のために、気候テクノロジーについて話すときのコツをこちらに挙げている。(MITテクノロジーレビュー)
- 人気の記事ランキング
-
- Bringing the lofty ideas of pure math down to earth 崇高な理念を現実へ、 物理学者が学び直して感じた 「数学」を学ぶ意義
- Promotion Innovators Under 35 Japan × CROSS U 無料イベント「U35イノベーターと考える研究者のキャリア戦略」のご案内
- The 8 worst technology failures of 2024 MITTRが選ぶ、 2024年に「やらかした」 テクノロジー8選
- Google’s new Project Astra could be generative AI’s killer app 世界を驚かせたグーグルの「アストラ」、生成AIのキラーアプリとなるか
- AI’s search for more energy is growing more urgent 生成AIの隠れた代償、激増するデータセンターの環境負荷
- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。