中国テック事情:司法も秘密主義へ、判決文ネット非公開化の懸念
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China’s judicial system is becoming even more secretive 中国テック事情:司法も秘密主義へ、判決文ネット非公開化の懸念

中国には、裁判所が下した判決文を誰でも参照できるオンライン・データベースがある。しかし最近になって中国の司法当局は、非公開のデータベース・システムを新たに構築し、秘密主義への移行を進めている。 by Zeyi Yang2024.01.16

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

新年は新たなスタートに最適な時期だ。しかし、必ずしもそうというわけではない。今日は、残念ながら間違った方向に進んでいる、中国の司法制度の透明性について紹介したい。

12月中旬、中国の最高裁判所に当たる最高人民法院から流出した文書がネットに出回り始めた。この文書によると、2023年末までにすべての裁判所は新しい「全国裁判所判決文書データベース(National Court Judgment Document Database)」への判決文のアップロードを済ませる必要があるという。このデータベースは1月中にリリース予定で、利用できるのは内部の職員のみ。その後、この文書の信憑性は中国メディアによって確認されることになった。

組織のデジタル化を進めることは、本質的には悪いことではない。しかし、研究者などの専門家たちは、これがすでに無料で公開されている「中国裁判文書網(China Judgements Online)」に取って代わる可能性が高いと考え、懸念を抱いている。

2013年に初めて構築された中国裁判文書網は、中国のガバナンスを理解するのに役立ち、広く利用できる最大規模のデータベースの1つであり、そしてますます不透明になる中国の司法システムへの数少ない窓口と言える。裁判所が出した数百万件の詳細な判決文を中国国民が閲覧できるようにすることで、少なくともある程度は権力者の責任を問うことができた。もしこのシステムがなくなったら、中国国民、および外部から事態を観察している人たちの両方に大きな影響を与えることになるだろう。

中国裁判文書網が立ち上がった当時、中国はまだ透明性と監督の強化を推奨していた時代だった。また2016年には裁判官に対し、判決文をアップロードしない言い訳を見つけないよう、指示する規制すらあった。

確かに、中国政府の最重要目標は、透明性のための透明性ではなかったかもしれない。「司法判断をオンライン化する主な動機は、大規模なシステムの中央集権的な管理を強化したいという願望と、裁判官の専門技能強化を通じて裁判所を強化しようという取り組みであったと思われます」。中国裁判文書網を追跡調査しているジョージタウン大学アジア法センターのルオ・ジアジュン研究員とトーマス・ケロッグ常任理事はこう記している(以前、中国の各地方裁判所はそれぞれ独自の追跡システムを持っていた)。

にもかかわらず、結果は事実上同じであった。中国裁判文書網は、弁護士、学者、法学生、人権活動家など、さまざまな人たちにとって重要な情報源となったのだ。現在、中国裁判文書網には1億4300万件を超える判決がアップロードされ、Webサイトへのアクセス数は1000億回を超えている。

中国裁判文書網を除くと、中国政府に情報の開示を求めるのは非常に難しいが、中国裁判文書網の判決文は、意図的か否かに関わらず、司法制度や中国で一般的に何が起こっているかについて多くのことを教えてくれる。「中国裁判文書網が閉鎖されれば、個々の事件に対する国民の監視を確保することが難しくなるでしょう」とルオ研究員は述べた。

象徴的な事例は、2022年初頭に起きた。精神障害のある中国人女性が誘拐された後に強制的に結婚させられ、その後8人の子どもを出産したという事件だった。ドウイン(Douyin:抖音)のインフルエンサーが広めたこのニュースは、発覚当初にそれを隠蔽しようとした地方自治体の動きとともに、すぐに中国全土の人々の怒りを買った。

人権活動家たちは、これが単なる一回限りの事件ではなく、地方自治体が黙認している組織的な問題であることを示そうとしていた。実際のところ、この女性が住んでいた奉賢県は、女性が誘拐されて子作りを望む男性に売られていることで、長らく非常に悪い評判があったのだ。

人権活動家たちは中国裁判文書網を検索したところ、誘拐され強制的に結婚させられた女性が奉賢県で離婚を申請したものの、その後申請を拒否された例が過去に少なくとも2件あったことを発見した。また、奉賢県で人身売買の罪で起訴された容疑者たちは、最小限の懲役刑しか受けていないことも判明したのだ。

中国裁判文書網を調べたところ、奉賢県に限らず中国全土で同じようなことが起こっていることが明らかになった。中国裁判文書網に掲載された1480件の人身売買事件を分析したある研究では、これらの事件の3分の1で精神障害のある女性が巻き込まれており、また女性は1万ドル未満で売られることが多いことが判明した。これらの情報はすべて、公開資料から入手したものだ。

これらの事件のすべてが明らかになる前は、多くの人がこのような人身売買は中国では過去のものになっていると信じていた。その後、この中国裁判文書網の記録は一斉に、ここ数年で最大規模のネット社会運動を引き起こす一因となった。人々は何カ月も繰り返し奉賢県の女性の名前を挙げ、政府に説明を迫ったのだ。

中国裁判文書網は長年にわたり、ほかにも多くの役割を果たしてきた。活動家たちは、新疆ウイグル自治区におけるウイグル人の訴追や、ネット上での抗議活動の犯罪化を明らかにするために中国裁判文書網を利用した。またこれは、中国企業に関する有用な情報源にもなり、企業が信頼できるかどうか評価するために判決文を確認する人もいる。

しかし、これらすべては2021年頃から大きく変わることとなった。

北京の清華大学の法学部で教授を務める何海波(He Haibo)によるデータ可視化によると、中国裁判文書網で公開された年間の判決文の数は2020年にピークに達し、その数は2330万件となった。だが、2022年には62%減の890万件となっているのだ。また何教授は、2022年にアップロードされた行政訴訟(政府が被告の訴訟)は854件のみで、これは同年に実施された67万件の行政訴訟のほんの一部に過ぎないとも指摘した。

同じ頃、中国裁判文書網も事件のファイルを大量に削除し始めた。2021年のわずか3カ月の間に、中国裁判文書網の管理者はシステム移行が必要だという理由で、1100万件以上の事件を削除したのである。コロンビア大学法科大学院教授のベンジャミン・リーブマンが主導する研究プロジェクトによると、2021〜2022年の間の12カ月間で、刑事事件の判決の9%がデータベースから削除されていることが明らかになった。また、「スパイ活動に使用される機器の違法な製造、または販売」や「騒動を大きくしたりトラブルを引き起こしたりする」など、特定の刑事犯罪はプラットフォーム上で完全に削除されていることが判明した。ちなみに後者は、中国人の抗議活動の参加者を訴追するための古典的な建前である。

以上のように過去3年間に、中国裁判文書網にはいろいろなことが起こった。その結果、中国裁判文書網は少なくともかつてのような、中国政府の真の透明性を示すものではなくなってしまった。それでも、人々が研究に使えるように何百万もの判決文はネット上に残されており、依然として計り知れない価値を提供している。そしてこれらは、考えられる代替案よりも優れているのだ。

複数の中国の法学者は裁判所に対して、中国裁判文書網のオンライン公開を維持し、判決の公開を継続するよう公に求めている。しかし、これが実現するとは考えにくい。中国裁判文書網がなくなれば、中国内外の人々が中国で何が起こっているのかを理解することは、さらに難しくなってしまうだろう。

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