史上初となる、鎌状赤血球症の遺伝子編集治療法を販売する認可を得たばかりの企業が、その代わりとなる一般的な薬をすでに探している。
米国マサチューセッツ州ボストンの製薬会社、バーテックス・ファーマシューティカルズ(Vertex Pharmaceuticals)には「遺伝子編集をまったくしない錠剤を作ること」に取り組んでいる50人の研究チームがあるという。最高科学責任者(CSO)を務めるデイヴィッド・アルトシューラーが明かす。
「私たちは、自らを凌駕するイノベーションを起こそうとしています」。
バーテックスは12月8日、遺伝子編集技術CRISPR(クリスパー)を利用した世界初の治療法を米国で販売する認可を取得した。開発には、8年の歳月と莫大な費用がかかった。認可手続きの過程で政府に提出した届出書類は、100万ページを超える。
しかし、医学のCRISPR時代が始まった今、すでにこの手法の限界がいくつか見えている。
「Casgevy(キャスジェビー)」と呼ばれるこの治療法は、患者にとって過酷であり、かつ、非常に高額でもある。血液を作る骨髄幹細胞を取り出し、遺伝子編集を施してから再移植することになるため、患者は病院で数週間過ごさなければならない。バーテックスによれば、この治療にかかる費用は入院費を除いて220万ドルになるという。
バーテックスは、鎌状赤血球の症状が最も重い人々にとって、遺伝子修正が恒久的な治療になり得ることを証明した。対象者は米国内に約1万6000人存在し、体内でいびつな形の赤血球が血管を塞ぐことで、繰り返し危機的な痛みに襲われる。
しかし、どれだけの米国人が遺伝子編集治療を選択するかは分からない。この治療を受けた患者の1人、ジミ・オラゲアは、MITテクノロジーレビューに寄せた記事で、骨髄交換は「数カ月にわたるつらい道のり」であり、それが利用する上で障壁になるだろうと述べている。
これまでにも遺伝子治療法はいくつかあったが、価格が高いことと、患者が少なすぎることが相まって、市場で苦戦(リンク先は米国版)してきた。
「それは奇跡であると同時に、利用者数の増加を妨げる欠点でもあります」と、フラッグシップ・パイオニアリング(Flagship Pioneering)のパートナー、ジェフリー・フォン・マルツァーンは言う。マルツァーンは複数のバイオテック・ベンチャー企業を支援しているが、この鎌状赤血球症の治療法には関わっていない。「よくある二面性です」。
上記のような欠点があるため、もし鎌状赤血球症を緩和する錠剤が開発されれば、CRISPR療法は市場から一掃される可能性がある。錠剤であれば、道徳上のジレンマも解消されるかもしれない。バーテックスは今のところ、鎌状赤血球症患者が最も多い地域での遺伝子療法の提供を予定していない。
アフリカ中央部に広がる、ナイジェリアやガーナなどの低所得国が帯状に連なるアフリカ中央部は、世界の鎌状赤血球症患者の80%が暮らす地域である。しかし米国の研究者たちによれば、この複雑な治療介入を実施するには、病院、医学の専門知識、資金が不足しているという。
「よく聞かれる質問の1つは、どのようにしてこの治療法を世界のほかの国々に広げるのか、というものです」と、アルトシューラーCSOは話す。「その答えは、世界の他の国々で骨髄移植をすることではないと考えています。リソースがかかりすぎるし、インフラもない。もっとはるかに効率よく配布できる錠剤など、別の方法を見つけることで、目標をより早く達成できると考えています」。
3つの戦略
アルトシューラーCSOはMITテクノロジーレビューのインタビュー …