二酸化炭素除去産業が立ち上がろうとしている中、一部の専門家は、すでに間違った方向に進んでいると警告する。米国の政府機関でこの技術の進歩に責任を負っていた元職員2人は、企業の排出ガス浄化において、業界が利益を追求することに重点を置くと、地球を危険なレベルの温暖化から引き戻す取り組みが犠牲になるだろうと主張する。
多くの研究から、地球温暖化を抑えるには、今世紀半ば頃までに大気中から年間数百億トン規模の二酸化炭素を除去しなければならないであろうことが分かっている。そこで、大気から直接二酸化炭素を吸収する工場を開発するスタートアップ企業や、植物、鉱物、海洋が持つ温室効果ガス捕捉能力の活用に取り組む企業への多額の投資が生まれた。
だが、二酸化炭素除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)は、従来の市場の見方では、個人や企業が「必要とする」製品ではないという根本的な課題がある。むしろ、CDRを実行して総体的な社会的利益を得るには、廃棄物管理と同様に、より大きな世界規模の出資が必要になる。これまでのところ、企業に対する投資家や顧客、従業員、規制当局からの圧力が高まる中、企業が自社の気候変動対策の一環として、自主的に出資している資金が、CDRに必要な資金の大部分を占めている。例えば、ストライプ(Stripe)などの企業が始めた、10億ドルの「フロンティア(Frontier)」プロジェクトを通じた将来的な二酸化炭素除去の購入などだ。
各国政府からの支援も増えてきており、例えば米国政府は、二酸化炭素除去プロジェクトへの資金提供、二酸化炭素サービスを提供する企業への比較的少額な資金提供、二酸化炭素を貯蔵する企業への補助金の支給などの形で支援している。
しかし、研究者のエミリー・グルバートとシュチ・タラティは、12月11日に「カーボン・マネジメント(Carbon Management)」誌に掲載された長文の鋭いエッセーの中で、この分野の危険が高まっていると主張している。2人はかつて、米国エネルギー省化石エネルギー・炭素管理局に勤務していた。同局は、米国内における二酸化炭素除去産業の発展に向けた最近の取り組みを複数推進している機関だ。
グルバートとタラティは、廃棄物管理に近い公的資金による協調的な取り組みではなく、二酸化炭素除去製品を販売する営利目的で成長重視の業者が出現したことは、「地球温暖化を1.5℃に抑える、あるいは1.5℃まで引き下げるなど、実質ゼロや実質マイナス目標全般を可能にするCDRの能力に重大なリスクをもたらす」と書いている。
現在ノートルダム大学で持続可能なエネルギー政策の准教授を務めるグルバートは、「限られたCDR資源の配分を誤り、気候学的に本当に必要な需要を満たす助けとなる能力を利用できないことになれば、それは問題です」と語る。「目標に到達することは決してない、ということになります」。
彼女たちが抱く主な懸念のひとつは、企業が二酸化炭素除去について、進行中の気候汚染を打ち消す …