決着はついた。最初に提案されてから2年半、何カ月にもわたって展開されたロビー活動と政治的攻防、約40時間に及ぶ過酷な最終交渉を経て、欧州連合(EU)の立法者たちは、「AI法(AI Act)」案の大筋合意に達した。世界初の包括的なAI法である。
このAI法は、人工知能(AI)の利用が基本的権利にとりわけ大きなリスクをもたらす、医療、教育、国境監視、公共サービスといった分野への悪影響を緩和すると共に、「受け入れがたいリスク」をもたらすAIの利用法を禁じる画期的な法案と見られている。
「ハイリスク」なAIシステムは厳格な規則に従う必要があり、リスク緩和システムや良質なデータセット、より詳細な証拠文書、人間による監視などが義務付けられることになる。レコメンド・システムやスパムフィルターなど、大多数のAI利用には影響はない。
EU AI法は、現在は混沌とした無法地帯であり、大きな影響力を持っているAIセクターに対して、重要な規則と執行メカニズムを導入するという意味で、重要な政策だと言える。
以下に、EU AI法の要点をまとめた。
1. AI法は、重要かつ法的拘束力を備えた、透明性と倫理に関する規則の先駆けである
テック企業はAI倫理にどれだけ尽力しているかを語るのが大好きだ。だが具体的な策に関する話題となると、話が急に止まってしまう。いずれにせよ、行動は言葉よりも雄弁だ。「責任あるAI」のチームは、真っ先に解雇の対象にされることが多い。そして実際のところ、テック企業はいつでも、自らのAI倫理ポリシーを変える決断を下せる。たとえばオープンAI(OpenAI)は、「オープン」なAI研究所としてスタートしたが、競争的優位を守るために一般からのアクセスを停止した。他のあらゆるAIスタートアップ企業と同じである。
AI法はそれを変える。この規制により、テック企業にはユーザーがチャットボットや生体認証分類、感情認識システムを使う際に通知する義務が発生する。これは法的拘束力を伴う規則だ。さらにテック企業は、ディープフェイクおよびAI生成コンテンツへのラベル付け、AI生成メディアを検知可能な形でシステムを設計することも義務付けられる。主要AI企業は米国政府に対して単に、電子透かし(ウォーターマーク)を入れることをはじめとするAIの出処を追跡できるツールを開発すると自主的な約束をしているが、これはその一歩先を行くものだ。
さらにこの法案により、保険や銀行業といった必要不可欠なサービスを提供するすべての組織は、AIシステムの利用が人々の基本的権利にどのような影響を与えるのか、影響評価の実施を義務付けられることになる。
2. それでもAI企業には多くの自由が残されている
AI法が最初に提案された2021年当 …