インテルはなぜモービルアイを150億ドルで買収するのか?
ビジネス・インパクト

Intel’s $15 Billion Mobileye Buyout Puts It in the Autonomous Car Driver’s Seat インテルはなぜモービルアイを150億ドルで買収するのか?

インテルは、自動運転テクノロジーの主要企業であるモービルアイを150億ドルで買収すると発表した。当面の狙いはもちろん自動運転だが、モービルアイの強化学習には、他の産業で利用できる大きな可能性がある。 by Jamie Condliffe2017.03.14

インテルは、自律自動車関連のハードウェアを販売するモービルアイを150億ドルで買収する計画だと発表した。極めて高額だが、買収により、インテルは成長中の自律自動車産業で中心的存在を担う最先端の機械学習テクノロジーを手に入れることになる。

MIT Technology Reviewが”50 Smartest Companies of 2016“に選出したモービルアイの買収は、インテルにとって過去2番目に大きな規模(2015年に大手FPGAメーカーのアルテラを167億ドルで買収)だ。自律自動車関連企業のM&Aとしても、圧倒的に高額であり、自律自動車産業が今年爆発的に成長する兆しともいえる。

多くの自動車メーカーが自律自動車システムの中核部分にモービルアイのハードウェアを採用しており、同社は自律自動車業界に絶大な影響力がある。インテルはモービルアイの影響力と、半導体メーカーとしての自社の優れた技術を組み合わせて、買収完了と同時に自律自動車市場で大きなシェアを手に入れるつもりだ。インテルの期待通りになれば、すでに自律自動車事業に進出済みのエヌビディアやクアルコム等、他の半導体メーカーとも互角に戦えるようになる。

イスラエルのモービルアイは1999年の創業以来、自動車が周囲の状況を感知するためのセンサーや画像処理ハードウェア、ソフトウェアを自動車メーカーに供給してきた。モービルアイのテクノロジーは、アウディやゼネラルモーターズ、フォードの高級自動車の運転補助機能(走行中に安全な車間距離を自動で保つ機能など)として搭載されている。

モービルアイの製品は以前、テスラの自律運転システム「オートパイロット」にも使われていたが、昨年夏、テスラ車の衝突でドライバーが亡くなった事故について、テスラがモービルアイの画像処理ハードウェアを批判しようとしたことが原因で、2社は提携を解消した。

同時期、モービルアイはインテルやBMWと共同事業を開始し、その後、3社は2017年中に自動車の試験運転を始める予定だと正式に発表していた。このプロジェクトでは、BMWだけでなく他の自動車メーカーも使えるような自律運転システムの構築を目指している。

ただし、モービルアイは単なるセンサー・メーカーとして3社の共同事業に参入しているわけではない。MIT Technology Reviewは、2月に発表した「2017年版ブレークスルー・テクノロジー10」に選出した強化学習(プログラムなしで作業の達成方法をコンピューターが自己学習するシステム)分野の主要企業としてモービルアイの名前を挙げている。今年下期にBMWの自動車で試験されるシステムは強化学習を採用しており、インテルの狙いはまさに強化学習を使ったシステムなのだ。

モービルアイは、複雑なシミュレーション・システム(実際の道路ではなく、コンピューターが生成したシナリオで走行することで、自律運転システムが安全な運転操作を学習する)も開発している。また、モービルアイは、自律自動車が運転時に参照す高精細地図を実際の道路状態に即して適宜更新するため、自動車メーカーが道路状況データを共有したり結合したりできるプラットフォームを構築しており、BMWフォルクスワーゲンと提携済みだ。

こうした先行投資の成果により、モービルアイは自律自動車分野の主要企業としての地位を確立している。インテルが手に入れる技術に150億ドル分の価値はあるかどうかは、モービルアイ以外の自律運転テクノロジーが進歩し、自動運転車が広く市場で受け入れられるかどうかにかかっている。

(関連記事:Reuters, “モービルアイが自動車メーカーに走行データの提供を要求,” “2017年版ブレークスルー・テクノロジー10:強化学習,” “モービルアイ、死亡事故を起こしたテスラとの契約を打ち切ると発表”)