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予想以上に多かった、生成AIの二酸化炭素排出量
Stephanie Arnett/MITTR | Getty, Envato
AI's carbon footprint is bigger than you think

予想以上に多かった、生成AIの二酸化炭素排出量

生成AIを使って1つの画像を生成するには、スマートフォンをフル充電するのと同じくらいのエネルギーが必要だという研究が発表された。具体的な数字が計測されたことで、今後のAIの使用法などを考えるきっかけとなりそうだ。 by Melissa Heikkilä2023.12.15

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

現在、世界の指導者たちは気候変動対策を話し合う国連会議「COP28」のため、ドバイを訪れている(日本版注:12日に閉幕)。2023年は観測史上最も暑い年になる見込みであり、このCOP28は石油・ガス企業にとって運命の分かれ目となる。そして、クリーンテック・スタートアップの後押しにも新たな焦点と熱意が向けられている。つまり、リスクは最高潮に達しているのだ。

しかし、まだ十分に議論されていないことが1つある。それは、人工知能(AI)の二酸化炭素排出量についてだ。その理由の1つは、大手テック企業が自社の大規模なモデルの訓練と使用による二酸化炭素排出量を共有しておらず、AIの排出量を測定する標準化された方法が存在しないことだ。また、AIモデルの訓練が非常に多くの二酸化炭素を排出することは分かっているが、AIの使用に起因する排出量はまだ明らかになっていない。ただしあくまで、「これまでは」まだ明らかになっていないということだ。

本誌は、生成AIモデルを使用した場合の実際の二酸化炭素排出量を計算した新しい研究に関する記事を公開した。AIスタートアップのハギング・フェイス(Hugging Face)とカーネギーメロン大学の研究グループによると、1枚の画像を生成するには、スマートフォンをフル充電するのと同じくらいのエネルギーが必要だという。テック企業はこれらの強力なAIモデルを、ネット検索からメールに至るまであらゆるものに組み込んでおり、また、これらは1日に数十億回も使用されるため、地球に大きな影響を及ぼしているのだ(さらに詳しく知りたい場合は、ここから全文を読むことができる)。

最先端のテクノロジーが、必ずしも地球に害を及ぼすわけではない。このような研究は、排出量に関する具体的な数値を把握する上で非常に重要だ。また、研究を主導したハギング・フェイスのAI研究者、サーシャ・ルッチョーニ博士は、AIモデルが存在すると人々が考えているクラウドが、実際には非常に具体的なものであることを理解するのにも、この研究は役立つだろうと述べている。

これらの数字が分かれば、どのような場合に強力なモデルを使う必要があるのか、またどのような場合に、より小型で微調整されたモデルが適しているのかを考えることができると、ルッチョーニ博士は述べている。

この研究には参加していないMITリンカーン研究所(MIT Lincoln lab)の研究科学者、ビジェイ・ガデパリー博士も同様の考えを持っている。AIの用途別による二酸化炭素排出量を知ることで、人々はこれらのモデルの使用方法についての意識を高めることにつながるかもしれないという。

ルッチョーニ博士の研究は、AIの使用に関連する排出量が、AIを使用する場所によってどのように左右されるのかも浮き彫りにしていると、この研究には参加していないアレンAI研究所(Allen Institute for AI)のジェシー・ドッジ研究員は述べている。フランスなど送電網が比較的クリーンな場所におけるAIの二酸化炭素排出量は、米国の一部の地域などの化石燃料に大きく依存した送電網がある場所よりもはるかに低くなるのだ。AIモデルの実行によって消費される電力は固定されているが、送電網がより再生可能エネルギーで構成されている地域でこれらのモデルを実行することで、全体的な二酸化炭素排出量を削減できる可能性があるとドッジ研究員は言う。

気候変動は非常に不安を煽るものだが、ハイテク分野が地球に与える影響をよりよく理解することは不可欠だ。このような研究は、害を最小限に抑えながらAIの恩恵を享受できる創造的な解決策を考え出すのに役立つかもしれない。

結局のところ、測定できないものを修正するのは困難なのだから。

ディープマインドの新しいAIツールが、700種類以上の新材料を発見

EV用の電池(バッテリー)から太陽電池、そして半導体に至るまで、新材料は技術的ブレークスルーを大きく加速させる可能性がある。しかし、新材料を発見するには通常は数カ月、場合によっては数年にわたる試行錯誤の研究が必要だ。グーグル・ディープマインド(DeepMind)の新しいツールは、深層学習を使用して新材料を発見するプロセスを劇的にスピードアップしている。

「材料探索のためのグラフィカル・ネットワーク(GNoMe:Graphical Networks for Material Exploration)」と呼ばれるこのテクノロジーは、すでに220万種の新材料の構造の予測に活用されている。そして、そのうち700種類以上がすでに研究所で生成され、テストさている。GNoMEは、新材料の発見におけるアルファフォールド(AlphaFold)とも言えるだろう。GNoMEのおかげで、安定して存在できる材料の発見数は42万1000種類にまで増えた。これはこれまでの10倍近い数だ。 詳しくは、ジューン・キムによるこちらの記事を読んでほしい

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メリッサ・ヘイッキラ [Melissa Heikkilä]米国版 AI担当上級記者
MITテクノロジーレビューの上級記者として、人工知能とそれがどのように社会を変えていくかを取材している。MITテクノロジーレビュー入社以前は『ポリティコ(POLITICO)』でAI政策や政治関連の記事を執筆していた。英エコノミスト誌での勤務、ニュースキャスターとしての経験も持つ。2020年にフォーブス誌の「30 Under 30」(欧州メディア部門)に選出された。
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