化石燃料によるCO2排出量が過去最高水準、減少への道険しく
新たな報告書によると、気候変動の原因となる二酸化炭素の排出量は今年、過去最高を記録する勢いだ。一方で、大気中から二酸化炭素を除去する取り組みはまだ微々たるもので、まず排出量の大幅な削減が不可避だ。 by Casey Crownhart2023.12.08
化石燃料からの二酸化炭素排出量は、2023年末までに過去最高に達する勢いである。そして、最新の報告書によると、温室効果ガスを大気から除去する技術による回収量は、それに比べて微々たる量に過ぎないという。
12月4日に発表された今年の年次報告書「世界の CO2収支(Global Carbon Budget)」によれば、2023年の全世界の二酸化炭素排出量は368億トンに達し、2022年のレベルから1.1%増加すると予測されている。今年の国連気候変動会議(COP28)に出席するために代表団がアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに集まる中、排出量が記録的な年となったことは、劇的な変化を迅速に起こす必要性を浮き彫りにしている。
「一部の国では排出量削減に大きな進展が見られましたが、それでもまだ十分ではありません。私たちは進むべき進路から大きく外れています」とエクセター大学の講師で同報告書の執筆者の一人であるマイク・オサリバンは電子メールで述べた。
欧州の排出量は昨年から約7%減少し、米国では3%減少した。しかし、全体的に見れば、石炭、石油、天然ガスの排出量は依然として増加傾向にあり、インドや中国を含む国々では依然として排出量が増加している。この2カ国を合わせると、現在世界の化石燃料排出量の40%近くを占めているが、米国を含む西側諸国は依然として歴史上最大の排出国となっている。
「私たちが望むのは、化石燃料の排出量を急速に減少させることです」とハワイ大学マノア校の気候科学者であり、気候変動対策のスタートアップ企業であるカーボン・ダイレクト(Carbon Direct)の科学顧問であるデビッド・ホー教授は、電子メールで述べた。
しかし、今回の新しい報告書によれば、温室効果ガス排出問題の特効薬としてもてはやされることもある二酸化炭素除去技術には、深刻な限界がある。二酸化炭素除去技術は、大気中から温室効果ガスを回収し、温室効果ガスが地球をさらに温暖化させるのを防ぐ技術だ。国連の気候変動委員会は、温暖化を産業革命前の水準に比べて1.5℃未満に抑えるという国際的な気候目標を達成するためには、二酸化炭素除去が不可欠であるとしている。
問題は、現在、二酸化炭素除去がほとんど実施されていないことだ。2023年に直接空気回収(DAC)やその他の技術的アプローチで回収・貯蔵された二酸化炭素はわずか1万トン程度に過ぎない。
つまり、トータルで見ると、今年の化石燃料からの二酸化炭素排出量は、除去量の数百万倍ということになる。この比率は、二酸化炭素除去技術により排出量を相殺することは「不可能」であることを示している、とオサリバンは言う。「排出量を相殺することで、気候問題を解決することはできません」。
同報告書はまた、自然ベースのアプローチについても悪いニュースを伝えている。森林再生や植林のような方法で大気から二酸化炭素を吸収しようとするアプローチは、技術的なアプローチよりも二酸化炭素を大気から回収した量が多かった。しかし、そのような取り組みによる効果も、現在の森林伐採やその他の土地利用の変化によって打ち消されつつある。
「この危機を解決する唯一の方法は、化石燃料産業を大きく変えることです」とオサリバン講師は言う。二酸化炭素除去のような技術は、「排出量が大幅に削減されて初めて重要になります」。
今年に入って発表された国連の気候変動報告書に示されているように、排出量削減を短期間で前進させるための手段はたくさんある。風力発電や太陽光発電のような再生可能エネルギーの導入、森林破壊の防止、メタンガス漏洩の削減、エネルギー効率の向上などはすべて、2030年までに排出量を半減させられる低コストの解決策の一部である。
最終的には、二酸化炭素除去も解決策の一つになりうるが、やるべきことがたくさん残されている、とホー教授は言う。二酸化炭素除去技術を研究・開発し、さまざまなアプローチのリスクと利点を把握し、生態学的・環境正義的問題を回避しながら規模を拡大できるものを見極めるには、今が絶好の機会だと同教授は付け加える。
しかし、そのいずれも、この10年間で必要とされる排出量削減を達成するのに十分な速さでは実現しそうにない。「世界の CO2収支」の中で研究者チームは、気候限界にどれだけ近づいているかを見積もっており、あと約2750億トンの二酸化炭素を排出すると、温暖化が1.5℃を超えると推定している。このままでは、世界は約7年以内に、つまり2020年代末頃に炭素予算を使い切ることになる。
「我々には主体性があります。不可避なことなど何もありません」とオサリバン講師は言う。「世界は変わるし、変わろうとしています。スピードを上げる必要があるだけです」。
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- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。