EVや再エネは環境に悪い?気候テックの厄介な質問に答える

Your guide to talking about climate tech over the holidays EVや再エネは環境に悪い?気候テックの厄介な質問に答える

「EVはガソリン車より環境に悪いのでは?」「再エネの大量のゴミはどうする?」など、ちょっと厄介な質問に答える方法をご紹介しよう。 by Casey Crownhart2023.12.06

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

年末年始がやって来る。おいしいものを食べ、家族と充実した時間を過ごし、気候変動について難しい質問に答える季節だ。いや、もしかすると、最後に挙げたのは私だけに起こることかもしれないが。

気候記者という肩書きの私がパーティに顔を出すと、仕事についての質問を受けることが多い。もっと幅広く、気候変動や気候テクノロジーについて聞かれることもある。そうした質問は時々、熱の入った議論を引き起こすこともある。そうなった場合、正直にいうと、私は話題を変えたり、クッキーを探してその場からこっそり離れたりしている。しかし、そのような会話から分かったことがある。気候変動について、多くの人がテレビのニュースやインターネット、または読書クラブの友人から、紛らわしい話を聞いているのだ。そして、もっと多くを知りたがっている。

ホリデーシーズンが近づく中、あなたも似たような経験をするかもしれない。そこで、話題に上りそうな気候テクノロジーにまつわる質問をいくつか掘り下げてみよう。   

厄介な話題その1:電気自動車は環境に悪い

電気自動車(EV)はガソリン自動車よりも環境に悪いと聞いている。結局のところ、どこかから動力を得なければいけないことに変わりはない。 

現在ではほとんどの場合、バッテリー駆動車の温暖化ガス排出量は内燃機関車よりも少なくなっている。その正確な数値差は、世界のどこに住んでいるのか、送電網の供給源は何か、そしてどんな車を運転しているのかによって変わってくる。

国際クリーン交通委員会(ICCT:International Council on Clean Transportation)の2021年の調査で分類されているとおり、地域差は非常に大きく出ることがある。米国および欧州では、電気自動車(EV)はガソリン車と比較して排出量を60%から70%削減できる。送電網への電力供給に石炭などの化石燃料が比較的多く使われている中国やインドのような国では、削減率は低く、インドでは20%から35%、中国では35%から45%となっている。

車両の大きさも重要だ。不利な車種を選んでしまえば、バッテリーを搭載していても、内燃機関を搭載した車よりも地球にとって悪影響をもたらす結果になることがあるのは事実だ。たとえば、ハマー(Hummer)のEVである。この車は、走行距離1.6キロメートルあたり341グラムもの二酸化炭素を排出する怪物だ。クオーツ(Quartz)が調査して 2022年に公開した分析によると、これはガソリンで走るトヨタカローラの排出量(269グラム)を超えている。

覚えておくべき重要ポイントのひとつとして、EVには今後、より良いものへ進化し続けるための明確な道筋がある。 バッテリーの効率化は進んでいる。リサイクルの取り組みも進んでいる(詳細は後述する)。そして世界中の送電網では、風力、太陽光、水力、原子力など、低炭素源からの送電が増加している。これらすべてが積み重なることで、EVは時間とともに、いっそうクリーンになり続けるだろう。

厄介な話題その2:採掘は環境に悪い

クリーンテックを生み出す材料のための、多数の採掘はどうだろうか。地球の破壊につながっているのではないか。   

これは難しい問題だ。気候変動に対処するために必要になるあらゆるものには、多くの複雑さが絡んでいる。どんな種類の採掘にも、極めて現実的な環境問題と人権問題が関わっている。

気候変動の解決のために求められるすべてのテクノロジーを構築するには、たくさんの採掘が必要になる国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)によると、実質ゼロ(ネットゼロ)目標を予定通り達成するために必要な鉱物は、2040年までに約4300万トンとされる。

鉱物によってはかなりの低濃度で存在するものもあり、そのことを考慮すれば、採掘量はさらに大きくなる。たとえば、送電線からEVバッテリーまであらゆるものに使用される一般的な材料である銅を見てみよう。現在採掘されている鉱山では、銅の濃度は1%未満であることが多い。そのため、1トンの銅を手に入れるには500トンを超える岩石を動かす必要がある。

しかし仮にすべての廃石を計算に入れたとしても、エネルギー転換に要する採掘量は、現在の化石燃料を用いた場合より少なく済む可能性が高い。その詳細は、どれだけリサイクルできるのか、そしてテクノロジーがどのように進化するのかにもかかっている。さらに詳しく知りたいなら、比較資料としてハナー・リッチーによるこちらの優れた分析を強くお勧めする。

どんな採掘も、鉱山付近の環境や周辺住民にとっては有害になり得る。したがって、これらのプロジェクトがどのように進行しているのか、そして新しいテクノロジーの負担をどうすれば軽減できるのかに十分な注意を払う価値はある。しかし、気候変動テクノロジーがまったく新しいレベルの採掘を生み出すことはない。

厄介な話題その3:再エネは大量のゴミを生み出す

風力タービンのブレードやソーラーパネル、EVバッテリーを埋立地に積み上げているらしい。「クリーン」なはずのテクノロジーが生んでいる大量の廃棄物は大きな問題になるのではないか。 

クリーン・エネルギーのためにより多くのテクノロジーを作り、稼働させようと、製造業者は競い合っている。つまり、数十年で耐用年数を終える多くのそれら製品の処分について、どうすればいいのかを考えていく必要があるということだ。

ソーラーパネルを例にとってみよう。2050年には、ソーラーパネルからの廃棄物は累計1億6000万トンに達するとも言われている。とんでもない量に聞こえるし、実際にそのとおりだ。しかし、より大きな問題がある。その頃までに、合計で約18億トンの電子廃棄物が作り出されているというのだ。さらに、プラスチック廃棄物は120億トンを超えるだろう(他の比較については、インサイド・クライメート・ニュース(Inside Climate News)の記事と、それらの数字の引用元であるネイチャー・フィジークス(Nature Physics)誌の元記事をご覧いただきたい)。

全体として、気候変動テクノロジーが生む廃棄物は、はるかに重大な問題の一面となる可能性が高い。それでも、古いテクノロジーをただ埋め立て地に捨てるべきではない理由はたくさんある。それらの製造に必要な材料の多くは高価であり、再利用すれば、採掘ニーズを軽減できるのだ。

良い知らせとしては、ソーラーパネル、リチウムイオン電池、さらには風力タービンのブレードまで、リサイクルの取り組みが幅広く進められていることがある。廃棄物問題が迫っているのは間違いない。しかし、現時点でも、将来的にも、その問題に対処する機会は豊富にあるのだ。

最後に、祝日の食卓で気候テクノロジーについて話す場合は、会話よりも喧嘩をしたい人がいることを覚えておくといいだろう。そんな時には、とにかく話題を変えるのも手だ。他の話題が思いつかなければ、カニの進化について話すのをお勧めする。カニは独自の進化を繰り返してきたために、その過程にはカーシニゼーション(カニ化)という名前が付いているのだ。

カニのこと、あるいは気候テクノロジーについての会話を楽しみながら、マッシュポテトをいただこうではないか。

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EV、特にハイブリッド車の話題については、昨年公開したこちらの記事を一読いただきたい。超大型EVについて、いくらかの葛藤を抱えながら擁護した私の記事はこちらだ。

採掘については、こちらのインタビュー記事をお勧めする。米国エネルギー省幹部に、クリーン・エネルギーにとっての重要鉱物について取材したものだ。併せて、こちらの記事も紹介しておこう。クリーン・エネルギーのための採掘に関する3つの神話を検証している。

リサイクルに関心があるなら、風力タービンのブレードソーラーパネルバッテリーのリサイクルについての最近の記事をお読みいただきたい。

送電網をAIはどう変えるか?

複雑さを増す一方の送電網には、人工知能(AI)が役に立つかもしれない。AIは、さまざまな方法で送電網の速度を速め、その回復力を高められるのだ。より迅速な意思決定を事業者に許可することから、EVをソリューションの一部にすることまで可能だ。本誌のジューン・キム記者の記事をどうぞ。

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