令状なしで通信監視、米FISA 702条延長のゆくえは?
CIAやFBI、NSAなどの米国の情報機関は、法律に基づき米国人と外国人の通信記録を令状なしで収集できる。この法律の更新期限が近づいてきた今、知っておくべきことをまとめた。 by Tate Ryan-Mosley2023.12.11
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
11月中旬の私のSNSのフィードは、読者の皆さんに注目していただきたい重要な技術政策に関する議論でいっぱいだった。話題になっているのは、現在物議を醸している米国の監視プログラムの更新だ。
外国情報監視法(FISA)第702条に概説されているこのプログラムは、2008年に導入されたもので、米国政府機関の権限を拡大し、海外のスパイやテロリスト、サイバー犯罪者に関する電子的な「外国諜報情報」を令状なしで収集可能にすることを目的としている。
別の言い方をするなら、テック企業は電話、テキスト・メッセージ、メールなどの通信記録を、米国連邦捜査局(FBI)、米国中央情報局(CIA)、米国国家安全保障局(NSA)などの米国情報機関に引き渡すことを余儀なくされている。米国外の人たちとコミュニケーションを取る米国人に関する多くのデータが、これらの機関の捜査に大量に巻き込まれてしまうのだ。批評家たちはこのプログラムは憲法違反だと主張している。
情報機関が職権を乱用してきた過去があるにもかかわらず、第702条は2012年と2017年の両方で問題なく更新されてしまった。このプログラムは議会によって定期的に更新される必要があるが、12月末に再び期限が切れる予定になっている。 しかし超党派の団体が、このプログラムによって広範囲にわたる監視が可能になることへの懸念から、プログラムの改革を求めている。 この件について知っておくべきことを以下で説明しよう。
外国情報監視法(FISA)第702条に関する批判的な意見
特に懸念されるのは、このプログラムは米国人以外を対象としているにもかかわらず、米国人が海外の誰かと通信すると、令状なしにその多くのデータが流されてしまうことだ。2022 年のプログラムに関する年次報告書では、情報機関が前年中に推定340万人の「米国人」を捜索していたことが明らかになった。異常に多い数字だが、FBIは米国のインフラを標的としたロシアを拠点とするサイバー犯罪の捜査の増加に起因していると考えている。批評家たちは、FBIがこのプログラムを利用して「ブラック・ライヴズ・マター(黒人の命は大事だ)」の活動家や国会議員を含む米国人を監視していることに警鐘を鳴らしている。
11月13日付けの、チャック・シューマー上院多数党院内総務に宛てられた書簡の中では、米国自由人権協会(ACLU:American Civil Liberties Union)、民主主義とテクノロジーセンター(Center for Democracy & Technology)、報道の自由財団(Freedom of the Press Foundation)など25以上の市民社会団体が、「たとえ短期的な再認可であっても、強く反対する」と主張している。
またウィキペディアを運営する財団であるウィキメディア(Wikimedia)財団も、国際的なオープンソース・プロジェクトが監視の対象となりやすいとして、このプログラムの現在の形態に反対している。「ウィキメディアのプロジェクトは、無料の知識を共有し、世界中の何十億人もの読者にサービスを提供する、世界中の約30万人のボランティアによって編集および管理されています。現在、第702条に基づき、これらのプロジェクトに関するすべてのやり取りは米国国家情報局(NSA)による監視の対象となっています」とウィキメディア財団の広報担当者は述べている。「研究によると、オンラインの監視はウィキペディア・ユーザーに『萎縮効果』 を及ぼし、ユーザーは特定の種類の情報を正確に記録したりアクセスしたりすることに対する政府の報復の脅威を避けるために、自己検閲を始めることが明らかになっています」。
では、第702条の支持者はどのような意見なのだろうか?
このプログラムの再認可を主に支持しているのは情報機関自身であり、第702条により外国の敵対者や、ランサムウェアやサイバー攻撃などのオンライン犯罪活動に関する重要な情報を収集できると主張している。
FBIのクリストファー・レイ長官もこの第702条を支持しており、近年のFBIの手続きの変更により、監視対象の米国人の数が2021年の340万人から2022年には20万人に減少していると指摘した。
またバイデン政権も、改革を伴わない第702条の再認可を広く推進している。
超党派政策センターの上級政策アナリストのザビーネ・ネシュケは、「第702条は、法的および裁判所が承認した手段を通じて、米国の世界的な電気通信の拠点を活用する情報機関にとって必要なのです」と語っている。 「最終的には、議会は国家安全保障の確保と個人の権利の保護との間でバランスを取らなければなりません」。
改革はどのようなものになるのか?
政府監視改革法(Government Surveillance Reform Act)と呼ぶプログラム改革案が11月7日に発表された。この改革案は、米国民に関する情報を収集する政府の権限を縮小することに焦点を当てている。
この新しいプログラムでは、アメリカ人の位置情報やWeb閲覧および検索記録を収集するための令状と、その情報取得が「外国の諜報情報を取得する可能性が合理的に高い」ことを示す文書が必要となる。 11月15日の下院国土安全保障委員会の公聴会で、FBIのレイ長官は令状の要求はこのプログラムにとって「重大な打撃」になると述べ、これを「事実上の禁止」と呼んだ。
改革法案の共同提案者であり、上院情報特別委員会の委員でもあるロン・ワイデン上院議員は、権限の一部が制限されない限り、第702条の更新には投票しないと述べた。ワイデン上院議員はMITテクノロジーレビューへの声明の中で、「議会は、政府による令状のない米国人監視の改革について本格的な議論をしなければなりません」と述べている。 「従って、政権と議会指導者は、米国人のプライバシーに対する常識的な保護を採用し、同時に主要な国家安全保障権限を拡大することを支持する、圧倒的な超党派の連合の意見に耳を傾けるべきです」。
この改革法案は、一部の市民社会団体が期待していたように、米国外の人々を監視する政府の権限を制限するものではない。
このプログラムの改革が可決されるかどうかはまだ分からないが、情報機関がこれほど広範な超党派の反対派に直面したことはかつてなかった。 今後の動向を見守る必要がありそうだ。
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テック政策関連の注目動向
研究者や技術者の中には、人工知能に関する新しい、より正確な表現を求めている人がいる。グーグル・ディープマインドは、本誌のウィル・ダグラス・ヘブン編集者が記事にしているように、AGIと呼ばれることが多い汎用人工知能のさまざまなレベルを概説する論文を発表した。
また研究チームは、AGIの5つの段階も説明している。新興(彼らの見解では、チャットGPT(ChatGPT)やバード(Bard)のような最先端のチャットボットが含まれる)、有能、エキスパート、名手、そしてスーパーヒューマン(他人の思考の解読や未来の出来事の予測、動物との会話など、人間がまったくできないタスクを含む、幅広いタスクをどの人間よりもうまく実行できる)の5段階である。研究チームは、「新興」を超えるレベルはまだ達成されていないと指摘している。将来は、AIについて言及するときにどのような言葉を使用すべきかについて、さらに多くのことが聞かれるようになることだろう。
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- テイト・ライアン・モズリー [Tate Ryan-Mosley]米国版 テック政策担当上級記者
- 新しいテクノロジーが政治機構、人権、世界の民主主義国家の健全性に与える影響について取材するほか、ポッドキャストやデータ・ジャーナリズムのプロジェクトにも多く参加している。記者になる以前は、MITテクノロジーレビューの研究員としてニュース・ルームで特別調査プロジェクトを担当した。 前職は大企業の新興技術戦略に関するコンサルタント。2012年には、ケロッグ国際問題研究所のフェローとして、紛争と戦後復興を専門に研究していた。