KADOKAWA Technology Review
×
【冬割】 年間購読料20%オフキャンペーン実施中!
現代科学で「心を読む」のは
どこまでできますか?
Ariel Davis
生物工学/医療 Insider Online限定
The Biggest Questions: Is it possible to really understand someone else's mind?

現代科学で「心を読む」のは
どこまでできますか?

他人が心の中で何を考え、何を感じているのか、外部から読み取ることはどこまで可能なのだろうか? 科学者たちは、現代的な人工知能を歴史的な手法とを組み合わせることで、この難問に取り組んでいる。 by Grace Huckins2023.12.07

技術的に言えば、神経科学者があなたの心を読むことは何十年も前から可能になっている。しかし、それは簡単なことではない。まず、巨大な磁気共鳴機能画像法(functional Magnetic Resonance Imaging:fMRI)スキャナーの狭い孔の中で、おそらく何時間も、映画を見たりオーディオブックを聴いたりしながら動かずに横たわっていなければならない。その間、機械がさまざまな音を立てながら、神経活動を記録する代わりに、次々に変化する脳内の血流パターンを記録する。そして、あなたが志願した実験の研究者たちは、血流の変化と、映画のコマや話された言葉の一瞬一瞬の組み合わせをソフトウェアに流し込み、見聞きしたものに対する脳の反応の特異性を学習させる。

もちろん、どれもあなたの同意なしにはできないことだ。しばらくの間はあなたが望む限り、あなたの思考はあなた自身のものであり続けるだろう。しかし、もしあなたが狭苦しいスキャナーの中で何時間も耐えることを選ぶと、ソフトウェアはあなたの脳内の血液の動きを分析するだけで、あなたが見たり聞いたりしていたものをカスタムメイドで復元できるように学習するだろう。

2011年、カリフォルニア大学バークレー校の神経科学者たちが、上記のようなプログラムを訓練して、被験者たちが見ていたビデオの異世界風の復元動画を作り出した。さらに最近では、ステーブル・ディフュージョン(Stable Diffusion)やGPTのような生成AI(ジェネレーティブAI)ツールを利用して、完全に正確ではないが、より現実に近い形で、神経活動に基づいて映画やポッドキャストを復元した研究者もいる。生成AIが呼び込んできた大げさな宣伝と投資を考えれば、この種の刺激を復元するテクノロジーは必然的に向上し続けるだろう。特に、イーロン・マスクのニューラリンク(Neuralink)が脳インプラントを大衆に普及させることができれば、なおさらである。

誰かの脳の活動から映画を抽出するというアイデアは刺激的かもしれない。しかしそれは「マインド・リーディング」の非常に限定された形にすぎない。あなたの目を通した世界を本当に体験するには、科学者たちは、あなたが見ているのはどんな映画かということだけでなく、その映画についてあなたが何を考え、どのように感じ、何を思い起こしたか推察できなければならないだろう。そのような内面的な思考や感情に触れることは、はるかに難しいことだ。研究者たちは、誰かが見ていた夢の具体的な内容が、2つの候補のうちどちらに関係するものなのかを推察することに成功している。しかし、もっと制約の少ない状況では、このような手法で推察することは難しい。

なぜなら、機械学習アルゴリズムに脳の信号の意味を学習させるには、脳の信号と、それに対応する内容に関する情報の両方を、完全に同調して対になった状態で揃えなければならないからだ。人間の内面的な体験を研究するとき、科学者は、人々が頭の中で起こっていることを伝え、信頼できる可能性のある言葉にしか頼れない。「それは、測量のように、人々が体験したことを直接測定するようなものではありません」と、オーストラリアのマッコーリー大学の哲学科で講師を務めるラファエル・ミリエールは言う。

脳の活動を主観的な体験と結びつけるには、言語の曖昧さや不正確さに正面から対処する必要がある。人の内面の精神的豊かさをとらえるために脳の活動と主観的な体験を結びつけようとする場合は、なおさらである。そんな骨の折れる仕事に対処するため、ミリエール講師を始めとする研究者たちは、現代的な人工知能を、哲学的な面接戦略や古代の瞑想修行などの、何世紀もの歴史を持つ手法と結びつけている。それによって少しずつではあるが、人間の体験の特定の側面を生じさせる脳の領域やネットワークの一部が解明され始めている。

「それはいくらかでも進展させることができる問題であり、これまでも進展させてきました」と、ミリエール講師は言う。「簡単とは言いませんが、意識の壮大な謎を解くことよりは間違いなく扱いやすいと考えています」。

極端を調べる

300年以上前、哲学者のジョン・ロックは、青という色は誰にとっても同じに見えるのだろうか、私の体験している「青」はあなたの体験している「黄」に近い可能性があるのではないかと問いかけた。このような微妙な問いに答えることが、神経科学が目指すはるか遠くにある地平線なのかもしれない。しかし、現在のような初期段階では、神経科学はより劇的な体験に集中する必要がある。「日常生活における普通の覚醒状態の特徴とはどのようなものか、よりよく把握したいのであれば、別の種類の状態へ移行するときに何が起こるのか確かめることが役に立ちます」と、ミリエール講師は言う。

科学者の中には、深い瞑想状態や強烈な幻覚症状に焦点を当てる者もいる。ミリエール講師の場合、自己意識(自身が思考し、特定の場所と時間に存在していると感じる意識)を理解することに特に関心がある。そのため、幻覚剤でトリップ状態の人の脳に何が起こるのか研究している。トリップ後の被験者 …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
【冬割】実施中! 年間購読料20%オフ!
人気の記事ランキング
  1. Promotion Innovators Under 35 Japan × CROSS U 無料イベント「U35イノベーターと考える研究者のキャリア戦略」のご案内
  2. The 8 worst technology failures of 2024 MITTRが選ぶ、 2024年に「やらかした」 テクノロジー8選
  3. AI’s search for more energy is growing more urgent 生成AIの隠れた代償、激増するデータセンターの環境負荷
▼Promotion 冬割 年間購読料20%off
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る